レビューではネガティブなことを書きましたがよかったところも書いてみます。
好きな女の子に対する男の子の気持ちを書かせたら天下一品。
恋愛小説の王道です。
P124
「じゃあ、なあに?」
「いや。ただ、いつもと顔つきが違うなあと思ってさ」
「え、そう? どんなように違ってる?」
「うまく言えないけどさ。なんていうかこうーー」
「……?」
「すごく、大人の顔してるっていうか」
かれんが、なんとも複雑な表情になる。
「それって、いつもは子どもっぽいって聞こえるんだけど」
「そういう意味じゃないよ」
「じゃあ--どっちかっていうと、褒め言葉だと思っていいの?」
「どっちかっていわなくても、褒め言葉のつもりなんだけどな」
かれんは、笑った。
花が咲くような、というのはこういう笑顔のことをいうんだなあと見とれてしまってから、やばい、と思った。これは俺、そうとう重症なんじゃないか?
P130
ここ数年の間に何度もおばあちゃんに会いに来て、かれんが働きだしてからもちょくちょく訪れていた僕を、ホームの人たちみんながいつのまにか覚えてくれたらしい。お花ちゃんのいとこさん、という身分は、ここでは問答無用の歓迎とセットになっているのだ。
こうして僕を受け入れてくれる人たちのまなざしの温かさはすべて、かれんがこの一年あまりの間に自力で築いた信頼に根ざしているものなんだよな、と思うと、しみじみと晴れがましかった。
たいした女に惚れたものだ。
そう思っても、前ほど卑屈になったり無駄に焦ったりしない自分に、ちょっとびっくりする。
もしかすると、ついさっきの、かれんの表情のせいだったかもしれない。何の予告もなく訪ねてきた僕を見つけた瞬間の、あの顔。あんなにも嬉しそうな、あんなにもほっとした顔を見せてくれるとわかっていたら、もっと早く来てやるんだった。
〈たとえなんにも話さなくたって、好きな人にただそばにいてもらうだけで気持ちが安定するってこと、女にはあるんだよ?〉
星野の言うのは本当なんだろうか。僕がかれんにとってそんなに大きな存在であれるのなら、どれほど嬉しいことだろう。
おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 4 凍える月