長瀞秩父(2019.2.5) | 旅の虫速報

長瀞秩父(2019.2.5)

murabie@自宅です。
およそ2週間前の旅の報告をさせていただきたく。

この時期でないと見られないものをいくつか見に行きたくて
早朝の東京をあとに、いつもとは逆方向に、西武線を下って秩父方面を
めざしてみました。
飯能まで下ってようやく辺りは明るくなりはじめ、切り立つ山並みに囲まれた
谷あいにおさまっている小さい農村の集落が高台から見渡せるような山道を
進んでいきます。
線路端や寄り添う斜面にわずかに残雪が点々とするのが一時的に見られる
ようになった芦ヶ久保を抜け、辺りを囲んでいた山並みが遠ざかり、
武甲山の姿も大きく見られるようになり、大小様々な建物が現れるようになり、
羊山公園の乗る丘陵を回り込んで、列車は秩父の町並みへ進みます。

大きくていかにも観光地仕様の西武秩父駅もまだ朝早すぎてひっそりと
する中、細い路地を通り抜けて秩父鉄道の御花畑駅へと進み、続いて
秩父鉄道の羽生行きの列車に乗り込みました。
列車は程なく秩父の町並みを抜け、針葉樹と広葉樹の領域が斑に刻まれる
山並みに囲まれて疎らに建物が現れる長閑な風景の中を進みます。
空には青空が広がる爽やかな車窓に、大きなセメント工場に併設される
貨物駅が現れたり、駅が近づけば市街地がわずかばかり発達し、
発車すればまた長閑な雰囲気となるような風景を楽しんでいきます。
親鼻を過ぎて荒川の流れを大きく跨ぎ越すと、左手にはロープウェーが
架けられている宝登山の姿が青空の元に大きく現れてきました。

木造の古めかしいけれどきれいで小さい駅舎の長瀞駅は、周辺をいかにも
観光地といった風情で細い路地沿いにたくさん商店を並べて彩られて
いたのですが、やはりまだ時間が早くてひっそりとしたままでした。
緩やかな登り坂となる大通りは宝登山へ向かって伸び、宝登山神社への
参道であることを表す白い大鳥居が青空の元に静かにそびえ立ちます。
交差点には早くも、山頂で見たかった蝋梅が黄色いつやつやした小さい
花をたくさんつけて出迎えてくれます。
大鳥居をくぐると松並木の道となり、引き続きいくつか商店が疎らに
立ち並ぶ緩やかな登り坂が続きました。

大通りは青空の元に宝登山がそびえるのを正面に見るロータリーで
途切れ、宝登山神社の神域へと続きます。
広い道に面するように白い鳥居が立ち、うっそうとした杉木立に囲まれて
さほど大きくもないのだけれどよく見ると鮮やかにたくさんの色を使って
細かく彫刻が施されている神殿が静かに佇んでいました。
隣接するお寺の墓地の縁を掠めて登山道へ下り、登り坂に分け入って
駐車場を横切ると、大きなたたずまいのロープウェーの駅が佇みます。
まだ営業開始まで1時間半くらい間があって、人影は疎らでしたが、
駅舎の周辺には出店となるテントも立ち、これからの賑わいを想像させます。

ロープウェーが動き出すよりもだいぶ早く着いてしまうことは想定済みで、
当初の目論見通り、登山道を歩いて山頂を目指すことにしました。
登山道といっても車も通れるほどの幅のある、固められた砂利道といった
感じであり、あまり森の中といった感じでもなく、つねに明るい青空の元に
伸びる緩やかな登り坂といった感じで、さすがに着込んできた上着を
脱いでしまって、楽しくゆっくり歩き進むことのできる道でした。
二次林であるらしい裸の落葉樹の森や、時々は檜や杉などの針葉樹の
うっそうとした薄暗い森の中を通過しつつ、標高が上がっていけば道端に
わずかに残雪の姿も見られるようになって、そして斜面の縁から下界に
丘陵に囲まれて田園や民家が集まる展望も時々見られるようになっていきます。
そして宝登山小動物園の近くまで登ってくると、折り重なる丘陵の表面が
裸の落葉樹の領域の中に人工的に直線的に区切られるように針葉樹の領域が
混ぜ込まれるパッチワーク状になって、長瀞の田園や町並みを囲んでいる
下界の展望が青空の元に広大に広がるのを眺め渡すことができるように
なりました。

清々しい展望をあとにして最後に林の中の道へ分け入ると、すぐに
庭園のように切り開かれた斜面が現れ、高台に佇む白い大鳥居へ向かって
急な石段が屈曲しながら伸びていました。
石段を登って鳥居をくぐると鬱蒼とした薄暗い杉林となり、その中に
小さい三角形状の屋根を持つお社が、鳥居と狛オオカミに守られて
静かに佇んでいたのでした。
これが宝登山神社の奥宮ということらしく、鬱蒼とした深い森の中の
雰囲気でありながら、参道の周りは割と大きく切り開かれた広場の
ようになって、茶屋も設けられていたりして、
そしてその周囲は森の切り開かれた明るい斜面となって、たくさんの
蝋梅の木が小さい黄色い光沢のある花をたくさん咲かせているロウバイ園と
なっていたのです。

蝋梅の木は例えば桜のように豪勢な咲き方をするわけではなく、満開と
いいながらも園地の全景を見ると立ち並ぶ裸の木の細い枝が若干黄色く
色づいているような印象だったのですが、でも近づいて見れば確かに
黄色い花がたくさん開いていて、上空の青空を背景にすればとても華やいだ
表情を店、カメラにおさめればフレームはとても鮮やかに彩られて
いきます。
そんな蝋梅の木々が植えられた遊歩道をたどり、奥宮を包む杉林との境界の
緩やかな登り坂を上ると、ちょっとした休憩のできる広場となっている
宝登山の山頂へとたどり着きます。

山頂からは期待通りに下界の展望が素晴らしく広がりました。
快晴だったはずの空は少し霞んできて雲も現れてきて、展望は若干霞んだ
感じになっていましたが、雲間に何とか姿を見せる尖った武甲山に背後を
押さえられ、蛇行するように流れる荒川が丘陵に囲まれて、その周囲に
たくさんの小さい建物が集まったり、様々な形で個性を示す橋梁が川の
流れに架かったりして、秩父の方へ続く町並みが山並みに囲まれている
展望を、蝋梅園の黄色い木々たちをフレームとして眺めることができました。
斜面上に蝋梅の木々の間を縫うように伸びる遊歩道をたどりながら、
秩父の町並みや、すぐ近くで丘陵に囲まれて広がる長瀞の田園を様々な
角度から眺めることのできる蝋梅園を適当に彷徨いながら、冷たい空気の
中に鮮やかな彩りを示す風情を堪能しつつ、ロープウェーの山頂駅の方へ
向かって坂を下っていくと、梅百花園という園地も隣接していて、
こちらのほうもまだまだ咲き始めといった感じではありましたが、白や
濃いピンク色の花を咲かせはじめている梅の木が、秩父の町並みの
パノラマを鮮やかに彩りはじめようとしているところを見つけることが
できたのでした。

動きはじめたロープウェーは山麓からたくさんの人を運んできて、静かだった
山頂が少しずつ賑やかになっていく中、山頂駅から山麓へ下るロープウェーに
乗り込みました。
他の乗客は1人しかいない状態で、目の前に広がる谷間のような風景の谷底へ
落ち込むように下っていく風景をほぼ独り占めにしつつ、ロープウェーは
1時間かけて歩いた道をわずか5分程度で山麓まで下っていきました。
さっきはひっそりしていた山麓駅の改札の前には沢山の人たちが列を為して、
準備中だったテントも露店の営業を初め、一気に賑やかな雰囲気に変貌を
遂げていたのでした。
長瀞駅との間に運行されている無料のシャトルバスも動きはじめており、
帰りは一人で乗り込むことができました。
バスは歩いてきた松並木の広々した参道をそのまま下り、これから山頂へ
向かうと思われる沢山の人たちとすれ違いつつ、長瀞駅へと向かいました。

長瀞駅の周りに現れる、先日テレビでも見たばかりの、いかにも観光客向けに
整備された、小さな飲食店や土産物屋の密集する、ブロックで舗装された
細い路地の下り坂を下っていくと、すぐに荒川のほとりの岩畳の入口へと
たどり着きます。
澄み渡る青空の元、長瀞の名の通りなのか穏やかに広く広がる水面が
平面で囲まれたような幾何学的立体状の巨大な岩盤に寄り添われて佇む
壮快な風景が広がります。
穏やかな水面にこたつ船らしい小舟が待機していたり、岩畳の末端で
くつろぐ観光客が僅かにいたりもしましたが、今日のところは人影も
疎らな静かな雰囲気となっていました。

何回か来たことはあるところでしたが、せっかくなので岩畳の上にも
足を伸ばしてみることにしました。平面上に削られて層状の模様を示す
結晶片岩の岩の上の道は、畳という言葉ほど平面ではなく歩きやすいわけでは
ありませんでしたが、川の流れの方へ進めば対岸には赤壁と呼ばれる
切り立つ巨大な岩盤が森林に囲まれ、川の流れから離れれば
流路跡であるらしい細長い池のような水溜まりが湿地状になっていたりする
のを見ることもでき、そんな岩畳の上を登ったり下ったりしながら荒々しい
独特の雰囲気を満喫していきました。

岩畳を抜けて普通の川岸の道へ進むと林の中の遊歩道といった風情となり、
木々越しに所々荒々しい岩盤が露呈している段丘に囲まれている川の流れを
見ながら進んでいきます。そんな川岸の岩盤の奥に秩父鉄道の鉄橋が
垣間見られるようになってきた辺りに、虎岩という見所も現れます。
岩畳の辺りの岩盤は深い青緑といった感じでしたが、このあたりは明るい
緑色の岩盤が支配的で、その中に濃いこげ茶色のやはり層状に模様が刻まれた
岩盤が現れているところが、確かに虎のような模様となっているところです。
ずいぶん久しぶりに訪れた長瀞の独特の自然の風景を、今回今までになく
じっくりと味わっていくことができたような気がしました。

ここまでくると上長瀞駅のすぐ近くで、舗装された広い道に土産物屋が
並んでいる観光地のような風景もすぐに終わり、背後に宝登山を配置して
レトロな雰囲気を醸し出している大きいけれどひっそりした駅舎が
すぐに現れました。
線路は駅のすぐ近くで荒川を跨いでいて、すこしだけ坂を下ってたどり着く、
段丘上の道からは草むら越しに、煉瓦で組まれた橋脚が並ぶのを
垣間見ることができました。

いつのまにかお昼前になっていた上長瀞駅から秩父鉄道の三峰口行きの
列車に乗り、落葉樹と針葉樹のパッチワークを成す山に囲まれる
農村や集落、セメント工場などを見ながら、切り刻まれた姿の武甲山が
どんどん大きくなっていく道を秩父の町並みの方へ戻り、さらに奥を
目指して武甲山の裏側へと回り込んでいきます。
車窓は西武線と同じように段丘に囲まれてせせこましく農村が広がったり
時々丘陵に囲まれた盆地のように市街地が広く広がったりしていき、
最後に何本も線路を並べる広い構内の広がる三峰口駅へと進みます。

三峰口の小さいけれど味わいのある瓦屋根の駅舎を出ると、線路と並行する
細い道沿いに商店や飲食店が狭い範囲でしたが密集する街並となって
いました。
線路は駅を通りすぎてもまとまりながらまだすこし奥へ伸びていて、
踏切を渡れば、あまりに谷が深すぎて水面は見えないけれど急な崖が
控えていることがわかる広場のような所もありました。
近くには秩父鉄道がつくっている車両公園という園地が、駅の反対側に
当たるところに広がっていて、何種類かの古い貨車が佇んでいたり、
SLが使っているターンテーブルを目の前で見ることができた一方、
すっかり錆び付いてしまっている古い電車が展示されていたりするのが
再び広がった青空の元、かえって寂しさを誘っているようでした。

駅前の小さい街にやってきたバスに乗り、さらに山奥を目指しました。
三峯神社行きの急行バスにはそこそこ多くの人がすでに乗っていて
せっかくの深い谷に沿って山道を行く路線でありながら、山側の
座席となってしまって、車窓風景の醍醐味を味わえないまま
険しい山道を淡々と進むバスに身を任せることとなりました。
かつて三峯神社に登るロープウェーがあった大輪や、旧大滝村の
中心部の辺りなど、時々建物が集まって街並が形成されることも
ある車窓を束の間楽しみつつ、バスはさらに険しさを増す道を
進みます。
あとで訪れようと思っている三十槌の氷柱への最寄となる三十槌バス停では
乗客の半分くらいが下車し、ようやく谷側の席に移ることができて、
木々越しにすでに、切り立つ斜面を覆うように成長した氷の固まりが
垣間見られたりもしていました。

そしてバスはやはり多少の集落ができていた秩父湖へと進み、
深い谷を塞いで直立する二瀬ダムのダムサイトを見つけると、その堰堤の上の
細い道へと分け入って進むようになりました。
せっかく谷側の席に移ったのに見事な湖面はさっきまで山側だった右手へ
移ってしまうという惨めな状態になってしまいましたが、凍りつきながら
深い谷底に敷き詰められる静かな湖面を反対の窓の向こうに見て、
さらに険しくなって斜面をぐいぐい登るようになったバスに身を任せました。
時にはヘアピンカーブを切り、下界の深い谷の展望もバスの右から左へ、
また右へと移っていき、流れているはずの川の水面など望むべくもない
深い谷の中腹に、通ってきた覚えのある集落が小さく貼りついているのを
見つけたりしつつバスは谷沿いの道を延々と登っていきました。

薄曇りの空の元に霞んだ山並みに囲まれた幻想的な風景の中の深い谷沿いに
設けられた駐車場でバス路線は終点となりました。
バスを下りて、斜面に張り付くような階段道を登って、車道と並行して戻る
方向の高台の道を歩き進むと、道は背の高い杉の木達に囲まれた鬱蒼とした
雰囲気の中へと突き進み、いくつかの飲食店が集まる所で巨大な白い鳥居の
立つ大きな参道が分岐していきます。
三輪鳥居というらしい、大きな門の両側にそれぞれ小さな門が寄り添う形の
他ではあまり見ない巨大な鳥居は、ここでも狛オオカミに守られています。
さらに鬱蒼とするようになった森の中の参道を少し進むと、交差する道に
細かく鮮やかな装飾を施されながら全体が丹の色を呈しているきらびやかな
山門が立つのが見られるようになり、正面に立ちはだかる丘の上には
大きな手を挙げるヤマトタケルのブロンズ像が佇む所となりました。

敢えて山門とは反対方向の階段道を登るとすぐに、奥宮遙拝所というらしい
展望台があって、複雑な形の山頂を示す大きな山を正面に見据えるのですが、
その山の足元に、大きく開けた青空の元に遠く山並みに囲まれながら
秩父の街並が、細かい建物を密集させるようにして広大に広がっている、
壮快な展望が広がっているのに出会うこともできました。

鬱蒼とした杜の中に戻り、きらびやかな山門をくぐって、やや下り坂となる
参道をたどっていくと、程なくして杜の中には本殿へ向かって伸びる
階段道を覆う鳥居が姿を表しました。
そしてその階段道を登っていけば、凍結に備えて水がなくなっている代わりに
小さいお祓いに使うあれが使えるように置かれている手水舎を経て、
山門と同様に細かい装飾がたくさん施された、三峯神社の紅の神殿が、
鬱蒼とした杜に囲まれて静かに佇んでいました。
今朝訪れた宝登山神社の神殿にも、また以前訪れたことのある秩父神社の
神殿にも細かい装飾がたくさん施されていたので、秩父の神様には何か
そのような細かい装飾が好きなのか、それともそれを必要とする
何かがあるのかな、なんて想像を巡らせながら、参道よりも一段高台となる
神殿の乗るステージをさまようと、さっきの手水舎にも、また森の中に
整然と並ぶ小さいお社達も、丹の色鮮やかだったり装飾が刻まれていたり
するのを見つけることができました。
また神殿の隣には、地酒の類や狛オオカミのぬいぐるみなんかもたくさん
売られている小さい土産物屋を取り込んだ高級旅館のような宿坊が
大きな真新しい建物を示し、日帰り温泉入浴なんていうのも受け付けていたり
するようでした。

今日は別に寄っていきたい温泉があったのでここでは入浴はせず、引き続き
山上の境内地を散策して行くことにしました。
大きな杉の木の立ち並ぶ鬱蒼とした杜の中の道を進んでいくと、異なる種類で
あるように見える2本の木が密着しながら空へ伸びている縁結びの木のような
ものが神格化されていたり、さらに高いところにある小さいきれいな神殿へ
向かう石段の道が開かれていたりしました。
そして白い大鳥居をくぐると境内地は出て、葉を落とした落葉樹も多くなる
領域へと進んでいきます。舗装された道のほか、斜面上に大量の落ち葉が
堆積する明るい林の中に複雑に巡らされた遊歩道もたくさん通されています。
どうやら裸の木々はツツジであるようで、案内によれば連休辺りに来れば
また今とは違った鮮やかな森の風景に出会うことができるようでした。
また舗装された道沿いには、今はその姿を見ることはできないけれど、
カタクリの群生地とされる領域がフェンスに囲まれているところもあって、
いろいろな季節にまた訪れてみたくなる所でした。

三峯山の山頂とされるところにはそれらしい案内はなく、ただ芝生の小さい
広場が開かれ片隅に測量点があるのみでしたが、下りに転じた舗装された道を
下ると、一つしか建物はないのだけど明らかに人工的に切り開かれた小さい
ステージ状の領域を見つけることができました。
おそらくここは昔、麓の参道口の大輪から登ってきていたロープウェーの
駅のあとであると思われ、自然に帰すために植えられているのか、ステージの
周囲で花のような形に葉を繁らせているのと同じ石楠花の幼木が点々と息づく
駅の跡地へ歩みを進めると、おそらく索道が通っていた急斜面の下には
谷底のような所に大輪の街が見られ、そしてその奥には再び、遠巻きに
山並みに囲まれた秩父の街並が大きく広がっている展望を見ることが
できたのでした。

ツツジや石楠花が花盛りとなる連休辺りにまた来てみたいな、でも道が
渋滞したりするかもな、なんでロープウェーは廃止されちゃったんだろう、
なんてことに思いを馳せながら、舗装された明るい三峯公園の中の道から、
背の高い杉木立が深く薄暗い杜を造る三峯神社の境内へ戻り、
さっき歩いた道に並行する一段低い道を進んで、さっき通った山の中の
きれいな神殿へ向かう石段や縁結びの木、そして大きな建物が集まって
いそうな感じが深い杜の奥から垣間見られる神域を下から見上げるように
進んでいって、飲食店が集まってささやかな賑わいを見せる白く巨大な
三輪鳥居のところまで戻っていきました。
帰りのバスの時間まで余裕があったので、遅めの時間になっていたけれど
昼食を取ることにし、わらじカツ丼は夕食に取っておくことにして、
別の秩父名物であるらしい、くるみ汁ざるそばなる香ばしい食べ物を
いただきつつ、歩きづめだった体を休ませていきました。

帰りのバスの時間に合わせるようにして引き続き参道を下ってバスに
乗り込み、秩父駅へ向かって深い谷に沿う山道を下っていくバスに身を任せ、
今度こそは秩父湖、二瀬ダム側の席で、さほど広いわけではない谷底の形に
合わせるようにして凍りついた水面を静かに広げるダム湖の姿を眺めて
行くことができました。
最後に往路と同じように、二瀬ダムの堰堤上の細い道を横断して秩父湖と
別れを告げ、引き続き深い谷に沿いながらも時々集落も姿を見せるように
なった山道を進みました。

往路の車窓からも垣間見られていた、谷を囲む崖面を覆うような氷柱を
訪れるため、三十槌(みそつち)バス停に降り立ちました。
普段はキャンプ場への入口となるところのようで、飲食店や大きい駐車場も
設けられ、夕暮れの色が現れてきて薄暗くなった中にあってもたくさんの
人を集めているところでした。
園地に入らずとも、駐車場自体が川に対して高いところにあり、
川沿いはボードウォークのようなちょっとした展望台となっていて、
正面に立ちはだかる崖の面に高いところから幕を下ろしたように
氷の壁が覆いかぶさるような、普段あまり見ることのない冬の風景が
形作られていました。

有料区画となる河原へ降り立てば、段丘に囲まれて広がる残雪の残る
ごつごつした河原と細い川の流れの向こうに、やはり大きな氷の壁を
見据えることができます。
さっき駐車場から見たのは人工的に作られたものだったようでしたが、
それよりも高さは小規模になるものの、同じくらいの幅に広がっている
天然氷柱の領域も、目の前に大きく見ることができます。
岩盤の間から染み出す天然の岩清水が凍りついてこのような形になったのだと
言いますが、おそらく時間もかかったであろう、この時期にしか見ることの
できない自然の造形を見ることができて、当初の目的を達成できた
喜びを感じることができました。

川の中に設けられた短い遊歩道を少し進み、川を囲む段丘の崖の一部が
氷柱の集まった氷の固まりで覆われているのを川の流れの奥に見るように
なっていった頃、崖の上のキャンプ場へ登る急坂が現れ、
それと並行するように、幅の狭い氷柱が現れました。
自然に任せて作られたさっきの、まっすぐ垂れ下がる氷の集まりとはちょっと
異なる感じの、なんかムラのある氷の付き方だと感じたのですが、
並行する急坂を登って崖の上にでてみると、パイプから細かく水が噴射されて
いる人工的に作られた氷柱だったようでした。むしろさっき見ることができた
人工氷柱の作り方を教えてもらえたような気がして、こちらはこちらで
氷の上から谷底の水面を見下ろすような景観も含めて
楽しむことができたのでした。

たくさんの人たちとともに園内を数往復して、巨大な氷柱の迫力を満喫して
いるうちに、辺りはだんだんと薄暗くなっていきました。
あとすこしでライトアップの時間にもなるようでしたが、そこまで楽しんで
しまうと駅へ戻るバスがなくなってしまうのであきらめ、三十槌バス停から
深い谷に沿っていくバスに乗り込みました。
バスは旧大滝村の中心部に差し掛かって、役場だった大きな建物や小さい
商店、郵便局なども現れる街道を進み、一際大きな建物も現れてきた道の駅の
所にある大滝温泉遊湯館というところへ進んでいきます。

道の駅として駐車場の周りに物産館などの建物が集まる所でしたが、夕暮れが
深まりそれらはほぼ閉館しているようで、温泉施設のみが営業している時間と
なっていました。
浴場は2層になっていて、脱衣所から直接入れる所は室内の岩風呂となり、
露天風呂のあるフロアへ移動するには裸のまま薄寒い階段を降りなければ
ならないという構造にはなっていましたが、露天風呂からはもちろん、
室内の岩風呂からも大きなガラス越しに目の前に、段丘に囲まれて流れる
荒川のさほど大きくない流れを見ながらのんびりと湯に浸かることが
できました。肌がつるつるになる湯であるように感じたのですが、
塩分が濃い泉質であるようでした。

湯に浸かってのんびりしている間に辺りはほぼ夜になり、暗闇になった中を
走ってきた、三峰口駅へ戻る最終バスに乗り込みました。
急行便でもなくてすべてのバス停の名前を読み上げていきましたが、
もはや辺りに何か見られる時間でもなく、暗闇の中を疾走していくバスに
身を任せるのみでした。
そしてやはり暗くなってしまった三峰口駅から乗り込んだ秩父鉄道の
電車も、夜汽車の風情を示しながら真っ暗な中をゆっくりと歩むのみでした。
最後に御花畑駅から西武秩父駅へ戻り、観光客向けの駅構内のフードコートで
せっかくだからわらじカツ丼と、ここまで我慢してきた味噌ポテトを夕食に
いただいて、お腹も満足した状態でカップ地酒まで買い込んで、
帰りは所沢までしか乗れないけれど特急列車に乗って、優雅な帰り道を
歩んでいったのでした。