ふわわ、と欠伸をしながら歩いていたら、地下鉄の入り口傍にある

はしゅつじょの前に出た。


思わず、げとか言っちゃったよ…。


居たのがあきらで良かった。

おにーさんがアワアワしてたから、あきらにセクハラでも

されたのかな?と思って声をかけてみた。


違ったみたいで安心した。

「けいさつかんがまたふしょうじ!」って見出しが出てる新聞

見たくないからねぇ…。


あきらはけいさつかんの制服着てた。


…意外と似合うねぇ…。


似合うってほめたら少し照れてたみたいだった。

くふふ。


おにーさんはお財布を届けに来たんだって。

お金は残念ながらなくなってたみたいだけど、お財布だけでも

戻ってくるとうれしいもんね。うんうん。


お前も中入れってあきらに言われたから、中に入ってお茶と

おせんべいをごちそうになった。

ほうじ茶も塩せんべいも好きだからうれしかった。

ありがとう。


いすに座った時、うっかりしてて左うでが足に当たって固まってたら

おにーさんが心配してくれた。

昨日たんこうで折っちゃったんだよ、って言ったら、すごく

心配してくれた。


いい人だ…!ちょっと感動。

あきらはくまでもたおしたんだろ、くまでも。とか言ってた。


ちょっと!わたしを何だと思ってんのよっ!

きょくしん空手のそうししゃかっ!

あきらよかチビで力もないのにたおせるわけがないでしょっ!


ぶーたれてたら、あきらがおせんべ渡してくれたんだけど、

ちゃんと包み破って、少しおせんべを袋から出してくれたの。


…ヨソウガイデス…。


真面目に仕事してる…って、訳でもなさそうだったけど、

お財布ひろったおにーさんに色々聞いて、紙に書いてたの。


ホントにけいさつかんだったんだー、っておどろきながら外を見たら

そうまが来た。


どうしたんだろ?

何かなくしちゃったのかな?


そうまはあきらが制服着てるの見て、疲れすぎて幻覚見たと

思ったらしいよ。

現実だよって言ったら、向き合いたくない現実が見えたから…

とか言ってた。


あはは、そうまってばー。

そういうのは例え思っても言っちゃだめだってば。


そうまもわたしのうでを見て、ビックリしてた。

ごめんねー。ビックリさせちゃって。


今度たんこうに行く時はあきらとそうまと一緒に行こうって

さそってくれた。


あきらだったら盾になってくれるから、落石があっても

大丈夫なんだって。


…確かに!喜んで石に自分からつっこみそうな気がする!

って笑ってたらあきらが不満そうな声を出してた。


…この予想外れないと思うんだけどな。

違うの?


さっきおにーさんがひろったお財布はそうまのだったんだって。

良かった。


そうまとおにーさんは知り合いだったみたい。

たくみくんって呼んでたから。


知り合いって訊いたら、前に1回会った事があったんだって。

おにーさんはあおやぎたくみっていう名前なんだって。

たくみさんって呼ばせてもらうことにしたの。


わたしの名前を言ったらいい名前だってほめてくれたんだ。

うれしかったな。ありがとう。


たくみさんはとってもじゅんすいでいい人みたいだった。

わたしの周りには余りいないタイプの人だから、

ちょっと感動しちゃった。


例えるとしたら、めいやりゅーごかな?


絶対あきらじゃない。


お財布を拾ったお礼をどうするかって話をしてたら、けいしが

かべにらくがきしてたみたいだった。


・・・けいし・・・。

その赤いポス○はどこから持ってきたの・・・。


ビックリしてたら、にこにこしながらけいしがわたしに

手を振ってるのが目に入って、手を振り返した。


久しぶりに会ったから、ビックリしすぎてぽけーっと口半開きに

なっちゃったけど、会えてすごく嬉しかった。


けいしとわたしが手を振ってるのを見て、たくみさんに知り合いなのって

訊かれたから、だんなさんだって答えておいた。

たくみさんは信じてくれたみたいだった。


・・・ホントいい人だ・・・。


夫婦なのは事実だけど、なかなか信じてくれる人いないからねぇ。

これもうれしかった。ありがとう、なのです。


あきらはけいしの首をつかんでしゅつじょのなかに戻ってきた。

けいしは怒られてるけど全然気にしないで、ギプスにヒヨコを

いっこずつ描いてやるよ。って言って、今日は持ってるポス○が

赤かったから、赤いヒヨコさんを1匹描いてくれた。


ありがとう。

可愛いから、ギプス切って外すのが勿体無くなっちゃったなぁ、と

思いながら描いてくれたヒヨコを眺めたよ。


そんなやりとりをしてたら、そうまが帰ろうとしてて、あきらが

引き止めてた。

何かごしょごしょと内緒話してたけど、きこえなかったことに

するのです。


手を振って帰っていったのを見送ってたら、かべのらくがきを

消せって、あきらがけいしに渡したぞうきんがあきらの顔に当たって

ふおんな空気になりかけた。


たくみさんはわたしたちに出されたお茶を片付けてくれた。

・・・いい人だ・・・。


結局何も起こらなかったので、片付けてからたくみさんは

帰っていった。


気をつけてね。またどこかで会ったら仲良くしてねーって

思いながら見送ったの。


あきらはけいしにお説教をしてから、どこかに電話をかけて

仕事を変わってもらうみたいだった。

何か用事でもあるの?って訊いたらキレたから帰るんだよって

返事が返ってきた。


…そんな簡単な理由で交代してもらっていいのか、

このまちのけいさつって!


けいしは、居心地が悪いから帰るって言ったけど、わたしも

ここはあきらがいなかったら保護されちゃうかもしれないので、

帰ることにした。


手の指でそろそろとギプスを撫でながら、けいしは帰ったら

多分寝てると思う。もうあんまけがすんなよ。治るけがしか

すんなよって、言った。


言葉は短かったけど、とても心配してるのが伝わってきて、

うれしいのと同時に、切なくて、悲しくて、ありがたいなぁって

気持ちになった。


手をつないで帰ろうとしてたら、あきらが戻ってきて、あんなんで

怒るわけねぇだろーって言ってた。


・・・けいしからかいに来たですか?

マゾ犬のおまわりさん・・・。


しかし、ぷりぷりぷりぷりぷ~!って…!

あきらと交代で入る事になった白井さん(24歳)の感想が

気になる。


いつもの事なのかなぁ…。平然としてた気がする。


バカを連呼されたけいしが乙女っぽく怒って、砂浜を追いかけっこ

してる、昭和のカップルごっこを始めちゃって、大変でした。


・・・何でわたしの周りの回帰線の男達は乙女ばっかりなんだ。

ここにいる中ではわたしが一番男らしいんじゃね?とか思いながら

思わず遠い目になっちゃったよ…。


ひとしきりからかうと、満足したみたいであきらは帰っていった。

途中で早くけがなおせって言った後、けいしを見てから久しぶりに

会えて良かったな、って言ってくれた。


…もしかしなくても、気を利かせたのかな?


……しょうがない。

けがが治ったら、お礼の代わりに全力でツッコミをいれてあげる

ことにしよう。


あきらに2、3訊きたい事があったけど、今度会えた時でいっかと

思いながら見送った。


あきらを追いかけてて乙女みたいにこけたけいしに大丈夫?って

声をかけてから、手をつないでお家に帰った。



新しい家に一緒に帰るの、初めてだ。

くつをぬぐの困ってたらけいしがぬがせてくれた。ありがとう。


けいしがいない間どこで寝てた?先生のところか?って訊かれたから、

ここで寝てたって答えた。


何でそうまのところで寝なきゃなんだろ。

わたしの家はここにあるのに。

風邪引いた時は入院した方が風邪が早く治るからって入院

させてもらったけど、今は風邪ひいてないもんね。


お風呂は毎日昼間の内に借りてるけど。


そんな話をしてたら、ポーリーから手紙が来た。

リョウジさんからだった。

ありがとう。

明日返事書かなきゃって思いながら畳んで、バッグに

入れたんだ。


電気はきてるけど、だんぼうがないから寒くないか?って

けいしに訊かれた。

今までないのが当たり前だったから、なくても平気って答えた。

最近あったかくなってきたしね。

寒かったらマルマルとラムちゃんを抱っこするのです。

それで大丈夫。


けいしはマルマルとラムちゃん、ネズミーズのお世話してくれて

ありがとなって言ってくれた。

それ位おやすいごようなのです。


けいしはふとんをしいてから、ぼんやりとわたしやマルマル、ラムちゃんを

見て、たばこをすってた。

となりにすわって、どうしたのって訊いたら、前にわたしが言った

「口で言わないと分からない」ってみたいなこと言ってたよなって言った。


うん、たしかに。

けいしは例え口で言ったとしても自分が伝えたいことの核の部分しか

言わないから、言ってくれたとしても分からない事が多いけど、言わない

よりは伝わるから。


けいしは、最近自分がどんどん動物に近づいてるから、人間の

言葉を忘れていってること、口で言うことがどんどん余計になってくこと。

もし全然喋らなくなったらたまにエサが欲しいこと、時々プリンやアイスを

もらえるとうれしいと言った。


けいしの言葉は、今のわたしにはむずかしすぎて。

けいしが言った事はちょっとしか理解できてない感じがした。


余計って何が?って訊いたら、うそもんの言葉が多すぎるんだよなって

言って、布団に入っちゃった。


・・・うそもんの言葉って何だろ。


わたしも布団に入ったら、わたしの頭をなでて、首筋に鼻を

くっつけて目を閉じてたみたいだった。


ビックリしたのと恥ずかしかったのでいっしゅんだけ固まったけど、

右手でけいしの頭をなでたら、気持ちよかったみたいで、丸くなって

首のあたりのにおいをかぎながら寝ちゃった。


…ホントに動物みたいだって少し思った。


けいしが言った言葉をかみくだいて考えようと思ったけど、

今考えると眠れなくなっちゃいそうだから、やめた。


少しでも早くけがを治すためにも、寝ようって思いながら

目を閉じて。


骨は折れたけど、けいしといると不思議とあんまり痛くないんだ。

今日は起きないですみそうだなって思いながら寝た。



けいしは段々動物に近づいてるって言ったけど、動物になっても

「けいし」なことに変わりはないから、わたしはけいしのこと、

好きなままでいると思う。

そばにいると思う。


愛してると思う。


エサじゃなくて、食事を一緒に食べると思う。

それはけいしに頼まれたからじゃなくて、わたしがそうしたいから。


時々、プリンやアイスも一緒に食べると思う。

美味しいねって言いながら。



ニンゲンは言葉を忘れたらドウブツになるんだろうか。


言葉を忘れてもただのニンゲンでしかないと思うのは

間違いなんだろうか。


もし言葉を忘れたとしても。

そのヒトの傍にいたいと思うことが。

傍に居る事が自分で間違いでは無いと思えるなら。

その選択を後悔しないなら。


それでいいような気がする。