津波による漂着物の処理に関する法律問題。 | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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福岡の中心部・天神駅真上の場所にある法律事務所の弁護士です!
日常の法律問題や、弁護士業界のネタ、その他をつらつらと書こうと思います。

ネットを見てると、こんな記事がありました。

これは、
自分の家の敷地に、誰のだかわからない自動車が置かれています。
自分が持ってきたのではありません。
これをどかせる費用は、敷地の持ち主が負担するの?それとも自動
車の持ち主が負担するの?
という問題です。

自動車が自分の家の敷地内に入り込んだ原因が、自分によるもので
ない場合は、津波だろうと、泥棒が置いて
いった盗難車だろうと、本質的には同じ問題に帰着するのです。

こうした、敷地内に他人の自動車が置き去りにされるという問題が起
きた場合、私たちがまずアドバイスする内容は以下のとおりです。
1 ナンバープレートから持ち主を割り出す。通常、ナンバーだけでは
 所有者情報を知ることができないのですが、私有地置去りの場合だ
 け可能です。→
参考サイト
2 持ち主に内容証明郵便等で所在を知らせる。
3 撤去を「請求」する。

ここで、「請求」と書いたのは、「あんたの費用でどかしてね」という趣
旨を含んでいます。つまり、車の持ち主の費用でどかすことを請求す
ることは、法的には可能なのです。

もっとも、内容証明で「いついつまでに撤去してくださいね」としてもな
お撤去しない場合、
1 妨害排除請求の裁判を、車の持ち主に対して提起する。
2 判決をとる。
3 強制執行を申し立てる。
  このとき、ちょっとめんどうですが、強制執行費用を車の持ち主に
  対して請求するやりかた (代替執行といいます)を利用する。

 ※ 強制執行にかかる費用(トラックやレッカー代など)は、とりあ
  えず申立人(土地の持ち主)負担。代替執行でも一旦立替え。

4 強制執行までに車の持ち主が撤去しない場合、断行する。
  (代替執行の場合)撤去費用を、車の持ち主から回収する(その
  ための差押えなんかも行う)。

とってもめんどくさいし、ここまでいくと費用もかかるのですが、こうし
た手順を踏まずに、いきなり処分してしまうと、他人の所有物の所有
権を侵害し、
「損害を賠償しろ!」
と言われかねないことになります。

津波によって他人の車が自分の家の敷地に入ったときも、理論的に
は同じ処理をする必要があります。
しかし、津波の場合には、以下の点に注意する必要があります。
1 持ち主がどこにいるかわからない。場合によっては死亡している
 可能性がある。

2 車が損壊して再起不能である可能性が高いこと。

1は、ナンバーから割り出した住所に内容証明を送っても無駄という
 ことを意味します。
 また、さらにやっかいなことには、妨害排除の訴訟を提起するにも、
 誰を被告にするのか(死者は被告にならないから、相続人を被告に
 する必要がある)という問題もあります。

しかしながら、2がひとつの突破口になると思われます。
持ち主から何かクレームを付けられるとすれば、「車を勝手に処分し
たことによって損害を被った。損害賠償を支払え」というものです。
でも、はげしく損傷した車両なら、損害を観念できません。
したがって、車の持ち主から訴えられたとしても(訴えるのは自由に
できる)、「損害ありませんよ」と主張することで、請求から免れること
は可能なことが多いと思われます。

よって、津波等で自分の家の敷地に入り込んだ他人の車を勝手に処
分したとしても、事実上、問題になることは少ないといえます。

ただし、その場合でも、以下の点にだけは留意が必要です。
◯車両の状態をきちんと記録しておくこと(損傷が激しく、再起不能で
 あることを立証するため)。
◯車内の遺留品に注意すること。

漂着物について起きる法律問題について、少しでもお役に立てばと
思います。震災に伴う法律問題についても、気軽に弁護士にご相談
されてください。