事故以来、車を手離した私は


父のお古の自転車を譲りうけ


5歳と3歳の二人の男の子を自転車の荷台に乗せて


家から保育所に送って、勤務先へと


毎日の自転車ライフも快調だった。



ところが。


またもやってしまった。


今度は独り相撲、ほんとにマヌケ。


年明けてすぐだったと思う。


いつものように保育所に子ども達を送った後


勤務先へと急いでいた。


いつもの道。


とても長くて、そしてゆるやかな一本道。


車はほとんど通らない。


その日は傘を右ハンドルにかけていた。


緩やかでも長い坂道、こがなくても自然と加速する。


「傘の柄が前輪に引っかかるかもしれない!」


と、私の頭をよぎった瞬間、目の前が真っ暗になった。



次に気がついたとき私は路肩に倒れ


誰かに揺すぶりおこされていた。


「ダイジョウブデスカ!?」


そう言ってるようにきこえた。


「あ、あ、あ、あ、・・・・」と彼女は


必死に私に話しかけてる。


見たことのある顔だった。


子供が同じ保育所のお母さんだ。


時々、送り迎えの時に会釈したりしていた。


このお母さんは聾唖者だった。


私は、熟睡していた眠りから無理やりおこされたような感覚だった。


「きっとスピードのあがった自転車から


自転車ごとつんのめって落ちたんだ・・・・」


また頭を強打してしまった。


脳波を調べてもらおうか、救急車を呼んでほしい・・・


そう思ったけど、


私は手話などできない。


「大丈夫ですから・・」と身振りで彼女に伝えた。


彼女は困ったように、そして心配気に行ってしまった。



あっ、傘が・・・と思った瞬間、


ブレーキをいきなり握り締めたに違いない。


自転車のハンドルと前輪はよがんでいた。


私は、左側の路肩の方へ投げ出され


頭を打って脳震盪でもおこしたか


意識をうしなっって倒れていたところに


ちょうど後ろから車を運転していたあのお母さんが


通ったのだ。


もしかしたら、私が自転車から落ちたのも


見ていたかもしれない。



とにかく起き上がろうとすると


平行感覚がまったくなくて


後ろへごろんと倒れてしまった。


え~~~っなんだこれは!?起きれない!?


しばらくじっとしてゆっくりと立ち上がる。


よかった、どこにも怪我はなさそうだと


顔に手をやると血がついてる。


なんとか歩けたので、自転車は横の草むらへ置いて


職場へと手で顔をかくしながら向かった。



職場の薬局へ着くなり同僚が


「どうしたんですか~~っ!!」とびっくりする。


それもそのはず


やっと鏡をみると、左半分の顔面が擦り傷でかなりの出血。


おまけにだんだん腫れてきている。


隣は小児科と産婦人科だったが


産婦人科の先生は女医さんで話しやすかったので


すぐに診てもらった。


状況を聞いた先生は


ひょっとして頬骨が骨折していたりしたら


眼球が下の方へ落ちてきて大変だから


自分の友人が近くの総合病院の整形にいるからと


すぐに紹介状を書いてくれた。



骨折はしてなかった。


しかし、見た目はかなりひどかった。


擦り傷もさほどひどくはなかったが


なんせ腫れた。


お岩さん状態の2週間。


薬局にお薬をもらいにくる小児科の子供たちに


「かわいそう」


「痛そう」


といっぱい同情された。


そのときみんな


「おねえさん、かわいそう」とか


「おねえちゃん、痛そう」とか


「おねえちゃん」と言っていたので


正直、うれしかった。


そして、そう言われることを喜ぶことが


「おばさん」であるなによりの証拠なのよね~~と


ため息をつくのだった。



このことがあって


私はまた


車に乗ろうときめたのだった。