実は、既得権益をむさぼっているのは法科大学院でした。(珍しく司法試験合格者数について) | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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1 はじめに
私は、司法試験合格者数の議論にはあまり関心がありませんでした。
どっちでもよいからです。
はっきり言ってしまえば、合格者数激増→就職難→待遇悪くなる的な話に矮小化されるのであれば、事務所をもっている自分としては、傭いたい側ですから、いい人を選ぶ機会が多数与えられ、しかもそのコストが下げられるのであれば、願ったり叶ったりだからです。

しかし、それじゃアカンやろ。という考えも、一方ではあります。

合格者は、法科大学院・修習というコスト(労力的・金的・時間的そして精神的)をかけ、人生ぶっ潰れるかもしれんというリスクと戦って打ち克った連中なのだから、そのリターンはしないといかんやろという気持ちがあります(法科大学院の教育には、ほとんど価値を見出しておりませんが)。そうしないと、後輩を育成できないだろうし、いい人が入ってきてくれないと思われるからです。

そんなわけで、人口問題について、この1ヶ月程度ですが、ちょっと考えるようになってきました。

2 前半部分~法曹人口問題(司法試験合格者数問題)についての考え
各種統計データからして、法律相談の件数や訴訟の件数は、H21ころを境に激減しています。訴訟でいえば約3分の2、破産も減少、法律相談センター(福岡の天神)は半減。
さらに、司法修習生は、半数が就職できずあぶれています。これを言い過ぎると、若手の経済問題か?と思われそうですが、問題はそんなに単純なものではなく、ただの経済問題に矮小化したら、問題の所在を見誤るので注意が必要です。
あぶれている結果、どういうことが起きているかというと、げにも恐ろしいことが起きておるのです。

簡単にいえば、弁護士ってのは、悪いことをしようと思えばできます。
ひどい例ですが、ゴルゴ13のように、ギャランティをもらって殺人行為を請け負う「殺し屋」ってのがいますよね。つまり、ゴルゴよろしく、法的な悪事をするヤツを、カネで雇おう、ってビジネスがあります。
すなわち、カネに困っている弁護士を取り込んで、法の抜け穴を使ってダーティ・ワークさせようって話です。
この手の話は、昔からあります。

ところが、昔は、新人弁護士は、法律事務所にそこそこの待遇でひっぱりだこだった=そのままその事務所で鍛えられ、弁護士固有の嗅覚や職業倫理を、実務経験を通じて学び 実務能力をつけ(OJTというやつ)、それで独立していっていました。だから、そういう悪いお誘いに乗る人ってのは、かなり限られていたわけです(まじめにやってるほうが基本的にトクするシステムだった)。
ところが、いまではそういうモデルが崩壊しています。
つまり、弁護士固有の嗅覚や職業倫理を 学ぶ機会のないままの人も多数いると思われます※。
(※法科大学院が「質量共に豊かな法曹を育てる」とか言ってますが、法科大学院がやれ ることは、実務経験がまるでなく無知な学者が誇りをかぶった法学という机上の空論(かつ自分の好きな分野を中心に)を語っているだけで、実務的OJTすな わち上記のような弁護士固有の嗅覚や職業倫理など学ぶ場所になっていない。嘘だと思うのなら、学者教員に、刑事の否認事件(それもギリギリ、かつ被疑者か ら様々なリクエストが飛んでくるタイプの)の接見をやらせてみたらよいと思います。多分動けないと思いますよw)

すると、固有の嗅覚なり職業倫理がないので、こういうことが「弁護士として危険」であることに気付けない(規範意識の低下)。
あっさり、しかも安価に、取り込まれやすい環境が整ったといえるでしょう。
悪いことをしないと、飯が食えない。そして借金(法科大学院、修習でてんこもり)が返せない。マジで破産するしかない。ホナいっちょやったろか、ということになる。しかも規範意識の低下した状態だと、心理的障碍はない。

こういうことがこれから続発するといえます。
こうなると、「弁護士」って資格そのものが、信用されなくなっちゃいますねー。
(そうならないことを祈ります・・・が、今のままだと、そうならないことがあるとしたら、それは天佑だと思います)

だから、司法試験合格者数は、多すぎるから、見直そうよ、というのが私の意見です。

ここまでが前半のお話です。ここまでは、司法試験合格者数を増やしすぎるとなにがまずいか、という一般論です。

3 後半~本当の「悪の枢軸」「既得権益」は誰やねん?
私が言いたいのはここから。後半です。
「司法試験合格者数は減らそう」という、上記のような意見は
「既得権者ないし抵抗勢力」
のレッテルを貼られるのが実情です。

しかし、考えてみてください。
合格者数が減らされると最も困るのは、法科大学院なのです。
理由は以下のとおり。
1 法科大学院制度は、合格者数を3000人としたときに(増員したときに)、合格者の質を保つないし向上させることを目的に作られた、という建前があります。が、これはあくまで建前にすぎないといえます。
2 一方で、法科大学院制度のコンセプトは

「簡単に受かるよ!だから、法律を勉強したことない人もいらっしゃ~い!!」

というものです。
法科大学院も、設備や人員を用意している以上、一定以上の司法試験合格者数が確保することではじめて「商売」になります。だから、「甘い言葉」でお客を釣らないといけない。セールストークです。

つまり「司法試験合格者数を多数確保しよう」と言っているのは、なんのことはない。法科大学院の上記セールストークを維持するため。早い話が

「商売」

のために他なりません。

そもそも、かかる主張をしているのは、ほとんどすべて、法科大学院関係者もしくは法科大学院制度を何らかの理由で擁護したい勢力のみ、というのが実情です。
それを、「まだまだ弁護士が足りないんだ」「地方の津々浦々に弁護士を配置するんだ」などともっともらしい理屈をつけて「もっと司法試験合格者を増やさなくてはならないんだ」とか言っています。
が、上記の通り、数値データ上、弁護士の需要は激減しています。
つまり、弁護士ばっかり増やしても、前半に書いたような問題をさらに起きやすくするだけなのです。
ところが。自分たちの

「商売」

のためならば、前半に書いたように、社会が混乱に陥り、「弁護士」が信頼ならない存在の代表格みたいになったとしても、そんなことどうでもいい、
「そんなのは自己責任だ」
で片付ける連中ってのは、どこの世界にもおります。

結局、合格者数を激増のまま維持したい人ってのは

「商売」

のために言っているにすぎないんですね。

コレに対して、合格者が増えすぎていっとき問題になった公認会計士業界では、合格者数を減少させることが、あっさりとできました。
それが、司法試験ではできない。

その理由は

法科大学院があるから
法科大学院の商売の邪魔になるから

それだけのことです。

そうだとすると
「既得権」をむさぼる「抵抗勢力」は、
「司法試験合格者を多数確保しよう」
と主張している勢力であることは、明らかです。

その勢力は、まさに、法科大学院の周辺にあるといえるでしょう。