東の空がやっと明るんできた刻に、戸口を叩く阿呆が居る。
果たして…あいつだろうか。
と想いを巡らして開けてみると、やっぱりそうだった。
「えらい時間だな」
「寝てたか」
「目は覚めていた」
「そうか」
荷物を持ってやり、中へ招いた。
「その合羽、珍しいな」
「そうだろう。うんと良いやつだ」
「どこで手に入れた」
「あっちでな」
(あっちか)
目黒の言葉に顎を揉んで考えていると、土間には手荷物が広げられていた。
外は大粒の濡れ雪だというのに、荷は全く以ってからりとしていた。
「どこの商人だ」
「馬陸の」
「穏やかでないな。合法の品か」
「知らん」
目黒が合羽を土間に振るうと、水が玉粒になって踊って落ちた。
「油が塗られてあるのか」
「塗られてはいない。表面に滲み出てくるのだ」
「いくらする」
「値は持ち合わせていない」
「ならばどうやって」
「取引だ」
「商品は」
「肉」
「成程」
恐らく非合法の品であると推測した。
そもそも馬陸とは、生と死の仲買を生業とする族だった。
「何か飲むか。長旅だったろう」
「何があるのだ」
「ツメクサ、スイカズラ、アセビ」
「ツメクサだな」
「だろうな」
「最近見なくなったからな。どこで手に入れてる」
「蜂からだ」
「お前らしいな」
猪口に出してやると、目黒は噛み締めるように飲んだ。
果たして腹の方は。
「団子でいいか」
「悪いな。頼む」
「今年のはあまり安くないぞ。雨続きで花が咲かんそうだ」
「らしいな。おかげで市場も回りが悪い」
腹の虫が泣きそうなので、目黒と同じくする。
「今年も目白には帰らんのか」
「さあな。連中とは馴染みが悪いからな」
「ふふ。そうか」
わざわざ聞くなと言わんばかりに目黒は団子を齧った。
「今日はどうする。山にでも行くか」
「いや。里に出る。行商が来る」
「ほう。面白いのが入ってるのか」
「薬だ」
「どこか悪いのか」
「いや。高く売れるのだ」
「あっちでか」
目黒はにやりと笑った。
この顔を久々に見た。
目黒は元々笑わない性質だが、商売のこととなると別だった。
とはいえ、儲け話には無頓着で、珍しい物に目が無いだけの性質だ。
「少し寝るぞ。半刻したら起こしてくれ」
と言うと、目黒はそのまま横になって寝てしまった。
余程疲れていたらしい。
嘴がだらしなく開いたままだ。
相変わらずだな。と外に目を遣ると、庭木で季節はずれに鶯が鳴いた。
