全米ロッジすら運営できないフリーメーソン
 

秘密の組織フリーメーソンが世界を影で操り、我々を支配している。
 

もともとの起源をエジプトに求めたり、石工職人に求めるのは色々だが、とにかくそうした組織があることは事実である。
 

極秘に集まり、そこで話し合われることは秘密であり、秘密を漏らしたものは暗殺されるという設定。
 

このフリーメーソンが世界各地に支部(ロッジ)を持ち、連携して世界を支配しているという話なのだが、ちゃんと笑い話がある。
 

アメリカのロッジの代表者が集まり、全米のフリーメーソン協会を作ろうと考案された。
 

ところがロッジの基本、「各ロッジの自主性を最大限尊重する」というルールのせいで、運営方法をめぐって紛糾。現代にいたるまで、全米フリーメーソン協会は実現していない。
 

アメリカ一国すら、統一できないような組織が、なぜか世界をコントロールしているという矛盾。
 

そもそもフリーメーソンは、そんな陰謀を企む、裏の組織なのだろうか。
 

どうやら、そうでもないらしい。
 

キリスト教の中でも、プロテスタント(バチカンだけがキリスト教じゃないでしょ派)とカトリック(バチカンこそキリスト教でしょう派)の対立が顕著になった時、イギリスやドイツの商工業者は困惑した。
 

それぞれの教会の指導で、敵対している側と取引してはならないことになったのだ。
 

いくらお金があって、発注したいと思っても、自分がカトリックなら、カトリックの業者にしか発注してはいけない。プロテスタントなら、プロテスタントの業者にしか発注できない。
 

そんな効率の悪いことを強要されたのである。
 

もちろん、商工業と宗教的信念は無関係である。安く受注してくれるところがあれば、それが正義である。
 

そこで生み出されたのが、互助組織である。
 

異業種や関連業種の代表が集まり、聖書の解釈とは関係なく、取引しませんかという組織だ。
 

ここに入れば、お互いの宗派に立ち入りせず、取引について話し合い、契約することができる。
 

これは便利。
 

あっという間に、広まってしまった。いわば、キリスト教を批判せず、一定の距離を持ち、それとは別に職業的な互助組織である。
 

これがフリーメーソンの本質である。だから、どの宗教を信じていても、会員になれるし、お互い干渉せず、むしろ尊重し合うのがルールである。
 

ところが、これに業を煮やしたのが、キリスト教である。
 

勝手に組織を作ってんじゃねぇ。神の代弁者たる俺たちの言うことを無視するとか、さてはお前ら、悪魔崇拝者だな。バフォメット像の前で、魔女とエッチな儀式する気だな。うわ、怖。秘密バラしたら、暗殺する組織なんだな。
 

現代の我々が知る、フリーメーソンのイメージの原型は教会によって作られたといっていい。
 

実際は割とまとまりに欠ける(まとまりを目的としない)、組合なのだ。

ユダヤの世界征服
 

日本人にとって、ユダヤの陰謀説はあまり馴染みがない。
 

ユダヤ人差別について、ユダヤ・ジョークを見ると、オチがよくわからないのも、そのためだろう。
 

ヨーロッパ社会では、イエス・キリストの処刑に賛同したという場面が、聖書に描かれたせいで、ユダヤ人は長く差別されることになる。
 

そのため、ユダヤ人の長老たちが、世界征服を企んで、会議を行ったという。
 

その全貌を記したのが、ユダヤ長老会議議定書(ユダヤ・プロトコル)である。
 

世界を戦争によって、疲弊させ、ヨーロッパ経済を破綻に追い詰める。そしてユダヤ資本で世界を思いのままに操る。
 

そうしたプロセスが、なぜかロシア語で書かれていたという。
 

類似したものに、田中上奏文がある。
 

昭和天皇に対して、世界征服のためには、中国大陸進出が不可欠であると奏上したものである。こちらはなぜか、北京語版しか存在しない。
 

どういうことか。
 

日本人の内閣総理大臣が、よりにもよって、天皇陛下に対して、なぜか北京語で上奏している。つまり日本人が書いたものではないということ。日本人が中国大陸を支配しようとしている根拠には、不可欠な資料となっていくのだ。
 

典型的な偽書である。
 

同様に、ユダヤ長老会議議定書も、帝政ロシアに対する市民の不満が、ユダヤ人による扇動であって欲しいという願望を表出させたものに過ぎない。


ユダヤ人同士なら、ヘブライ語で書いた方がバレなくてすむのに、わざわざロシア語で書いた上に、ロシアで漏洩しているのだ。これも誰が作者かは、類推できるだろう。


冷静に考えてみれば、分かることである。
 

ウクライナにしても、バレスチナにしても、戦争は続いている。
 

世界経済は世界恐慌のようなことにはなっていない。
 

ユダヤ長老会議が行われたであろう、ロシア革命前から、かれこれ百年以上経つのに、まだユダヤ人が世界をできていない。長老たちは相当、見積もりが甘かったことになる。
 

ver.2が存在しないということは、ユダヤの長老たちが世界征服対して、牧歌的なビジョンしか持っていない間抜けということになる。

陰謀説はポルノ
 

ナチスにとって、ユダヤ人は格好の餌食だった。
 

世界が悪いのは、全部ユダヤ人のせいなのだ。それを知っているのは、ナチスだけなのだ。そんな主張の根拠に使えるからだ。そうじゃないかという期待を、そのままなぞればいいのだ。
 

それと同様なことが、残念なことに、今年2024年元旦の能登半島地震でも発生した。
 

中国人強盗団が被災地で犯行に及んでいるというデマの拡散があったのだ。
 

百年前の関東大震災で、自警組織が朝鮮語を話す人を私刑にしたということは、紛れもなく事実である。(作家志賀直哉も東京で、自警組織の若者たちの会話を聞いている)。そうしたことがないようにと、映画になった『福田村事件』が昨年公開されたというのに。
 

恥ずべきことである。
 

自国を愛し、同胞や国土を守るということと、外国人を差別することとは、全く無関係である。
 

中国人強盗団が来たら、怖いという恐怖と、悪いことをするのは、外国人であってほしいという願望が、こうしたデマを生む。東日本大震災で人がいなくなった高級ホテルから、全部屋の薄型テレビを強奪したのは、同じ日本人だったのに。
 

つまり、モラルと国籍は無関係なのだ。
 

被災した外国人が金品を奪ったとしても、逃げる先は、避難所しかなく、そこで日本人と共存するしかないのだ。時系列で考えれば、矛盾することだらけである。
 

だが、陰謀論は実態のないものであり、いわば願望(リアルはどうあれ、悪人は外国人であってほしい)を表しているから、ポルノ(リアルはどうあれ、女性が過剰に身悶えしてほしい)と本質は同じなのだ。

陰謀と向き合うには
 

嘆かわしいのは、都会の繁華街で、しばしば扇動者のいう「隠された真実」に出くわすことだ。
 

ビル・ゲイツや創価学会が槍玉に挙げられる。
 

なぜ、世界の億万長者が、不安定なOSを普及させたことやデザインのダサさではなく、証拠のないワクチンビジネスの首謀者として批判するのか。
 

なぜ、国産の宗教を批判するが、「家庭連合」と名乗りながら、信者の家庭を破壊しまくっているのに、与党から守られる教団を無視しているのか。さてはツルコの手先か。
 

「隠された真実」が、浅はかでチャラすぎるのだ。
 

決して、騙されないでいようとすることは、不可能なのかもしれない。
 

しかし、時系列を考え、冷静に判断することに慣れていなければ、疑いが生まれない。
 

関東大震災でも、純粋に日本人を守ろうとして、善意で朝鮮人を殺害している。そこに疑いがない。
 

疑いがないとは、一見、純粋であるようだが、冷静さがないというべきだろう。思慮深さがないとも。
 

やはり生き残るには、知恵が必要なのだ。
 

それが人間の脳が、他の動物に比べて大きい理由なのだ。