23-02 394年 山岳の家督
奏士だったパイアスさんの結婚式だというので参列させてもらった。結局パイアスさんの顔は知らないままだった。初めて見た素顔はやっぱりステキだった。初めて会ったときにこの目で見つめられたら勝手に恋に落ちて、すぐに失恋の涙にくれることになってたかも。毎日のように会いに来てくれるジーン。たまには私も行こうかな、とジーンの家を見ようとプロフィールを開いたらなんと、ジーンはいつの間にか銃を持っている!?★2の銃だけどスキルも結構育ててる。全く気が付かなかった。斧を持ってるジーンは山岳婿にぴったりだと思ったのに。もちろん、山岳兵長の配偶者が違う武器を持っていることはよくある。山岳じゃなくても、そう、アゼルさんのお母さんのフラヴィさんは魔銃導師も務めたのに亡くなるまでずっと斧を携えていたという。でも、せっかくの銃をもっと有効に使うことができるのでは?なぁんて考えてしまうのは、ジーンが銃持ちになったことで私の中で眠っていたものがはっきり目覚めたから。母さんは14歳。まだ若い。現役バリバリで、直ちに家督を譲る歳ではない。弟のジェットは私と1歳違いだから来年成人になる。来年になれば弟に家督継承権を渡して私は山岳から出て行けるのでは?いろんな条件が揃ってる。天も私の背中を押してくれているって思っていいよね。父さんが、ジェットにカッバスープを飲ませてハヤサを伸ばそうとしてたのは知っている。私にはカレーを食べさせてジェットにはカッバスープ。跡継ぎの私にだけいいものを食べさせてる、なんてわけではない。父さんはいずれジェットが近衛に入れるように準備していたのだ。その父さんの思いを無にするようで悪いけれど、山岳兵になってもジェットのハヤサは無駄にはならないよね。394年27日母さんに相談した。「山岳長子が嫌なわけではないの。兵団長や龍騎士を目指したいとずっと思ってきたし、今も、そうやって生きていきたいとも思ってる。でも、機会があるなら違う世界に出てみたいとも思うの。」「私はひとりっ子だから選択の余地はなかったけれどあなたにはジェットがいる。ジェットが受けてくれるなら母さんは2人を応援するわ。」母さんは微笑んだ。ジェットがそばにいたけれど、無邪気に足をぶらんぶらんさせて鼻唄を歌っている。何の話をしているのかなーんにもわかってないんだろうな。395年1日進む道をまだ決めていないのにプロポーズされてしまった。婚約した後で山岳兵長にならないと決めたら、山岳婿になるつもりのジーンを騙した事になっちゃう。ジーンには先にきちんと話しておかないと。プロポーズヘの返事は保留して、そのまま釣りデートして家まで送った。身体が温まったところでジーンに切り出した。「私が山岳の跡継ぎじゃなくなって、父さんと同居できなくなってもジーンは私と結婚してくれる?」「え?それって、ジェットに家督を引き継いでもらうってこと?」「ん。」「…もしかして僕のため?僕のせい?僕が銃を持ったから?」「それはきっかけにはなったけどそれだけじゃない。決められた道じゃなくて自分が選んだ道を進みたいと思うようになったんだ。今、そのチャンスがあるの。母さんは賛成してくれた。でもジーンが山岳に入りたいとか、父さんと暮らしたいとか思って私と結婚してくれるのなら、今ならまだ考え直せるわ。」「面白いこと言うね。僕は君のお父さんと結婚するわけじゃないよ。君が山岳長子でもお姫さまでも魔物でも僕は君と一緒にいたいよ。」「魔物…」「君は僕の気持ちをイマイチわかってないようだけど、僕はひとつのころからずっと君だけを見てたんだよ。奏士のパイアスさんに突撃しようとしていたことも知ってるよ。」「…パイアスさんに突撃…。そんなこともあったな。でも顔も知らなかったのよ。」「知らなくてよかったよ。」「確かに。私好みのイケメンだったわ。」「それ、今僕に言う?」照れ隠しに笑ってすませたけれど小さいときからジーンが私を見ていてくれたのが嬉しかった。今日の午後、ジェットが成人したらすぐに家督継承のことを話そうと決心した。弟に断られることもあるのかな?イヤイヤ受け入れられるのも嫌だなあ。ジェットに恋人ができないと駄目ってこともある?よくわからないけど、当たって砕けたらまた考えればいいわ。いよいよ昼1刻。ジェットが成人した。