自室。
畳の上に、ナマズオが干物のように転がっている。
ギョリイはうつ伏せのまま、片手だけをぺたりと伸ばしていた。

「……自然治癒中っぺ……」

砕けた心は、散らばったガラス片のよう。
だが薩摩の主は、基本的に自己回復型である。
泣きもせず、叫びもせず、だらけることで治す。
これぞナマズオ式ヒーリング。

襖が、す、と開いた。
足音は静か。

「……主」

低い声。

大倶利伽羅だ。

ギョリイは顔も上げない。

「……重症っぺ……」

「そうか」

興味なさそうに見えて、ちゃんと来るあたりが加羅ちゃんである。
手にしている包みを、ぽん、と主の横に置いた。

「光忠からだ」

蒸しさつまおいも。
ほくほくの湯気が、ふわりと立ちのぼる。

ギョリイのナマズオマスクが、ぴくりと震えた。

「……みっちゃん……」

「食え」

「優しさが刺さるっぺ……」

加羅はもう踵を返している。

「俺は帰る」

その瞬間。

∈(👁️___👁️)∋ がしっ。

大倶利伽羅の足首に、ナマズオの両手が絡みついた。

「……」

「……帰るなっぺ」

「離せ」

「離さないっぺ」

じり、と一歩進もうとする。

ずるっ。

引きずられるナマズオ。

畳に擦れる音。

「……」

「……」

無言の攻防。

「馴れ合うつもりはない」

「馴れ合いじゃないっぺ。捕獲っぺ」

「俺は獲物じゃない」

「今は心の支柱っぺ」

沈黙。

加羅がちらりと見下ろす。
ナマズオが、足にしがみついたままほくほく湯気を見つめている。

「……食わないのか」

「一人で食べたら泣くっぺ」

「泣くな」

「泣いてないっぺ!」

加羅は小さく舌打ちした。

「……面倒だ」

だが、足を引き抜かない。
むしろそのまま、どかっと腰を下ろした。
ナマズオ、ぴたりと静止。

「……帰らないっぺ?」

「座っただけだ」

「それを帰らないと言うっぺ」

包みを開く。
湯気がふわり。
甘い匂いが部屋に広がる。
加羅が無造作に半分に割る。

「ほら」

ぽい、と差し出す。
ギョリイは両手で受け取る。

「……あついっぺ」

「冷ますな。うまい」

しばし沈黙。

ほく。
もぐ。

「……おいしいっぺ……」

「だろうな」

「推しが熱愛でも、おいもは裏切らないっぺ……」

「意味が分からん」

だが、加羅は少しだけ口元を緩めた。

蒸しさつまおいもは空になり、ナマズオの心も、だいぶ回復した。

薩摩の本丸。

今日もまた、孤高の刀は馴れ合わないと言いながら、ちゃんと隣にいるのだった。