ラスコーリニコフはだんだん訝しく感じていた。マルメラードフが求めるものがなんであるのか、皆目検討が付かなくなったからであった。
それは、自分を選ばれた者と信じてやまないラスコーリニコフとっては、最大の屈辱だった。
ラスコーリニコフが、途方もない貧乏学生であることは既に知られている。そして、その懐を潤した筈の宝石は、涙のように溢れ今、マルメラードフの懐を温めている。
ラスコーリニコフの手はただ、血に濡れているだけだ。
今更、何を望むというのだ……?
「貴方にはお話しましたかね?ラスコーリニコフさん」
「……?」
「私にはね、娘がいるんですよ。それはそれは、美しい娘がね」
娘…そういえばそんな告白を酒場で受けたか。愚かな父親のために、その身を自ら汚す哀れな女。
マルメラードフは、部屋の一角に立ち止まり、腰を下ろした。
「私にもね、罰があたるべきだと思うんですよ、あの婆さんのように。そうは思いませんか?」
再び立ち上がった、マルメラードフは、まるで最後の審判を終えた後のように清々しいものだった。
その手に、血に染まった斧を握り締めてさえいなければ。