空よりも天高く -24ページ目

いらない遠慮

何年か前のこと。
帰宅途中の電車の中のできごと。

降車駅にもうすぐ着くというタイミングで、
40代ぐらいの女性がドア扉の角にしゃがみこんだ。

電車は混んではいないけど、
座席はちょうど埋まっているぐらいの人数で、
しゃがんだ女性に気づいてる人はいない。

とっさに私は
「どなたか席を譲っていただけませんか!」と
座席側に向かって大きな声で叫んでいた。


端から3つ目ぐらいのところで、
ぐっすり眠りこけていた若い男性が飛び起き、
目も合わさずに席をたって、手すりにつかまった。

席に女性が座るのと同時に、次の駅に到着し
私はホームへ降りた。



その話を友人にしたら、友人が言った。

"私は自分が具合悪くなったら、
 いつも自分で席を変わってっていうよ"


別の日、その友人と一緒の帰りの電車で、
彼女が突然、素早くしゃがみ込んだ。

「どうしたの?大丈夫?」と彼女に様子を聞いていると、
前に座っていた女性が「席を変わりましょうか?」と
中腰で立ちかけたのだが
友人は返事をせず、私も言葉をつまらせたので、
座席の女性はまたすぐに席に座ってしまった。

結局、次の駅で下車してタクシーで帰った。


私は彼女の性格から、自分で言うだろうと思ったけど
本当は私に言ってほしかったのではないかと後で思った。
また私は、立ちかけた女性が、
そのまま席を譲ってくれるものだと思い込んだ。


*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*


今日、混みあった電車の中、車両の中ほどにいた私の横で
重いリュックを背負った若い女性が、
手すりにつかまりながら、下を向いてつらそうにしている。

「具合悪いの?」と聞くと、
彼女は青い顔で、「はい」という。

「どなたか席を譲っていただけませんか」

私が言うと、
すこし斜め前で座っていた女性が、すぅっと席をたちかけた。

それを見たつらそうな彼女が、
「大丈夫です」という。


「大丈夫?」と私も一瞬引きそうになったけれど、
とても大丈夫そうには見えない。

私が何か言う必要もなく
座っていた女性は、すぐに席を譲ってくれた。


それから、
席を譲ってもらった彼女は、
真っ先に私の顔を見上げて、頭を下げて目で礼を言い、
その後で、席を譲ってくれた女性にお礼を言った。




当たり前のこと

とっさの判断


躊躇することなく、できる人でありたいものだ。