骸が『レオナルド・リッピ』に憑依し、白蘭の書記として動いていた頃。

白蘭はリッピの正体をもう知っていた。

そして、早くリッピの素顔が見たいと、うずうずしていたのだ。


いつものようにマシュマロをふにふにして遊んでいる百蘭を横目に、骸・・・リッピは笑顔を向けている。

紙の束をまとめると、リッピは白蘭の元へと書類を渡しにいった。


「白蘭さん、これがこの間の戦いの・・・」


「ウン、その資料は知らなくてもいいや。」


「・・・?白蘭さん?」


ふにふにしていたマシュマロを口に含むと、甘い風味が口いっぱいに広がる。

白蘭はマシュマロの袋から新しいマシュマロをとると、リッピの口元にもって行き、一言ポツリと呟いた。


「僕が知りたいのは、君の正体かなッ♪」


「・・・え?・・・わッ・・・」


気づかない間に、白蘭に柱まで追い詰められていた。

背中が柱に当たると、ビクッと体を震わせ、持っていた資料がすべて床に舞い散った。

リッピはそれを拾おうとしたが、白蘭にとめられ、何も出来なくなる。


「・・・はやく、正体バラしちゃいなよ♪」


白蘭は笑顔で言い放った。


「骸クン♪」


「え・・・。」


白蘭は笑顔を向けたままである。

リッピは顔を引きつらせているが、下を向いて笑っているようだった。


クフフ・・・。


不意にそう聞こえた。

『クフフ』とは、骸の特徴的な笑い方だった。


「お見通しなんですね、全て」


「やっと出てきたね。僕は君の事が見たくてウズウズしてたよ?」


「しかし、僕はボンゴレリングなど持ってません。ボンゴレの事も吐きませんよ。」


「あくまで何も吐かないつもりかぁ。でもね。僕はそんなの必要ない」


白蘭から笑顔が消えた。


「骸クン。君が欲しいんだよ♪」


「・・・は、僕の・・・ッ!?」


軽く、白蘭が骸の唇を奪った。骸は上目遣いで百欄をにらみつけているが、白蘭は笑顔を絶やさずに骸を見ていた。

骸は横から逃げようとしたが、白蘭に固定され、自由に動けない。


「そんな目で見てもダメだよ。誘ってるようにしか見えないから♪」


「・・・クフフ・・・」


不意に骸が微笑んだように見えた。

すると、リッピの体へと変貌し、リッピが白蘭のほうに倒れこんできた。

骸はリッピに取り付いた後、自分の体へと戻ったようだった。


「・・・ッチ・・・ミスったな」


トントン。不意にドアが鳴った。

ドアを叩いたのは入江正一で、白蘭に作戦の相談をするようだった。


「・・・白蘭さん、何かしてたんですか?マシュマロが零れて・・・」


「大丈夫だよ、正チャン♪少し遊んでいただけだから」


「そうですか、では失礼しました・・・」


パタン。正一が出て行った後、静かにドアがしまる音が部屋に響いた

白蘭はゆっくりと立ち上がり、新しいマシュマロをつぶしながらドアの前まで歩いた。

ちらりと見えたのだ。

正一の右目が赤かったことが。


白蘭は手の上のマシュマロを食べると、ポツリと呟いたのだった。


「逃がさないよ♪骸クン♪」


「師匠~~。そろそろ起きてもいいんじゃないんですか~~。」


カエルの帽子をかぶった青年、フランが骸の肩をゆさゆさと揺らしている。

骸がヴィンディチェの牢獄から抜け出して、もう何日がたつんだろう。


暗殺部隊ヴァリアーの新入り幹部・フランの幻覚により、アイリス達に化け、骸を脱出させた。

ヴィンディチェ達もフランの幻覚を見破ることが出来ず、後からついたアイリス達を惑わすことが出来た。


「骸ちゃぁぁん、そろそろ起きてもいいんじゃないのぉ?」


「あっ、何するんだびょん!骸しゃんに触るなッッ!」


千種はさっさと荷物をまとめて、早く日本に帰ろうとする表情が浮かんでいた。

骸に触れようとしたM・Mの手を払いのけ、骸に誰にも触れないように両手を広げて仁王立ちする犬。


「師匠~。ししょ・・・ッゲロッ!」


フランが骸のベッドに腰掛けたときだった。

フランがびっくりした拍子にベッドから転げ落ちた。


「・・・し・・・師匠?」


「・・・ふ・・・ココはドコですか・・・?だいぶ寝てたみたいですが・・・。」


骸が目を覚ましたのだった。

犬や千種、MMが骸のベッド付近に輪を造る。

質問攻めに会う骸の顔は何かと引き攣ったような表情の中に、また皆と話せるというような嬉しさもあった。


「・・・てことでー、師匠はこれから日本に行かなきゃ行けないんですー。」


「大空のアルコバレーノ・・・ユニを守るため、ですか・・・。」


骸は一拍おいて、つらつらと話し出していた。

何か思い出すような仕草もあったが、はっ、と思い出したように一人の男の名前を語った。


「白蘭・・・」


「師匠~。マシマロがボンゴレを狙ってるんですよー。行かなくていいんですかー?」


骸はハンガーにかかった自分のコートを纏うと、三叉槍を握り、前に一歩踏み出した。

骸の足取りはしっかりしたもので、眠っている間に力は回復したと見ていいものだった。


「・・・あっ、骸ちゃん、動いてもいいの?」


「骸しゃん、もっと休まないと・・・」


兼のその咲の言葉を制すと、骸はポケットからヘルリングを2個取り出し、右手に嵌めた。

ヘルリングの輝きは骸に似合い、きらきらしているものだった。


「・・・行きましょう・・・日本へ」


犬・千種・MM・フランは骸にアイコンタクトを渡すと、骸は頷き、扉を開いた。

犬や千種達を逃がし、牢獄に入って何ヶ月がたつんでしょうね・・・。


彼らは元気で居るんでしょうか。


雲雀恭弥と戦うことが出来ないのは残念ですね・・・。


綱吉君とも、まだ契約してませんし・・・。


・・・クロームも、心配です。


まぁ、クロームはボンゴレ達が守ってくれているんでしょうね。


クロームも僕から親離れしたみたいで寂しいです。


・・・もしかしたら、皆さん僕の事を忘れているのかもしれませんね。


それはそれで・・・寂しいです。


輪廻が使えないこの牢獄をどうやって抜け出そうかと


悩んでいたこの日ですが


・・・


僕が脱獄したとしても


喜ぶ人は居るんでしょうか・・・?


犬や千種、クロームは・・・?


僕が脱獄すれば、また奴らが僕を追ってくる。


直に・・・犬や千種を狙うかもしれません・・・。


僕は綱吉君をのっとるためだけに


並中へ通っているのですから・・・。


・・・。


クロームを通じて並中へ行きますけど


喜ぶものは誰一人としていません・・・。


僕はこのまま牢獄に居たほうがいいんでしょうか・・・?


『そんなこと・・・ない・・・』


『骸様は・・・私達にとって大切な人・・・』


クロー・・・ム・・・?


『骸様は・・・私の命の恩人だから・・・』


『骸様は私が助ける・・・!』


クローム・・・。


『・・・骸?』


綱吉・・・君・・・?


『お前は俺が助ける。』


『俺たちボンゴレが助けるから』


『もう少し待ってろ』


・・・綱吉君・・・


僕は・・・


貴方の身体を奪おうとする敵ですよ・・・?


『・・・それでもお前は霧の守護者だろ?』


・・・つな・・・よし・・・・・・くん・・・


『ねぇ』


・・・雲雀・・・恭弥・・・?


『僕達のバトル、決着ついてないよね。』


・・・つかまってしまいましたからね


『じあ、白黒つけなきゃいけないんじゃないの?』


『そろそろ助けに行くから、それまで待ってなよ』


・・・


『待ってないと咬み殺すから』


分かりましたよ。


僕はココから動けません


だから・・・


貴方達が助けに来てくれると信じて待ってます


もし、また捕まってしまったとしても


貴方達、ボンゴレと数秒でも長く一緒に居られたなら・・・


生身の僕の身体で、彼らを触れることが出来たら


それだけで僕はシアワセですから


・・・もう少しだけ


我慢してみますか・・・。