今は昔。コロナが世界的に猛威を振るい、戦争どころではなく、世界中が怯えていた頃のこと。
東京駅での、大阪では梅田駅での、人の出入りがどれだけ増減しているのかをスマートフォンの情報から、「個人を特定せずに」と断った上で計測した。先週に比べて、どれくらい人が減った、増えたという報道がなされ、油断しないようにと呼びかけられた。
「スマホを持っているだけで、その動きが読まれているなんて、怖いねぇ」
テレビでそんなことを言う人があった。割と身近にもそういうことを感じる人もいた。本気か?
スマホを使って、駅前から目的地までの地図を見たり、星がたくさんついている飲食店のレビューを見たり、ポイントが付与されるからとフランチャイズ店のアプリをインストールしたり、ましてや買い物をしたことがない人などいるだろうか。
全て、情報は取られている。
もちろん、個人名や個人の住所は抜かれていない。逆にいうと、それにあまり価値はない。
年齢層、性別、居住地域、収入。それらの方が重要なのだ。
もっと簡単に言おう。
Xで子猫の動画や、ワンちゃんの腕白動画を配信している人がいたとする。そういう人ばかりをフォローしつづけたら、どうなるか。
現れる広告表示が変わっていく。ペットフードならまだしも、化粧品やブランド品が格安で販売しているサイトの広告が入ってくる。
動物の愛らしい動画を見て癒されたい=二十代、三十代の女性が多い=彼女たちをターゲットにした広告を自動的に表示する。
当たり前だが、その方が確率が圧倒的に上がるからだ。
スマホは逆にいうと、そうした持って歩く広告媒体であるし、そうした技術によって成立したビジネスのお金で動かされている。
だからこそ、わざわざ「個人を特定せずに」と断って報道で使ったのだ。
駅前で立ち止まり、地図情報を見ている段階で、年齢層、収入、性別、どんな嗜好で、何時ごろ検索しているのかは分析されている。お店を経営している人にしてみれば、喉から手が出るほど欲しい情報だ。それを教えず、分析して把握できる方法を、大手の検索サイトは売りにしている。
個人情報を流出させるのは、ちゃんとした犯罪である。
だが、属性だけ(居住エリア、性別、年齢層、嗜好)を取り出すのは犯罪ではない。ましてや、類似した商品や同等でもっと安い商品を紹介されることに、我々ユーザーは利便性を感じている。事実、属性を推し量ってくれることで、得しているのだ。
個人情報というキーワードだけで、まるで自分が監視されていると錯覚するのは、非常に危険だ。住民基本台帳の時でも、国家が国民を統制するのだと恐怖を煽る人がいたが、あれはデマだった。
同様にスマホで個人を管理するなど、簡単だが、その見返りがあまりにもしょぼい。それより全体の消費行動を分析した方が、圧倒的に金になる。
スマホは個人情報を抜かないとは限らない。ウィルスによって、そうした被害は出る。
だが、最初から個人情報が全て抜かれるとか、犯罪組織に流出しているとか、陰謀説に酔うのは危険である。ノイローゼになる。
スマホでポチったくせに? 地図で調べたり、お店のレビューを読んだことがあるのに? となってしまう。自分から情報を差し出しておいて、情報を奪われたというのは、支離滅裂というべきだ。
情報はすでにダダ漏れなのだ。では、どこまで入力していいのか。それ以上は入力してはならないというボーダーを意識すること。自分で調べたり、意識を高めていくしかない。人任せにして、人のせいにできるほど、世の中は甘くない。