注意:某しさんの「ビックバンまで」を踏まえて書いています。 
   いわゆる二次創作というやつ…だとおもいます。


 全ての授業を終えて、バイトに向かうために私は電車に乗った。
 帰宅ラッシュよりは少し早いこの時間、席の埋まり具合は8割程度。ひんやりとした車内に足を踏み入れるや否や、私はあいてる席に座り込み、一息ついて携帯電話を開く。電車が動き出す直前に隣に誰かが座ったので、ちょっとだけ体を動かした。
 座ったのは私と同じくらいの年の男性だった。彼はイヤホンを耳に突っ込んでぼんやりと音楽を聞いていて、私も私で携帯電話の液晶に視線を戻す。知り合いじゃないので当たり前だけど、目が合うことも会話が起きることももちろんなく、電車の扉は閉まり、ゆるやかに走り始める。彼はふあぁと欠伸をして、私はなかなかに格好いい人じゃないかなんて実はこっそり思ったりしながら、無表情に携帯電話をいじる。

 大学という場所は、研究機関であると同時に、ある一定の空間に同年代の男女を押しこむ事で成り立っている――というのならば、私と隣の彼の距離もそう遠いものではないのかもしれない。実はどこかですれ違っているかもしれない、友だちの友達の友達ってことだって、充分にありうる。そういえば別の日にも同じ電車に乗っていたような気もしてきた。

 あれ、どこがでお会いしたことありますよね?

 もしも、ここで。どちらかがそんなことを言ったら。
 ひょっとして、なにかがおきちゃったりもするのだろうか。






 まぁ、なくもないんじゃない? 他人事のように、そんなことを思う。
 けれども実際に、どちらも何も話はしないし、目も合わせていない。
 それはもちろん当然のことで、わたしたちは知り合いではないのだから。
 ここで何かが起きて、二人の間に何かしらのつながりが生まれる。無から何かが生まれるのだから、それは確かにビックバンのように奇跡的なできごとだ。
 でもまぁ、ビッグバンがそんなかんたんに乱発されちゃぁ、宇宙が何個あっても足りないわけで。
 
 それでも大学入学当初は、小さなビックバンの連発だった。新歓とか、クラス替えとか。奇跡というにはあんまりにもしょぼい出会いかもしれないけれど、誰かと誰かの間につながりが生まれる。無から1が生まれる。これだって一応、奇跡でしょう?

 で、その奇跡からどれだけたった?
 
 だらだら流れる時間の中で、大方の奇跡は無情にも消え去っていったのだ――なぁんてね。
 カッコいい言い訳ならたくさん並べられるけど、つまりは単純に、私が意気地無しか器量がないか、そのために今こうして一人で携帯電話を睨んでいるだけ。ひとりでね。
 ちがうんだ、今までの相手に「運命の人」がいなかっただけなんだ! なんて、それも言いわけだ。
 20歳そこら子供たちにどうやって運命をみわけられる? どれが偶然で、どれが奇跡? というか、それがもし奇跡ないし運命の出会いだったら、ビッグバンだったのなら、出会った瞬間宇宙ははじけて増大して、私たちが苦労したり悩んだりする間もなく、私なんて無関係に、みるみる大きく膨らんでくれるのかな。初めてご飯に誘う緊張感も、喧嘩も涙も必要なしか。それはまったく、便利だなぁ。

 せっかく無から1が生まれる瞬間に立ち会えたのに。すくなくとも過去の私はおおよその奇跡をむだにしたんだろう。1を2に、3に……そうやって奇跡を育てることもしなかった私が、
 さて、奇跡を準備した所で、その奇跡をちゃんと扱えるかな?



 そんな虚しいことを考えて、気付けば電車は止まっていた。
 慌てて携帯電話を閉じ、私は立ち上がる。この携帯電話で、私はさっきまで何を見ていたんだっけ。
「あの」
 そう声をかけられたのは、電車が走り去った後。
 振り返ると、隣座っていた彼がいて私は驚く。同じ駅だったんだ。
「これ、落としましたよ」
 そう言って差し出すのは定期券。
 さっと鞄のポケットを触れると、ふくらみはない。恥ずかしくなって俯きながら定期券を受け取った。
 そして私が小声でお礼を言ううちに、彼はさっさと上へ昇るエスカレーターへと向かって行く。

 その後ろ姿をぼんやり見ていると、どこががっかりしている自分に気付いたりして、
 あぁもうこれは救えないなぁ、と私は人の流れに上手く乗れずに二の足を踏む。







 



 うーん…書いているうちになんか内容がずれちゃった。あと無駄に長い。

 某しさんは怒っていいよ!