オーストラリア事件
矢沢は87年、現地法人を設立。スタジオや音楽学校を核にした26階建てビルの建設に乗り出したが、バプル崩壊で延期。
矢沢マネーに食指を助かしたのが現地責任者と東京事務所の金庫番だった。2人は予定地を担保に入れ、勝手に別の不動産事業に投資して失敗。
用地は差し押さえられ、売却されていた。銀行レターヘッドや支店長サインまで偽造した巧妙な手口。
詐欺、横領、公文書偽造など73件で起訴。豪州犯罪史上、被害額2位(当時)の大型詐欺事件に発展した。03年。2人の有罪確定。
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「よくぞこれだけ俺(おれ)の周りでポンコラポンコラ起きるなってありましたもの。極め付きはオーストラリアでパコーンとやられましたよね」。ゴールドコーストを舞台にした詐欺事件である。
「(被害額)35億円だから。ギブアップですよね。普通もう立ち上がれないじゃないですか」銭こそが正義。銭さえあれば正義も悪魔も全部買える。
「昔よくお金のこと言ったじゃないですか。あこがれだったんだね。それとかけ離れた幼少時代を送ってきたから」。
その矢沢に詐欺被害という現実。しかも友人と側近の裏切りである。
「髪の毛抜けなから、過呼吸の手前ぐらいまで、精神的にそりゃあ、なるじゃないですか。はめたヤツが許せない」。
身がよじれるような憤り。苦い酒。「自分に対しても悔しかったし」。深い自責。世間の好奇の目が肌に刺さるようで、妻と子ども3人を連れ、米国に移住した。自壊寸前の矢沢の心に、妻のひと言がしみた。
あなた知ってる?人を恨まば穴2つって。
「人を恨んでばかりいても、解決しないってことよ。自分も2つ目の穴に落ちるよ。陥れた連中は忘れて、借金は背負って、返してということを、彼女は言いたかったんじゃないの」