東洋経済オンライン
売上高8兆円、営業利益2兆円、時価総額45兆円――。
ネット業界最強企業のグーグルは、売上高でソニー、営業利益でトヨタに肩を並べる。創業は1997年と日本でのヤフーや楽天とほぼ同じだが、時価総額はヤフーの15倍、楽天とは18倍と大きく差を付けている。トヨタと比べても1.5倍の水準だ(1ドル=125円換算、時価総額は6月5日終値時点)。
グーグルはなぜここまで強いのか。原動力となっているのは、いうまでもなく圧倒的なシェアを握る検索エンジンだ。StatCounterの調べによると、グーグルの検索シェアはパソコンで88.4%、モバイルで93.4%に上る。2位以下にはマイクロソフトの「Bing」やヤフーなどが並ぶが、差は余りにも大きい。
この検索エンジンの存在によって生み出されるのが、グーグルの売上高の9割を占める広告収入だ。中でも検索連動(リスティング)型広告「アドワーズ」を中心とする自社サイト(Google Sites)経由の広告収入は、売上高の7割にも及ぶ。他のネット企業ではフェイスブック(Facebook)ぐらいしか太刀打ちできない状況となっている。
グーグルが今、磐石な広告収入を元に積極化しているのが新規事業である。自動車、ロボット、医療、住宅…。共同創設者で特別プロジェクトを指揮するサーゲイ・ブリン氏(41)が責任者を務める基礎研究所「グーグルX」を起点に、あらゆる分野で成長のタネを探し求めている。
中でも目立つ手法は買収だ。2001~2014年累計の買収企業数は178に上り、2014年は単年で過去最高の件数だった(SPEEDA調べ)。AI(人工知能)技術開発企業「DeepMind Technologies」(2014年1月)、サーモスタット(室温制御装置)企業「Nest Labs」(同1月)、衛星動画の提供企業「Skybox Imaging」(同8月)、神経変性疾患に苦しむ患者向けハイテク・スプーンの製造企業「Lift Labs」(同9月)など、本業とは全く異なる分野への投資が目立っている。なお2015年3月末時点の現金および現金同等物は2.1兆円(うち借入金は4050億円)あり、投資に振り向ける余裕はまだ存分にある。
この買収戦略について、フィデリティ投信・調査部で証券アナリストなどを務めたGFリサーチ合同会社の泉田良輔代表は、「2012年から流れが変わってきている」と解説する。
実際に2011年まで、手薄だったソーシャル領域を直接補強することができる買収、もしくはその領域でコンテンツを活用できるような買収が多かったが、2011年以降は、サービスよりも技術に対する買収が増えている。泉田氏はその狙いを「クラウドを使った企業向け(BtoB)ビジネスを強化するため、買収の矛先をインフラに切り替えているのではないか」と指摘する。
グーグルのクラウドビジネスとは、2013年12月から提供している「グーグル・クラウドプラットフォーム(GCP)」と呼ばれているものだ。GCPを導入した企業は、瞬時に数十億件の検索結果が表示され、月に 60 億時間分の YouTube 動画を再生し、4.2億人に及ぶ Gメールユーザーにストレージ(データを永続的に記憶する装置)を提供しているグーグルのインフラと同じものが利用できるという特徴がある。
「今後のIoT(モノのインターネット)時代におけるデータ量の爆発に対して、他のクラウドベンダーよりグーグルの方が、自らの実体験に基づくビッグデータの扱いに長けている」。クラウドの導入・支援業務を手掛ける吉積情報の吉積礼敏代表は、GCPの浸透に期待を寄せる。
今後、自動運転者やロボットなどを含む新規事業とこのクラウドを組み合わせ、グーグルがBtoBに大きく舵を切っていく可能性は大きい。そうすれば、グーグルは“広告一本足”から抜けだし、さらに強固な収益力を獲得することができるというわけだ。
既存事業の好収益と新規事業への投資で向かうところ敵なしのグーグルだが、「国家との対立」という点で岐路を迎えている。
今年4月、欧州委員会はEU競争法(独禁法違反)の疑いでグーグルに異議告知書を送付した。「一般的なインターネット検索結果の中で、グーグルは人為的に自社の比較ショッピングサービスを優遇している」。欧州委員会のマルグレーテ・ベステアー委員(競争政策担当)は声明でこう切り捨てた。これに対しグーグルはすぐさま反論。「The Search for Harm(不都合を探して)」と題する公式ブログの中で、「グーグルは最も利用されている検索エンジンかもしれませんが、人々は今や様々な手段で情報を発見しアクセスすることができます。異議申し立ての内容は消費者と競合社にとって的外れなものです」と述べている。
日本でもAI技術を核にあらゆる産業に手を伸ばすグーグルに対し、政府は警戒感を持っている。
「事実上、検索ではグーグルがパーソナルデータを独占するという事態に陥っている」と語るのは、民主党の大久保勉参議院議員だ。東京大学先端科学技術研究センターの玉井克哉教授は「グーグルが集めたパーソナルデータは、世界でほかにないデータベースになっている。検索を会社分割して平等に利用させるべき」と当局に対し、踏み込んだ対応を提案する。
プライバシーの問題も頭をもたげる。2014年5月に欧州司法裁判所はいわゆる「忘れられる権利(個人の過去や、無関係となった内容に関するネット上の記載を削除するよう請求できる権利)」を認める先行判決を下した。この問題は日本にも飛び火しており、今後削除要請の数は膨らんでいく見通しだ。
グーグルは毎年、株主総会の後にIRサイトで「Founders’ Letters」と題する株主への手紙を公開している(今年の株主総会は現地時間6月3日に実施)。その中で2011年4月におよそ10年ぶりにCEOへ復帰した、もう1人の共同創設者ラリー・ペイジ氏(42)は、欧州との対立などには全く触れることはなく末尾でこう述べている。
「たった20年近くでテクノロジーは人々を健康に、また幸せにした。信じられないほど情熱的な社員とともに、今後も私は謙虚かつ興奮して挑戦していきたい」(”just like when we started nearly two decades ago, it is possible to create the technology that allows people to lead healthier, happier lives. And, along with our incredibly passionate employees, I am humbled and excited to try.”)
「グーグルは普通の会社ではない(”Google is not a conventional company.”)」と宣言した2004年8月の株式公開から10年余り。確かに1996年に米スタンフォード大で無邪気に検索エンジンを開発した当時の若者二人は、型にはまらない姿勢でここまでたどり着いた。が、今後は社会とどう折り合いを付けていくのか、自ら説明していく必要も増えていくだろう。「”Don’t be evil”(邪悪になるな)」。同じく社是に掲げたこの誓いに、彼らがどれだけ忠実にいられるのか。今まさに、世界中の視線が注がれている。