そうまに、髪を切ってもらった。


今日の朝、メールでお願いした事を、律儀に叶えてくれた。

捨て犬にお願いされるみたいに、とか言ってたけど、俺はそうまの

本物の眼が見れたのと、俺のお願いを叶えてくれたのと、顔を赤くした

そうまが見れたから。

だから、何を言われても気にせんかった。


この前、怪我してねぇっつってたのに、爺はそうまに怪我を

させてた、らしい。右目の下に、軽くかすり傷があった。


・・・言えっつの。ったく。


俺がうっかり口を滑らせたのが原因なんで、これからは

気をつけようと思う。


そうまは結構手先が器用だ。

弟くんの目の手術をしたくらいだもんな。器用で当然か。

あっという間に、俺の5年かけて伸ばした毛を、切り終えた。


長さは、そうまよりもちっと短い程度。


・・・切り終えた時、すげぇホッとしたのと、寂しいような

気持ちんなった。



でも、これは俺の中で区切りをつけるために、必要だったんだ。



『俺は、もうお前の影は、追わないよ。


死んだって聞いた後、お前がどこかにいるんじゃって一日中、

探した事もあった。

酒を飲んでも飲んでも、酔えない夜を過ごした事もあった。

自暴自棄になって、がむしゃらに仕事をした事もあった。


もう、そんなことはしない。


俺は、もう。大丈夫。



お前の事も大好きだけど、同じ位…いや、それ以上に

好きな人が出来たんだ。


お前とは、全然違うと思ってたけど似てるよ。


意地っ張りで、俺に心配かけないようにしようとして、独りで

勝手に考え込んでるところがさ。


・・・俺は、お前にも頼って欲しかったよ。

一度も、頼ってくんなかったもんな、お前。


だからか、余計今度好きになった奴のことは支えたくなるんだ。


・・・うん。俺じゃ、役不足かもしんねぇけどさ。

それでも、俺はやってみるよ。

身勝手かもしんねぇけどさ、見守っててくれよな。』



髪の毛切ってる時、そんなことを思ってた。


そうまが、髪を切り終わる頃、何を聞いても変わらないと言った事を

また確認するみたいに言われて、頷いて。


その後、そうまの過去の断片を、聞いた。


目を合わせようとしないそうまの様子から、そのことは、ずっと

そうまを苦しめてるんだろうな、と何となく思った。


それでも気持ちは変わらないのか、と訊かれて、おうと答えた。


そうまは何とも言えない顔してたけど、俺の気持ちが変わらんのは

事実だから。


髪の毛を切り終わって、そうまの家にお邪魔して、お土産で渡した

巨峰とマスカットを食べようっつー話になったのに、そうまがなかなか

台所から戻ってこないから心配になって。


見に行ったら、泣いてた。


泣くな、とは言わん。

勝手に、俺に心配かけないように、とか気を遣って泣くなっつの。

泣き止むまで、抱き寄せて背中を叩いた。


俺はここにいるから。

そういう思いが届けばいいと、思った。


泣き止んだところで俺の昔話を、ちょっとした。


俺が、昔結婚した事あって、相手とは別れて、バツイチで。

相手は、病気で亡くなってて、もう、この世にはいないこと。


その時から髪を伸ばし始めて、もう好きになったりする奴は

いないんだろうなと思ってたってこと。


そうまは、そうですかって言って、終わりだった。

何も言わねぇんだなって言ったら、俺が言ったみたいな事言って、

笑った。


何があっても、俺は俺って言ってくれたことが、嬉しかった。


俺が、そうまに会えた事と、そうまを好きになって良かったって

伝えたら、そうまも俺に会えて良かったと、言ってくれた。


それだけで俺は嬉しいし、幸せだ。


そうまに俺のことを好きになれ、なんて贅沢な事は言えない。

俺はそうまを好きでいられるだけで幸せだから。そんでいいんだ。

話をして、一緒に朝飯食って、笑えればそんでいい。


緊張が解けたのか、眠いと言ったそうまをベッドまで運んで

寝ぼけたそうまに思いっきり引っ張られて、見事な抱き枕になった。


…後でからかう材料が増えたなぁ、とちらっと思ったけど、そうまが

気持ち良さそうに寝てる顔見てたら、そんなのはどうでもよくなった。


朝起きたら、寝る前に何をやったのかを思い出したらしく、顔どころか

耳まで真っ赤にして恥ずかしがる、という貴重な姿を見れたのも

あるのかもしれん。


そうまに微妙に距離を取られた上に、近所のがきんちょ共に

不思議そうな目で見られたけど、一緒に飯が食えたのが嬉しいから

そんでいい。


夜にふたりで食べ損ねた巨峰とマスカットは半分以上、

がきんちょ共に食われたのだけは、気に食わん。


後でまた買いに行ってこねぇとな。