短大を卒業する年、
のどかは初めて 「大人の世界」に触れた。
それは、期待していたような温かい導きではなく、
静かに心を曇らせる『洗礼』だった。
世の中には、無垢な若者を
自分の色に染めたがる大人がいる。
「これが現実だよ」「社会ってこういうものだ」
そんな言葉を盾にして、
若い心に自分の価値観を押しつけてくる人たちだ。
のどかの場合、その相手は学校の先生だった。
いつも優しい声で近づいてきて
まるで親切のように言葉を投げかけてくる。
気づけばいつもそばにいて
のどかの心にじわじわと重たい影を
落としていった。
先生の年齢はよくわからない。
ただ、見た目は六十歳くらいに見えた。
のどかは思った。
「先生は何を言っているのだろう。
大人の言うことだから、
聞かなきゃいけないのかな…?」
けれどある日、ふと気づいた。
先生と話した後は、いつも胸の奥が 沈んでいく。
自分の色が薄く、
濁っていくような感覚があった。
反対に、友人と話した日は、
心の奥がふわっと明るくなる。
その違いを感じた瞬間、
のどかは静かに理解した。
「私の色を濁らせる人と、
私の色を育ててくれる人がいる。
すべての大人が正しいわけではない。」
その気づきは、のどかにとって
『大人になるための第一歩』だった。
