午前中は、梁と床と湯呑みに敗北した。
だが。
午後である。
日が高くなり、薩摩の本丸の空気はほんのり甘く、どこか穏やかだ。
縁側に腰を下ろした主――ギョリイは、湯呑みを手に、そっと空を見上げた。
「……なんか……静かっぺ」
風がやさしい。
庭の葉も穏やか。
転ばない。
ぶつからない。
何も落ちてこない。
∈(👁️___👁️)∋「……これは……」
ゆっくりと、目が細くなる。
「流れが変わったっぺな?」
その時だった。
近侍のまんばっぺが現れる。
「主」
「うぺ?」
「あんたがずっと探していた、すとんずとやらの本が見つかったぞ」
「うぺぺ!?」
午前中、散々探して見つからなかったSixTONESが表紙の雑誌。
それが、ぽん、と差し出される。
「……奇跡っぺ?」
「あんたの座布団の下にあった」
「奇跡取り消しっぺ」
だが、見つかったのは事実。
これはプラス一。
その直後、みっちゃんが笑顔でやってくる。
「主、今日のおやつ、少し多めに作ったよ」
皿の上には、さつまおいも羊羹。
つやつや。
ぴかぴか。
「多めっぺ?」
「偶然ね」
偶然。
だが、主の中では“幸運カウント”が加算された。
さらに。
廊下を歩けば、転ばない。
畳に足を取られない。
梁も静か。
湯呑みも無事。
∈(👁️___👁️)∋「……午後、強いっぺ……」
鶴丸が柱にもたれて笑う。
「どうした主。朝の厄が抜けたか?」
「抜けたっぺ!」
「顔が悪いぞ」
「しめしめeyeっぺ」
ナマズオマスクの目が、きらりと怪しく光る。
その時。
遠征帰りの刀剣男士たちが帰還する。
「主ー!成功です!」
報告は上々。
損害軽微。
資源増加。
「……これは」
ギョリイの目がさらに細くなる。
「波が来てるっぺ」
薬研が横から言う。
「大将、調子乗るなよ」
「乗ってないっぺ」
乗っている。
完全に。
縁側に座り直し、羊羹をひとくち。
甘い。
とても甘い。
「午前中の不運、全部チャラっぺ」
まんばっぺが腕を組む。
「浮かれるな」
「浮かれてないっぺ」
「顔がにやけている」
「自然現象っぺ」
そこへ、長谷部が来る。
「主、主がずっと渋っていた例の政府からの依頼がなくなりました」
「ギョギョギョ!?」
「他の本丸が引き受けたそうです」
主の目が、さらに細くなる。
∈(👁️___👁️)∋「……つまり?」
「主の撫で肩の荷がおりました」
「幸運っぺ!!!!」
両手を上げるギョリイ。
誰も止めない。
むしろ、少し笑っている。
鶴丸が楽しそうに言う。
「ほらな。午後は主の時間だ」
「これはもう確定っぺ。午後はオラのターンっぺ」
「カードゲームみたいに言うな」
薬研が呆れる。
だが、その時だった。
空から、ひらり、と何かが落ちてくる。
ギョリイの膝に、ぽと。
見ると、小さな花びら。
風に乗って、庭から舞い込んだものだ。
主はじっとそれを見る。
「……自然界が味方してるっぺ」
「それはただの風だ」
まんばっぺの即答。
主は花びらを大事そうに持ち上げる。
「午前は敵、午後は味方っぺ」
「世界は一定だ」
「主のテンションが一定じゃないっぺ」
沈黙のあと、くすりと笑いがこぼれる。
ギョリイは縁側で足をぶらぶらさせる。
転ばない。
落ちない。
何も壊れない。
それだけで、今日は上出来だ。
∈(👁️___👁️)∋「……しめしめっぺ」
午後の光の中、ナマズオマスクが怪しく光る。
幸運が続くと、人は欲を出す。
だが本丸は知っている。
主が浮かれる日は、だいたい最後に小さなオチが来る。
それでも今は、まだ平和。
薩摩の本丸は、午後の穏やかな幸運に包まれている。
そしてギョリイは、にやにやと“しめしめeye”を決めながら、静かに次のラッキーを待っているのだった。