うちの会社は、経費節減のため、冷房は厳禁。
――の、はずでした。
それが、気がつくとあちらの部署が冷え、こちらのフロアも涼しく、となって来、なしくずしにあちこちで冷房を入れるようになっていました。
ここ数日では、もう冷房をつけずに汗をかきかきいるのは「冷房はイカン」と決めた部署と、うちのフロアだけになってしまいました。
ついに今日、暑さに耐えかねた他部署のオジサマが、それでも自分がスイッチを入れる勇気はないようで、ベテランさんに「このフロア、暑いよね。仕事に影響が出ない? ねえ」とあからさまにねだってきました。
ベテランさんは、
「冷房はいけないんじゃないの」
とぶつぶつ言いながらも、首に当てていたアイスノンを置いて、席を立ちました。
設置されている冷房は、いつからあるのか、誰も知りません。会社が設立された時からあるらしい、という噂を聞いたことがあります。とすると30年か、それ以上前のもの? きゃー。
幅は両手を広げたくらい、高さは天井に届くほど、厚みは小さな机1個分。コンパクト化が進む前のエアコンはこんなに大きかったのかと、家電製品の歴史(のスタート地点)を感じます。
。
元はクリーム色だったらしい塗装は、いわく言いがたいラクダ色になっています。白かったスイッチも、今は日がたちすぎた豆腐のようで、いかにも古びています。
ベテランさんが、冷房のスイッチを入れました。
ゴガガガ、ゴガガガ。
なにかが中でひっかかる音がして、最初はすぐスイッチを切りました。
フロアに緊張が走ります。
壊れたのかな。でも壊れても、予算がないから買い替えられません。そうしたらこの夏はどうしよう。
少し機械を休ませて。
もう一度、スイッチオン。
入れたとたん、フロアの反対まで舞い届くほこり。
ゴウンゴウンと響き渡る轟音は、まるで電車の中にいるかのようで、うるさくて電話の声が聞き取れません。
加えて、強烈な寒さ。しかも局地的な。
機械が古いため、冷気をまんべんなく各方向に送る、という芸当ができません。ただ前方のみにひたすら冷たい風を送り続けます。
おかげで冷房の真ん前にいる15人ほどは、氷のような強風にさらされてガタガタ震え、その他大勢は生ぬるい風をうけて、涼しいとも暑いともつかない状態になっています。
それでも、頭がボーッとするようなさっきよりはずっと快適になったと、フロアの人達は喜んで襟元に風を入れ込んでいました。
私の席は冷風の直撃コースにあります。スイッチが入ったと同時に、私は防寒対策をとりました。
会社の上着(長袖)を着込み、しまってあったフリースのひざ掛けにくるまります。ああこれで暖かくなった。
冬も防寒ですが、夏も防寒なんですね……。
しばらくその態勢で仕事をしていましたが、冷気が布ごしにしんしんと伝わってきたので、ちょっと外に避難することにしました。
フロアのドアを開けて、廊下に出ると、かけていた眼鏡のガラスがあっという間に曇りました。み、見えない……。
冬だったら分かりますけども。一体どれだけの温度差なのでしょうか。
もし携帯電話を持ってフロアを出入りしたら、内部で結露してしまうのでしょうか。そうしたら、夏が終わる前に水没状態になって、故障してしまうかもしれない。店になんて言って修理に持っていこうか……なんて、余計な想像をして勝手に困ってみたりもして。
そんなこんなの冷房です。明日もきっと私の席は南極になるのでしょう。
クリーニングから戻ってきたばかりのマフラーを、もう出したくなってきました……。