今日の夕御飯は昼の残りの厚揚げにチーズを挟んだやつしよう。

 

そう思い、厚揚げを斜めに切り、ポケット状にするために断面に切込みを入れた。スライスチーズも斜めに切って、さあ挟むぞ

……チーズと厚揚げの大きさはほぼ等しい。

断面に入れた切込みは余白として5mm程度余白を持たせている=平行にチーズを入れ込むのは不可能。

 

ここで、頭を使ってチーズに切り込みを入れて中で多少重なってもいいようにするとか、チーズをカットして切り込みに合わせるなどの柔軟性があれば良かったのだが。我は歴戦の猛者。逃げなど許されぬのだ。

 

不肖歴戦の猛者の我は、何ゆえか厚揚げの方を真っ二つにし、チーズをサンドイッチにするという愚行に出た。

謂て曰く「熱を加えれば溶けたチーズが接着剤の役割を果たすであろうぞ」

 

取り敢えず表面に片栗粉を付けて焼く。

戦術的に負けても、戦略的に勝てば良いのである。多少工程があれでも、完成して味皇になれれば、それが我の勝利ぞ。

 

チーズを溶かすために蓋をしてしばらく焼いたまでは良かった。蓋をあけたらいい具合に接着しておるでは無いか。計画通り。

我はそのまま蓋を外し、味付けのために砂糖、醤油、みりんを投入してひと煮立ち。

 

ここで、不測の事態。

厚揚げという、油揚げ寄りの名称であるものの、所詮は豆腐。

豆腐に秘めたる水分と、溶け出したチーズ&タレから上がる水蒸気が、「厚揚げに上手いことチーズが挟まったやつ」計画を狂わせる歯車となったのだ。

 

煮詰めるにつれ、ズレ始めるサンド豆腐。タレを絡めるためにひっくり返そうとする我を嘲笑するが如く逃げ、分解しようとする豆腐。

 

我は、戦いを放棄した。

 

微妙にズレている厚揚げサンドは片面のみいい焦げがつき、プレートの中で異彩を放つ。

 

退役軍人、我が家の認知症などサンドを分解して水菜を挟んで食し始めた。

人様が作成したものを一口も食べず勝手なアレンジは失礼極まりない。夫婦であれば喧嘩が勃発する案件である。我は将ゆえ、がつんとその旨指摘した。

 

まあ、味皇であったので、戦略的には負けてはおらぬのだ。フハハハ……虚しい高笑いが響いたとか響かなかったとか。