どんっ


「あ、すいません・・・」


ぶつかってしまった相手は、落とした綱吉の理科の教科書をさっ、と取り、綱吉に渡す。


「クフフ、綱吉君はおっちょこちょいですね」


綱吉が見上げたそこにいたのは、黒曜中学三年の六道骸。

いつものように赤色に輝く右目のオッドアイは長い前髪で隠れており、左の蒼いブルーの瞳が日に照らされきらきらと輝いている。

骸は、理科の教科書に眼を向けると、にっこり微笑んで。


「僕が教えてあげましょうか?」


と言った。

骸は黒曜では頭もいいし、3年だから2年の勉強は終えている。

綱吉はずっと迷っていたが、骸が綱吉の手を引き、少し強引に黒曜ランドへと入っていった。


「あッ!!ボンゴレだびょん!!骸しゃん、どうし・・・」


「犬、千種、下がってください。彼は僕の客ですよ」


「・・・骸様がそういうなら・・・。犬、いくよ」


骸に手を引かれ、奥の骸の部屋へと案内される。

机と椅子、ベッド等があり、意外と豪勢な雰囲気をかもし出していた。


「では、始めましょうか。まず、これはこの法則で・・・」


(今日は何だか皆優しいような・・・。勉強も教えてくれて・・・)


「綱吉君、聞いてますか?」


頬をぷにっと軽く引っ張られ、我に戻った綱吉。

骸は軽い笑顔を向け、優しい瞳で綱吉を見つめた。


「あ、ごめん、骸。えと、次は・・・?」


「これはこの法則で求められるんですよ」


「あっ、そうかっ」


骸とのマンツーマン勉強会は1時間ほどだった。骸も雲雀と同じように教え方がとても丁寧で上手く、分かりやすかった。

綱吉は教科書類を鞄に詰め込むと、骸に別れを告げた。


「ありがとう、助かったよ、骸。じゃあ・・・」


「役に立ててよかったです」


黒曜ヘルシーランドから出た綱吉は、振り返った。

骸が手を振っているように見えたからだ。


「今日は骸と雲雀さんがやけに優しかったなぁ。何でだろう?」


「・・・鈍感ですね」


不意に骸の声が聞こえたような気がしたが、何処にも骸は居なかった。

キーンコーンカーンコーン・・・


並盛町にある並盛中学校の終わりのチャイムがなった。

綱吉はため息混じりに立ち上がると、かばんを持って帰ろうとした。

だけど、何故か帰る気がしなかった・・・。


それが始まりだったのだ。


山本は野球の試合が近いため、放課後練習。獄寺は用事があるといって、綱吉にペコペコ頭を下げて出て行った。

今日は綱吉一人。いつも三人一緒だったため、隣がいない違和感を覚える。


今日は帰る気がしないから、今日の授業の分からないのを勉強しよう。

そう心に決めた次の瞬間。「何してるの」



「ひっ・・・雲雀さん!?」


聞き覚えのある低い声音。並盛中風紀委員長・雲雀恭弥。

2-Aの扉をガラガラと閉めると、綱吉の席の前に腰掛けた。


「・・・雲雀さん?あの」


「分からないの?数学」


「えっ・・・あ、はい。って雲雀さん見回りは」


「いいよ。草壁に任せておく」


雲雀は教科書を見つめ、何かを頭でフル回転させているようだ。

綱吉の頭上には疑問符がたくさん浮かんでいる。


「・・・これは、この式を代入するんだよ」


「えっ?・・・は、はい」


「それはこれを移行させてy=・・・」


雲雀の勉強会は1時間ほどかかった。

でも、雲雀の教え方はうまかった。ダメツナの頭でもしっかりと問題が解かれていく。


「ありがとうございました、雲雀さん。えと、分かりやすかったです」


「・・・ふぅん。それはいいとして、早く帰りなよ」


雲雀はくるりと背を向けたが、雲雀の顔が微笑んだように見えた。

綱吉はかばんから理科の教科書を取り出し、読みながら家へと帰った。

骸がフランの力によって脱獄したころ、日本の綱吉たちの前に白蘭が現れていた。

白蘭は綱吉に向けて手を伸ばしている。

綱吉は死ぬ気弾の入った缶を握り締めている。


「早くボンゴレリングを渡しなよ♪命が危ないんじゃないの?」


「・・・そんなことはしない。これは俺達の物だ」


白蘭の目が鋭くなっていくのは、誰もがわかっていた。

だが、百蘭にリングを渡すなどという行為は、世界の破滅にかかわることである。

白蘭の瞳からは光は消え、『リングを渡せ』とばかりに熱い視線を感じる。


「・・・クフフ、お待たせしました、沢田綱吉」


「・・・むく・・・骸?」


骸がふわりと降りてきた。クロームが一歩前に飛び出し、骸様・・・と頬を染めて呟いている。

骸は百蘭を睨みつけ、二人の間で火花が散る。

白蘭はふと何かを思いついたように、笑顔を咲かせ、鼻歌交じりにこういった。


「骸クンが僕のものになれば、リングやユニチャンはいらない」


「・・・骸がほしい?」


綱吉が声を震わせながら復唱した。

獄寺や山本、雲雀は骸の顔を覗き込む。

骸は驚いたように眼を開き、白蘭をずっと見つめている。


「・・・クフフ、僕がほしい、ですか・・・」


「うん♪骸クンをこっちのものにすれば、君達はもう襲われずに済むんだよ♪」


「そんなの嘘だ!骸を自分のものにした後必ず戻ってくる!」


綱吉は半泣きになりながらも骸をかばう。

綱吉は両手を広げて、骸の前に立った。


「そりゃ、骸は悪いやつかもしれないけど、ファミリーだから」


「・・・綱吉君」


骸は綱吉の手を下ろした。僕が行けば助かるかもしれません、と耳元でささやくと、綱吉の横を通り過ぎ、手招きする白蘭のほうへと向かった。


向かおうとしていた。


白蘭は即座に手を引っ込めた。

リボーンのペット、レオンから放たれた鉄砲の弾は白蘭の左腕をかすった。

右手で持っていたマシュマロを落とすと、白蘭は左手の傷口を手で覆う。


「・・・帰って来い、骸。」


「アルコバレーノ・・・?僕は」


「何も言わないで戻ってくれば。君とはまだ決着もつけてないしね」


雲雀がファミリーの背後から放った声は、しっかりと骸の心に響いた。

キツイ言い方に聞こえるかもしれないが、雲雀らしいともいえるその言葉。

骸は拳をぎゅっと握ると、くるりと白蘭に背を向けて歩く。


「僕は貴方のものにはなりません。僕は・・・」


「ボンゴレファミリーのものです」


白蘭は軽く舌打ちすると、消えていった。


まだ諦めた訳ではないよ、骸クン・・・


空からそんな声が聞こえてきたが、綱吉たちに聞こえるはずも無かった。