最大手ローの「撤退」発言に見る法科大学院の「世間知らず」さ | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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本日の日経新聞に面白い記事が掲載されていましたのでご紹介させていただきます。
法科大学院 理念倒れ
予備試験の人気過熱、志願者数が逆転
    2014/6/17付    日本経済新聞 朝刊
 
 法科大学院に行かずに司法試験に挑戦できる「予備試験」の人気が過熱している。今春の志願者は法科大学院を初めて逆転。「近道」を求める学生の勢いは止まらず、法科大学院教育が中核になるはずだった司法制度改革の理念は風前のともしびだ。
 「制度自体が壊れる恐れがある」「切迫した状況だ」。6月12日、政府の「法曹養成制度改革顧問会議」の会合で、予備試験人気の高まりを問題視する発言が相次いだ。東大や京大など主要法科大学院6校は連名で「教育の場そのものが失われかねない」とする緊急提言を出した。
 中央大法科大学院の大貫裕之教授は「現状が放置されるなら撤退も辞さない」と語気を強める。

時間と費用節約

 多彩な人材の確保と法曹人口拡大の要請に応えるため2004年に導入された法科大学院。11年に始まった予備試験は本来、経済的な理由で法科大学院に通えない人などにも法曹への道を開くための「例外措置」だ。
 平均合格率は3%という旧司法試験並みの難関で、合格すると司法試験を受験できるが、1年目の司法試験合格率が68%、2年目も71%という好成績を出したことで状況が一変。平均20%台の法科大学院組をよそに、受験生が殺到している。
 「予備試験が優先。法科大学院は保険」。法曹を目指す東大2年の男子学生(22)は言いきる。修了に2~3年かかる法科大学院はそのまま司法試験に合格したとしても法曹になれるのは20代半ば。数百万円の学費も割に合わないと感じる。「法科大学院は研究者志望のために残すくらいでいい」と突き放す。
 大手司法試験予備校「伊藤塾」の今年5月の調査では、学習目的の1位に予備試験を挙げた人は69%だったのに対し、法科大学院の合格は13%どまり。「早く実務に就きたい」「学費工面が困難」などが理由という。
 優秀な人材を確保したい弁護士事務所も予備試験組に注目。ある大手弁護士事務所は今年12月、予備試験組限定の就職説明会を実施する。
 「法科大学院中退」「法学部卒」……。別の大手弁護士事務所のホームページの若手紹介欄では最近、こんな学歴が目立つ。キモは「法科大学院を修了していない」こと。予備試験経由で司法試験に合格した「優秀メンバー」だと、顧客らに暗に分かる仕掛けだ。
 予備試験の合格者の中には、「本番」の司法試験の合否判明前に弁護士事務所から内定が出るケースもある。
 ベテラン弁護士は「予備試験がブランド化した。事務所の囲い込みもヒートアップしている」。予備校関係者も「難関を突破した予備試験組を採用側が好むのは当たり前。予備試験は司法試験の『1次試験』化していくだろう」と予想する。大学院側からは「法科大学院は予備試験に落ちたら行く場所という印象だ」と悲鳴が上がる。

受験制限に異論

 司法制度改革はもともと、旧司法試験が「点による選抜」と批判された反省から、法科大学院での実務教育に基づく「プロセスによる法曹養成」を標榜した。
 ところが文部科学省主導に反発する法務系議員らの間で「法科大学院を特別扱いすべきでない」との声が上がり、「大学院経営に悪影響が出る」との懸念を押し切る形で予備試験が設けられた経緯がある。現状は制度設計段階から予想された展開ともいえる。
 政府は予備試験の受験制限を検討中だが、異論もあり先行きは不透明だ。ある法務省幹部は「制限しようとすれば駆け込みでさらに学生が殺到し、司法試験制度が瓦解するかもしれない。だが、もはや一度壊さないとどうにもならないのではないか。迷宮入りだ」と打ち明ける。
 司法修習生の就職難の影響で法曹志願者は減少傾向にある。今年の司法試験出願者は9255人で、5年ぶりに1万人を割った。「法曹の仕事は本来地味で、お金持ちになるためのものでもないが、夢を若者に伝えたい」。顧問会議座長の納谷広美・明治大元学長はこう話すが、法曹養成を巡る最近の迷走は、むしろ若者を遠ざけつつある。

 国民生活の身近な「医師」として働く、層の厚い法律家――。司法制度改革がうたった理想を実現するはずの養成制度は今、正念場を迎えている。

(山本有洋、伊藤大樹)

日経がここまで書くか、と驚きました。なにしろ、今までの日経の基本スタンスは、一貫して
1 プロセス教育の法科大学院\(^o^)/マンセー
2 旧試験は一発試験で悪である
3 予備試験は「抜け道」で悪である
4 修習給費制は甘えである
5 法科大学院の借金?自己責任やろ
6 お前らは合格後も19世紀型完全自由競争原理にさらされろ
7 競争とは言ったが、それでも弁護士はタダ同然の公益活動にも身を捧げて成仏しろ

というものでした。
しかし、法科大学院志願者の激減、一方で予備試験受験生の増加傾向(といっても旧試験ほどではないが)という「現実」は、もうどうにも覆い隠すことができないらしく、また、政権与党の提言などもあって、これら日経の基本スタンスは地盤から崩れています。

先の記事でも書きましたが、おそらく日経は、懇意にしている取材源がたまたま法科大学院寄りの人物だったために、法科大学院\(^o^)/な情報だけを偏って拾ってしまう習慣がついてしまい、結果的に、上記のようなスタンスに陥っていたのかもしれません。
多面的取材を怠っていたといえばそれまでですが、法曹養成など、日経新聞の中では、おそらくマイナー記事扱いに過ぎず、そこまで本腰入れて多面的取材するほどのネタでもなかったのかもしれないなあと思えば、ある程度やむを得ないところかもしれず、マスコミを責めるのは酷なのかもしれないと、今にして思います。
とはいえ、「世論」を誤導した罪はかなり大きいと思いますが。

それはさておき、まず注目すべきは、中大法科大学院の大貫教授のご発言です。
最初見たとき噴きました。

「現状が放置されるなら撤退も辞さない」

これ、今年の「弁護士業界流行語大賞」にノミネートされそうですね。

これに対する私の意見は、まず、「知ったことか」(弁護士業界流行語大賞2014エントリー済み)です(出典:http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai7/gijiroku.pdf)。まとめますと以下のようになります。
○当職の意見 別に阿部顧問に反論するつもりはないのですけれども、各法科大学院から提言書とかいうものがしきりに届いておりまして、それを見ますと、いろ いろなことが書いてありますけれども、予備試験受験者が増えて、法科大学院志願者が減って、法科大学院が維持できないみたいな話は結構多いのです。それは、我々としては知ったことかというつもりでありまして

ところで、私は中大法曹会にも所属していますが、中大は、法曹を出すことに血道を挙げてきた大学であり、それが大学の重要なアイデンティティでした。したがって、法曹の価値が落ちると、同時に、大学の価値も落ちるという仕掛けになっています。
法曹の価値下落=大学の価値下落、なのです。
そのせいか、伝え聞いた話では、法学部の偏差値がずいぶんと落っこちたとのことです。
つまり、既に中大の価値は、法科大学院ができたために法曹の価値が貶められ、その結果、加速度的に落ちてきたようです。OBとしては残念ですが。。。

では、法曹の価値を下落させた下手人は誰なのか?
いつも申し上げておりますが、
・志願者の層を絞りに絞って、誰もに自由な参入を許さなかった法科大学院制度 及び
・この制度を維持するためになされてきた、弁護士の価値を貶めることも辞さない様々な言動(司法試験合格者激増論の維持、それに付随して弁護士をずいぶんと貶める言動の数々=例・弁護士は食えると思うな甘えるな、など)
です。
その積み重ねが功を奏して、弁護士業は、かつてない苦境に晒されることになったようです。

マクロ的に業界を俯瞰すれば、法科大学院によるこうした言動のおかげで、人様の紛争に介入するというきわめてセンシティブな仕事である弁護士が、その職務を全うするうえで築き上げてきた様々な叡智やノウハウ、バランス感覚が悉く破壊されました(もっとも、実務の何たるかを知らない多くの法科大学院の教授には、弁護士の仕事のセンシティブな側面や機微、叡智など、まったく理解していないでしょうから、そのような影響など露ほども考えていなかったのでしょうけれども)。
したがいまして、その元凶かつ悪の枢軸である法科大学院が「撤退」することは、法曹の価値の低下を食い止めることができるので、弁護士の本来の仕事のあり方※からすると、大歓迎されるべきことで、むしろ市民生活にもプラスの影響をもたらすといえます。

※弁護士は人の紛争に介入するという性質上、一定の威厳というか説得力みたいなものも必要で、それを「傲慢」と評されたり、相手方からしたら気分悪いことだってあるはずです。それを「傲慢だから許せない」と十把一絡げにされるのも、職務の性質上、変な話なのですが、ともあれ、弁護士数が増えたことは事実なので、その中で、過当競争を抑制して適切な競争を働かせることで、利用者である市民にとっても、ある程度、いい影響は出る可能性はあると考えています。

おそらく、大貫教授は、こう考えたんでしょう。
1 中大という最大手法科大学院が「撤退」という選択肢を取ること=法科大学院制度の完全崩壊を意味する
2 政府は、法科大学院制度が崩壊すると困ると考えている
3 それで、「撤退」というのが、ブラフになると考えている
しかしながら、政府といっても、法科大学院制度が崩壊して困るのは文科省ぐらいのもので、法務省は、予備試験枠を直ちに拡大し、事実上、法科大学院を通過しなくても司法試験を受けられるようにできるというカードを持っているので(司法試験法4条1項2号)、何にも困らないと思います。
ですから、上記「撤退」という文言が、ブラフになるかというと、

まったくならない

ということになります。
むしろ、上記の通り、実質的にみても、法科大学院を維持する過程で出されている法曹の価値下落をもたらしめる言動の元凶がなくなるだけで、最終的には、利用者である市民にとっても、ある程度、良い影響が出るものと思います。
結局、大貫教授は、こうした実質面を何ら考慮せず、「撤退」と駄々をこねれさえすれば、政府は予備試験制限に動く、程度の発想しか持ち合わせていないのかな、というのが私の抱いた印象であります。
そもそも、予備試験制限が、憲法違反の疑いのある制限であることは、すでに前の記事でも書かせていただいたとおりですが、憲法違反の疑いのある提言をしておいて、なおかつこうやって「撤退」といいながら駄々をこねる、というのは、世間に与える印象としては、最悪だろうと思います。
そういうことも考えないのは、世間知らずの謗りを免れないというべきでしょう。

そのような実質面も合わせて、上記「撤退」発言については

どうぞご随意に。むしろ大歓迎します。さっさと撤退したほうがいいと思います。

というのが、私の意見です。
というか、中大OBとして、これ以上いらんこと言わんといてくれ。(;´Д`)といいたいです。