寄蝋梅園、寄集落(2020.2.9) | 旅の虫速報

寄蝋梅園、寄集落(2020.2.9)

murabie@早朝なのに混んでいる小田急線です。
またも2週間前の報告です。

先週に引き続き、この時期ならではの花の風景を見に行くべく、
今日はふじさん号に乗って松田の方へ行くことにしました。
朝も少しだけゆっくりと、空が白み始めた頃に家を出て、今日も快晴の
空の広がる中、ふじさん号から多摩川や相模川、丹沢の山並みや広大な
田園の風景を楽しみ、最後に山並みを抜けて現れた真白な富士山の姿を
少しだけ拝んでJRの松田駅へと降り立ちました。
数年前に訪れた、斜面の中腹の河津桜の園地が、今年もまたピンク色に
染まり始めているところのようでした。

今日は寄(やどりき)というところにあるという蝋梅園を目指し、新松田
駅前からのバスに乗り込みました。
朝早くからハイキング仕様の客がたくさん乗り込んだので座ることはできず、
立席で山を登る車両に身を任せていきます。
松田の街をあとにしたバスは、小田急の線路に沿って引き返すような形で、
所々セメント工場や資材置き場などが点在する、丘陵に挟まれた山道を
進みます。
列車からも見えていた集落のところに松田ランドという、なんか遊園地でも
あったんだろうかって感じの場違いな名前のバス停があり、バスはここから
線路と別れ、急な登り坂を登り始めます。
湯の沢団地という新興住宅地自体はどこにでもありそうな高密度な住宅地
でしたが、ぐいぐいと坂を上っていくので団地を抜けるころにはかなり
高い所へと進んでいて、道沿いには谷底にある川の流れを辛うじて
覗き込めるくらいの深い谷が寄り添い、蛇行する道路沿いには採石場となる
水平に切り刻まれた山も聳え立って、雑木林へと進んでいきます。
そしてほどなく田代向という所から、高い丘陵に囲まれて谷底に広がる
里山の集落へと進むようになり、高台に素朴な小さな民家の並ぶ街道を、
坂を上り下りしながら進んで、最後に川沿いの低地に広がる集落に向かって
急な坂を下りて、終点の寄バス停へとたどり着きました。

バス停は自然休養村管理センターという、公民館のような施設に隣接して
いて、蝋梅まつりの期間中はグランドも含めて駐車場が解放され、
空地には出店も出るようでしたが、まだ朝早くて、バスから降りた人以上の
賑わいはまだなく、駐車場にもまだ車は止まっていない状態でした。
すぐ近くに谷を深く削るように流れる中津川は、丘陵に挟まれて広い
砂利の河原を伴いながら谷底を流れ、上流の方には青空のもと、様々な
色調の緑色や黄土色の山肌を見せる精悍な山並みが重なる雄大な風景が
展開していました。
川を囲む斜面の中腹へ上る住宅地の中の急坂をゆっくりと登り、畑も
見られる素朴な農村の集落を貫いていくと、坂道沿いの斜面に茶畑が
広がり、振り返れば谷底の川沿いの集落が展望できるようになっていて、
茶畑の上に見られるようになった、大量の蝋梅が咲いて淡黄色に
染め上げられた斜面へ向かって、引き続き坂道を登っていきました。

寄蝋梅園の敷地へと歩みを進めると、順路沿いにさっそく、大量の淡黄色の
つやつやした小さい花をつけた蝋梅の木々が、トンネルを作るように
並んでいる所でした。
去年秩父で見たよりも色は淡いような気がしましたが、その時よりも
とにかく一面が黄色に染まって見えるほど、花が高密度に咲いているような
印象を受けました。もちろん辺りにはいい香りもほのかに漂ってきます。
大量の淡黄色の花をつける木々に望遠レンズを向けて、青空のもとに
映える花の姿を大きく写真に収めたり、園内に削られる小さい渓谷のような
所もまた黄色い花に囲まれているのを見つけたり、順路から外れても至る所で
黄色い花に囲まれて過ごすことができたり、特に展望台と称される所で
なくても、黄色く染められた園内の広大な斜面やその周辺の茶畑、
そして中津川沿いの谷底を埋めるように広がる寄の集落を爽快に展望
できたりする、隅々まで楽しく歩いて回れる園地を思いのままにのんびりと
散策し、満開の蝋梅の作る華やかな風景を存分に楽しむことができました。

園内の斜面には農道も通っていて、茶畑も大きく広がり、やはり黄色い蝋梅に
彩られて広がる長閑な里山の斜面の風景にも至る所で出会うことが
できました。
いったん順路から外れ、緩やかな坂道となるその農道を登っていくと、
道沿いに小さく寄展望台という地点が現れます。
大きな青空の下、眼下には園内の至る所で見ることのできた、山並みの
削られた谷底に集落が広がる風景が茶畑の深緑と蝋梅の淡黄色で彩られて
いる雄大な風景をここからも楽しむことができましたし、反対側を
見てみれば壁のように高く立ちはだかるいろいろな緑色の山肌の
山懐に抱かれるような農村の姿をも展望することのできる所に
なっていました。
農道からその農村へ下る階段道の先にはお寺のお堂のように大きな屋根を
示す建物が建ち、枝垂桜と思われる裸の木が佇みます。

展望台からの帰路も園内の、無数の満開の蝋梅が作る明るいトンネルを
縦横無尽に歩んで、黄色に染め上げられる世界やその外の茶畑、そして
谷底の集落の展望を楽しんでいきました。
入口に戻る頃には日も高く登って穏やかな気温となって、最初は
ちらほらとしかいなかった観光客もうってかわって沢山見られるように
なり、売店や食堂にも活気があふれるようになりました。
昼食には少し早い時間でしたが、大きな椎茸がごろごろと入った
カレーライスをいただいて、園地をあとにし茶畑の間から川沿いの
集落へ、来た坂道をそのまま下っていきました。
さっきはまだひっそりとしていたバス停の周りにも売店が開き、
駐車場にもたくさんの車が止まり、賑やかな雰囲気が溢れるように
なっていました。

引き続き、寄の集落から中津川沿いにまっすぐ北上する道を進んで
みました。テニスコートもあったりする集落も道沿いに続きますが、
その勢いはだいぶ弱まり、広い砂利の河原を伴う大きな谷は大きく開いた
明るい青空の下に穏やかな風景を広げていきます。
ときどき花の開きかけた河津桜が姿を現したりもする道は、緩やかな
上り坂となり、振り返れば明るい谷底に集落の広がる様子を高台から
遠くに眺めるような風景が展開したりもします。
道の前方に横たわる山並みは次第に互いの距離を狭め、道には集落を
取り巻いていた斜面が雑木林となってより近くに山肌を見せるように
なっていきます。

道の左側に寄り添う川は砂利の河原を水面よりも広く示し、比較的
短い間隔で大きな段差が設けられ、そこだけは川の流れも激しくなって
コンクリートに大きな穴を穿っていきます。
やがて道の右側の集落が途切れ、その背後にあった丘陵が道沿いに到達
すると、道は川の流れとともにカーブを切り、緩やかな登り坂となって
いきます。砂利の河原はキャンプ場の敷地として利用されているようで、
昔の漫画の秘密基地みたいに木の上に設けられたテラスなんかも
見られたりします。
やがて道は鬱蒼とした杉林へと踏み込み、県道だった道も林道に
指定され直され、少しだけ斜度をあげていきます。
杉林を抜けると道は川面よりもだいぶ高い所に登っていて、
短いけれど頑丈そうな真っ赤なアーチ橋の寄大橋で川を跨ぎ越します。
台風被害のせいなのか、その先はゲートで封鎖されてしまっていましたが、
しっかり舗装されている道はそのままカーブを描き、深い山の間へと
伸びつづけているようです。

橋を渡る手前、川沿いに走ってきた道がそのまま真っ直ぐ進む方向にも
ゲートが立ち塞がる道が伸びています。
この奥が、やどりき水源の森と呼ばれる鬱蒼とした薄暗い森と
なっています。
ゲートの中へと歩みを進めると、ひどかった台風の前の日付の掲示物が
残っている小さい管理施設もありましたが、基本的には寄り添う斜面の
表面に広がる深い森の作る薄暗い雰囲気の中に道は伸びつづけます。
寄り添う川も道と同じ高さまで登ってきて、広々と広がる砂利の河原を
大きく眺めることができますが、所々重機が佇んでいたり、切り出された
木材が積み上げられていたりします。

パートナーの森というらしい、いくつかの有名な企業が森を育てていることを
アピールする看板の並ぶ森に沿って谷底を奥へ伸びる道を進んでいくと、
程なく川の対岸にあるらしい滝郷の滝への道標が現れます。
案内に従って林道から川の方へ分岐すると、河原にちょっとした広場の
ようなものが広がる所となっていました。
相変わらず広く広がる白い砂利の河原の中で、寄沢と呼ばれるようになった
細くなった中津川の流れに別の沢が合流していて、その流れの上流へ
目を転じると、対岸の険しい斜面の森の影に、細いけれど力強く水が斜面を
流れ下っている様子を見つけることができました。

寄沢の流れの上に橋のように金属板が渡されているのを見つけ、
意外に高低差のある不安定な砂利の河原を、注意深くゆっくりと、
滝を目指して歩き進んでみました。
ようやく急斜面の森の足元にたどり着くと、森の中の斜面をなぞるように、
数段に別れて屈曲しながら、清らかな水が勢いよく流れ下って
小さい滝つぼを作り、そこから清らかな水の流れが、明るい日なたの
砂利河原の中へと流れはじめる所でした。
清らかで力強い滝の姿と、透明で綺麗な水の流れをすぐ目の前にして、
暫し何も考えなくていい穏やかな時を過ごすことができました。

本当だったらこの水源の森の中を周回する遊歩道があって、滝郷の滝を
上の方から眺められる所もあるようでしたが、河原の広場でさえ岸辺が
おそらくこの間の台風で大きくえぐり取られている状態で、まともに
整備などされてないだろうと踏んで、今日のところはそのまま引き返す
ことにしました。
水源の森の入口のゲートから外に出て、赤いアーチの寄大橋を渡り、
対岸で道に立つゲートの向こうに、その遊歩道の出口があるのですが、
木々の隙間から森の中を覗き込むと、案の定ちょっと荒れた感じの
遊歩道の姿を垣間見ることができました。

中津川の流れに沿う林道から杉林の道、そして道沿いにキャンプ場が
現れるようになった県道と、下り坂となった道を引き返していき、
明るい大空のもとに大きく開けた谷底の寄の集落へと戻っていきます。
帰りは川沿いの大通りではなく集落の中の道を選びました。
道沿いには豊かに大量の水を流す水路が寄り添い、テニスコートや
民家も現れますが、田畑の方が大きい面積を占めるくらいで、
その向こうに中津川の対岸に連なる丘陵もよく見え、振り返れば
青空の下に折り重なる山並みを背景として、集落の民家が穏やかな
絵画のような風景を作ります。
そして川と反対側の道沿いには、小さい畑の裏にすぐに丘陵の斜面が
横たわり、民家の上は寄蝋梅園の敷地となって、黄色く染め上げられた
領域が広く現れてきました。

午後になって三度たどり着いた寄のバス停付近は相変わらずの賑わいを
見せていました。
日帰り入浴という案内が地図上に記されているのを見つけ、とりあえず
その施設のある田代向のバス停周辺の集落を目指して、バス道を
歩いてみることにしました。
バス道は寄蝋梅園への入口の登り坂を左手に見て、小さい商店が疎らに
並ぶ登り坂を登っていきます。商店や民家の間に現れる小さい畑の姿を
見ながらのんびりと登り坂を上り、中山入口というバス停が現れた
辺りでふと振り返ると、壁のように道の先に斜面が立ちはだかって、
その表面いっぱいに黄色い蝋梅園の敷地が広がる風景が現れました。
バスの中からも見ていた風景のはずでしたが、蝋梅園が斜面上に
広がっているということを認識できていなかったような気がします。

道は高台の集落の中を、緩やかに上り下りしながら伸びていくようになり、
道沿いには少し古めかしさを感じる民家達が、庭木や小さい畑を伴いながら
並ぶ素朴な集落の風景が続き、左手の民家の奥には蝋梅の黄色や雑木林の
様々な褐色や緑色を示す斜面が現れ、右手にもおそらく谷の対岸の丘陵が
現れていきます。
町並みの中心となる辺りの道沿いには、多少変形している感じの杉の巨木が
神木として堂々と佇み、道沿いの鳥居をくぐり抜けて斜面上の石段を
登れば、寄神社という小さい素朴な神社が杜に覆われて静かに佇んでいます。
通りに戻って引き続き集落の中の素朴な道を進んでふと振り返ると、
極めて背の高い神木に見守られる通りに、大きいはずのバスの車体が
ゆっくりと歩んでくるところでした。

程なく道は高台の集落の末端へと進み、消防団の詰め所のような建物の
敷地から、丘陵に囲まれた谷底に集落が広がっているのを見渡して、
大きくカーブを切りながら切り通しの道を下って、そして通りから
分岐する道へと進んで、中津川に架かる赤い田代橋を目印とする
川沿いの集落へと下っていきました。
やはり小さい田畑とともに素朴な民家が集まって、所々紅梅の木に
彩られているようななんでもない集落で、確かに日帰り入浴施設として
紹介されていたやすらぎの家という建物も比較的大きな建物として
佇んではいたのですが、雑多なものが積まれている感じで、きっと
夏のキャンプシーズンとかじゃないと営業してないんだと解釈する
ことにしました。
素朴な集落だけど大きな工場のようなものも建ち、赤い田代橋の
対岸の集落も、茶畑を伴いながら高台の方まで続いているような感じで
静かだけれど決して寂しい感じではない所で、
田代橋の上からは、砂利河原の広い川を中心に広がる、山並みに囲まれた
里山の穏やかな風情を存分に味わうことのできるところでした。

中津川の対岸に沿うようにして伸びている枝垂桜の並木の遊歩道を
今度は寄バス停の方へ戻るように歩いてみました。
川の西岸となる道沿いには壁のように雑木林の丘が寄り添い、昼下がりと
なって大きな日陰の中を伸びるようになっていました。
川の中に所々に設けられた砂防のための堰堤を越えるように道は所々
登り坂下り坂を伴っていましたが、常に道は川沿いに伸びて、対岸に
広がる素朴な集落や長閑な田畑、そしてその背後に控える雑木林の
丘陵の山肌を見ていきます。
寄バス停に近づくにつれ、対岸の山肌にはまた寄蝋梅園の黄色くなった
領域が広がるようになっていきました。入口の茶畑や頂上の寄展望台の
姿も良く見渡せ、蝋梅園の遠景をも楽しむことのできる所だということを
知ることのできた楽しさも感じることができました。
遊歩道の方には所々台風の爪痕と思われる、土砂崩れのあとや道の上に
残る土砂の流れの跡なども見ることができましたが、寄バス停にだいぶ
近づいた橋の近くには、蛍の住むらしい、斜面の影にひっそりと横たわる
小さい淵を、寄り添うように設けられた木製のテラスを目印にして
見つけることができました。
枝垂桜の季節、また蛍の季節と、違う季節に来てみればまた違う楽しさを
感じることのできる所なのかも知れません。もしかしたら、紅葉の季節も。

四度寄バス停の近くに立ち寄ったことになりましたが、最後にもう一度
中津川沿いの道を、今度は対岸に枝垂桜の並木を見てのんびりと、
田代向まで歩いていくことにしました。
対岸の風景は大きな影の中となりましたが、基本的には狭い田畑に
寄り添われながら、堤防の上に平坦に道が続き、少しずつ夕暮れの色が
現れてきた空のもとに連なる山肌に見守られる長閑な風景の中、遠くに
見えていた赤い田代橋が近づいてくると、次第に民家が集まって
きたのでした。

こうして蝋梅だけでなく寄の周辺の風情もなんだかんだしっかり楽しんだ
満足感とともに、田代向のバス停から新松田駅へと戻るバスに
乗り込みました。
予想通り超満員の状態でやってきましたが、運転手さんの判断で最前部に
載せてもらうことができ、窮屈な体制にはなりましたがバスの前面に
大きく広がる車窓を楽しむことができました。
田代向が寄の集落の南端となり、バスは森を切り開いた山道をのぼり、
採石場の削られた山を囲むようにカーブを切ると、今度は深く削られた
谷を横目に見ながら新興住宅街の中の下り坂を下って、谷底の国道246と
合流を果たして、そのまま谷底の大通りを、川の向こうに小田急の列車が
行き交うのを見ながら進んで高速をくぐると、唐突に明るい松田の街が
始まって、シルエットとなった富士山の姿を大きく見ながら、大きく見える
街の中を進んでいきました。

夕方になった松田の街に着き、時間的にもしかしたら以前河津桜を
見に来たときに入れなかった入浴施設に行けるかもと思って、松田の街から
川音川沿いの道へ進み、綺麗な私立高校の前を通って対岸にピンクに
染まった領域を見せる松田山の山肌を見ながら三角土手の方へと歩んだの
ですが、入浴施設はちょうど営業が終わったところで、そうか松田の人は
夜はお風呂に入らないんだったと思ったところまで、この間と全く同じ
経過をたどることとなりました。
歩いてここまで来る間にも夕暮れの色はどんどん深まっていって、
三角土手の広々とした河原の風景が、連なる山並みと富士山を背景として
雄大に広がり、酒匂川に架かる長大な鉄橋を小田急の列車が頻繁に
悠々と横断していくダイナミックな風景を暫し楽しみ、ぴょんぴょん橋
というらしい、一直線に飛び石の連なる橋を渡って遠巻きに大きな
山並みに囲まれる雄大な風景の中で、ごつごつした広い河原の中に流れる
水の勢いが見た目以上に激しいことを感じている間にも、辺りの夕暮れの
風情はさらに深まっていきました。
そしてそんな夕暮れの迫る松田の街に戻り、今回もJRの駅からの
特急列車に酒を片手に乗り込んで、小さな旅を終えたのでした。