こんにちは!村上航洋です。

先日の夕方、事務所の棚の奥から古びた小さなラジオのチューナーダイヤルが出てきました。手のひらに収まるほどのプラスチック製の小さなツマミです。指先で回してみると、カチカチという心地よい手応えとともに、細かな目盛りが静かに動きます。

いまのスマートフォンやデジタル機器は、ボタンひとつで目的のチャンネルに一瞬でつながります。雑音もなく、クリアな音がすぐに聞こえてくるのが当たり前になりました。しかし、このアナログなダイヤルは違います。目的の周波数にぴったり合わせるためには、指先に少しだけ力を込めたり抜いたりしながら、じっくりと微調整を重ねなければなりません。

少しでも行き過ぎるとザーザーという雑音の中に声が埋もれてしまい、手前すぎると別の番組が混ざり込んでしまいます。あえて目的の音にたどり着くまでの不便さや、曖昧な中間地点が存在しているのです。

このダイヤルを回す感覚は、私たちが普段おこなっている人との対話にとてもよく似ていると感じました。相手が今どんな気持ちでいるのか、何を伝えようとしているのかを探る作業は、まさにラジオの周波数を少しずつ合わせていく過程そのものです。

効率だけを求めると、相手の言葉の意味だけを最短で受け取ろうとしてしまいます。しかし、お互いの心が本当につながる瞬間というのは、ぴったりと波長が合う手前の微妙な調整の時間にこそ隠されています。ノイズ混じりの言葉の中に耳を澄ませたり、相手の沈黙に寄り添ったりする時間があるからこそ、声が綺麗に聞こえたときの喜びが大きくなるのです。

組織やチームの中でも、全員の波長が最初から揃っていることはありません。少しずつダイヤルを回しながら、お互いの声が心地よく響き合うポイントをじっくり探していく姿勢が、本当の信頼関係を育んでいきます。

忙しい日々の中では、つい手っ取り早い答えを求めてしまいがちです。けれど時には、指先の感覚を確かめるように、誰かとの波長をじっくり合わせる時間を大切にしたいものです。

チューナーの合間に流れる小さな雑音さえも、対話を深めるための愛おしいプロセスなのかもしれません。