7月7日:東京・両国国技館
◇WBA&IBF世界スーパーフライ級2団体王座統一戦◇
WBA王者
井岡一翔
(35=志成:31勝16KO2敗1分)
vs
IBF王者
フェルナンド・マルティネス
(32=亜:16戦全勝9KO)
昨年の大晦日にホスベル・ペレス(ベネズエラ)を7ラウンドKOして以来のリングとなる井岡選手は、長く対戦交渉していた当時のWBC王者 ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との一戦が最終的にまとまらず方向変換、相手を以前からオファーを受けていたマルティネスに切り替えての2団体統一戦&WBAタイトルのV2戦。
自身3度目の2団体統一戦で、勝てば井上尚弥(大橋)選手と並んでいる日本選手の世界戦通算勝利数を23にのばして単独トップに立つと同時に、モンスターに続く日本人2人目の2階級での2団体統一王者。
一方、22年2月にタイトル9連続防衛のジェルウィン・アンカハス(比)を判定で下して王座奪取したマルティネスは、ダイレクトリマッチで再びアンカハスを判定で退けてV1、昨年6月に指名挑戦者ジェイド・ボルネア(比)を11ラウンドTKOして以来のリングとなり、統一戦と共にIBFタイトル3度目の防衛戦。
結果は マルティネスが 3-0(120-108、117-111、116-112)の判定勝ち。
[ABEMAのライブ配信で観戦]
スタートから力を込めた左右フック、アッパーで積極的に仕掛けるマルティネスに、井岡選手もいつになく早々から打ち合いに応じる立ち上がり。
初回、井岡選手は効果的な左ボディを決めてマルティネスの前進を一瞬ストップさせたものの、IBF王者はすぐに盛り返してパワフルに肉薄、以後は一進一退の攻防。
そのボディが効いたマルティネスは、序盤の時点で強引なプレスをやめ、打つ時は打って休む時は休むの切り替えをこまめに繰り返して巧くペース配分、対する井岡選手は引き続きボディ狙いを主体に組み立てようとするも被弾が多く、ヒット数&手数ともマルティネスが上回る展開でラウンド進行。
芯を外し、まともには打たせていない筈ながらマルティネスの馬力に圧されるシーンが目立つ井岡選手は、たびたびパンチを受けてバランスを崩し、見映えが悪い状況でポイントをロス、それでも辛抱強いボディ攻めの効果か、中盤になるとマルティネスの足が止まりがちになり、このまま後半~終盤に持ち込めれば形勢逆転&井岡選手KO勝ちの雰囲気も。
しかしマルティネスの運動量は落ちず、時折ステップワークも交えて打って離れての戦術をキープ、打たれればそのままにせずしっかりやり返し、巧みな試合運びで井岡選手の前進を寸断。
結局、最後まで失速しなかったマルティネスが全般的に打ち勝つ流れのまま試合終了ゴング。
殴りつけるような右や無造作に振る左フックなど、一見すると雑にも見えたマルティネスでしたが… その実、かなりしたたかな巧者ぶりを発揮しての明白な判定で文句なしの勝利。
ボディにウィークポイントがありそうな部分は窺わせたものの、リードジャブで打ち勝ち、サウスポーにスウィッチしたり打ち終わりにアッパーを合わせたりなど、パワーだけでなく技巧派の井岡選手にテクニック面でも上回っていた内容。
2冠統一を果たしたマルティネスは今後について、井岡選手との再戦にも条件しだいで応じると共に、新しいタイトルを探しに行きたい、とWBC同級王者 ジェシー“バム”ロドリゲス(米)&WBO王者 田中恒成(畑中)選手との統一戦に興味を示しつつ、支払いがいい(ファイトマネーがいい)方を優先する旨をコメント。
1週間前にエストラーダをKOして更に評価を上げたバムは速くソリッドで、流石にマルティネスでも荷が重そうな気がしますが、対戦すればこれも面白い試合になりそう。
[但しこの試合の勝者には、WBAが同級暫定王者 ダビド・ヒメネス(コスタリカ)との団体内王座統一戦(120日以内)を指令済み。
あのWBAのやることなのであてにはならないにしても、暫定王座=井岡vsマルティネスを優先させたのに伴って設置したという大義名分(ハッキリ言えばただの屁理屈)があるため、マルティネスに改めて指令を出す可能性は高そう]
井岡選手は、いつものように出だし~暫くの間を距離感やタイミングの把握に充てるのではなく、初回から打ち合いに行き以後もそのまま転換しなかった戦術の他、早々のボディショット的中の感触がそうさせたのか、腹狙いにこだわって攻めがちょっと偏って見えたあたりも敗因にあったような気が。
初回から打たれたのも影響したのか、この日はパンチのスピードやキレ、それに足の運びも軽快さを欠いていた印象で、その他にも正面に向き合って立つマルティネスのジャブを普通にもらっていたりなど、持ち味を発揮できないままズルズル最後まで行ってしまった感じでした。
18年大晦日の vsドニー・ニエテス(比)以来、約5年7ヶ月ぶりに黒星を喫した井岡選手は、試合後
「マルティネスが一番得意な前に出て相手を下がらせるスタイルに対し、逆に後退させた距離で上回りたい考えだった。
手応えはあり、ボディも効いてダメージを与えられていたし、削れているとの認識で進めていた。
12ラウンドやる前提はなく倒すつもりだったので、採点は勝ったか負けたかわからなかった」
とコメントした一方
「1ラウンドに絶妙のタイミングで左ボディーが入ってマルティネスが効き、そこでしゃがむか、しゃがみ込まないかが一番大きな勝負の分かれ目だった。
それ以後は同じタイミングで入れさせてくれず、オフェンスだけでなくディフェンスもレベルが高かった。
マルティネスのパンチは効かなかったがパワーはあり、体ごと持っていかれるような、バランス崩れるような感じはあった。
厚みも凄く、固いサンドバッグを叩いているみたいだった」
と試合を振り返り、去就については
「この先のことは今は考えられない。もうタイトルを持っていないので、自分が考えていたことが全くの白紙になり、考えようがない。
マルティネスが再戦に応じると言っていても、すぐにやりたいと思う気持ちにはならない。今はゆっくりしたい」
と明言せず。
まだまだ一線に絡める力はありそうに思われる反面、今回の敗因にこれまで空間支配力などと表現されて来た持ち味の鈍り=衰えの進行が多分にあったのであれば、逆に相当厳しい感も。
エストラーダ、井岡とベテランの実力派王者が立て続けに敗れ、個人的にはスーパーフライ級に新旧交代の時が来たというイメージもかなりハッキリ浮かびますが…。
ついでながら、自分の採点は 118-110 でマルティネスでした。
セミファイナルは56.0 キロ契約10回戦、WBAバンタム級2位/IBF3位/WBO7位/WBC11位/前日本同級王者 堤聖也(28=角海老宝石:10勝7KO無敗2分)vs ウィーラワット・ヌーレ(22=タイ:4勝2KO1敗)。
結果は 堤選手が 4ラウンド 1:13 TKO勝ち。
実力差は歴然、堤選手が3ラウンドと4ラウンドに2度ずつダウンを奪い、最後はノーカウントのレフェリーストップで圧勝。
昨年12月、穴口一輝(真正)氏との激戦に判定勝ちして以来のリングだった堤選手は、次は年内にWBA王者 井上拓真(大橋)選手への挑戦希望を明言。