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おかかおにぎり
「ジョットの礼拝堂ですか?
スクロヴェーニの礼拝堂って言われていたような気がしますけど」
青い魔法使い・葵
「ジョットっていう画家がスクロヴェーニの礼拝堂の天井も壁も絵を描いたの。
本を見てみましょうか」
おかかおにぎり
「葵さんは、鉛筆に乗って旅をされるんですね」
青い魔法使い・葵
「それが、礼拝堂のかけらがどこにあるのか、こだまが遮られて、はっきりしないので、海と陸をたどっていこうと思うの。
私の小屋と、鉛筆は、ほら、ポケットに入れて持っていきます」
白い小屋と、空のかけらの鉛筆は、青い魔法使いのポケットに、すうっとおさまった。
おかかおにぎり
「じゃあ、一緒に旅ができるんですね」
青い魔法使い
「そうですね。宿場町に、私を乗せて行ってくれる、新しい旅の仲間がいるみたい。
宿場町に行きませんか」
おかかおにぎりたちは、また対岸の宿場町に渡った。
船乗りクマのドーナツ、シンスケ、エドが、宿にしていたアパートに、青い魔法使いを案内した。
ドーナツ、シンスケ、エド
「聞いたことがあるでしょう。黄色い大海を越えたところに、短期間の入居ができるアパートがあるって。
それが、ここ。
屋上は、温泉になっていて、立ち寄った船乗りクマたちが、旅のほこりを落とすんだ」
おかかおにぎり
「アパートのみなさんも、いつも、面白いお話をしてくれました」
アパートの屋上の温泉には、船乗りクマのモエとアイスがいた。
かご船を、湯船のわきにもやって、かわりばんこに、熱いお湯につかっている。
船乗りクマのモエ
「ドーナツ、シンスケ、エド、おかかおにぎりさん、そろそろ出発だってね。
青い魔法使いさん、こんにちは。あなたが来たって、宿場町でもずいぶんうわさですよ」
船乗りクマのアイス
「私たち、もうあがるところだから。
旅立つ前に、ゆっくり温泉につかるんでしょ。
おかかおにぎりさんも、つかってみたら。まだ、入ったことがないよね」
船乗りクマのドーナツ、シンスケ、エドは、そろって、ばしゃん。
おかかおにぎりも、おそるおそる、温泉につかってみた。
「そういうたぐいのことを言うのが、魔法使いというものだから、会う早々に、
旅をまた始めましょう、
と言ったのだけど。
実は、私も自分の旅を始めないといけないの。
はじめまして。青い魔法使いです」
青い魔法使いは、ちょこんと頭を下げて、また、きゅっと胸を張った。
おかかおにぎり
「青い魔法使いさん、はじめまして。お名前はなんておっしゃるんですか」
青い魔法使い
「葵、っていうのが、普段使う名前です。
本当の名前は言わないのが、魔法使いというものだから」
おかかおにぎり
「そうなんですね。青い魔法使いの葵さん、よろしくお願いします」
青い魔法使い
「あそこに来る新しい方が、私の旅にかかわることを話してくれるみたい。
風が教えてくれたの」
奈良から、鹿がやってきた。
鹿の中吉
「はじめまして。鹿の中吉(ちゅうきち)です。おなかの中に、中吉のおみくじが入っていたんです。奈良の平城宮から来ました。平城宮の上の空は、青い鳥さんの羽みたいな色でしたよ」
青い鳥
「わあ、ありがとうございます。都の上を飛んでみたいな」
鹿の中吉
「ここに来る前に、奈良で薬師寺に寄ったんですけど、そこでは、建物の中に空がありました。
青い魔法使いさんの服のような、群青色っていうか、藍色っていうか。
平山郁夫さんが、薬師寺の玄奘三蔵院伽藍の壁画殿に、大壁画を描いているんですけど。
大唐西域壁画、というそうです。
玄奘三蔵法師の旅をたどっていて、
長安から、嘉峪関、、高昌故城、雪渓を抱いた須弥山、バーミヤン、デカン高原。
全部つなげると、長さ49mにもなります。
格子で仕切られたようになった天井には、ラピズラズリで、濃い深い色の空を描いていて、
星と、月と、太陽が浮かんでいるんです」
青い魔法使い
「私の旅は、空が休むところをたどること。
ほら、ここに、空のかけら。
ここにある、この空のかけらは、イタリアはパドヴァ、スクロヴェーニ礼拝堂のものなのだけど。
私には、ほうきはないけれど、鉛筆があるの。
空のかけらの鉛筆に乗って、空の手がかりを探します。
今、鹿の中吉さんが話してくれたのが、空が休むところの二つ目。
一つ目が、スクロヴェーニ礼拝堂。
近くに、スクロヴェーニ礼拝堂のかけらがあるから、まず、そこをすみかにするのが、一つ目の旅です」
おかかおにぎり
「空が休むところの一つ目が、イタリアのパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂って。
そのお話を聞きたいです」
青い魔法使い
「鉛筆に乗って飛べば、記憶の屈折率を使って、スクロヴェーニ礼拝堂の蜃気楼を見せられます」
青い魔法使いは、鉛筆にまたがって、ふわりと舞い上がった。
青い魔法使いが、ぐるりと弧を描いて宙を行き来すると、青い天井の礼拝堂が現れた。
これが蜃気楼だなんて、嘘みたい。
青い魔法使い
「プルーストの『失われた時を求めて』で、主人公がパドヴァを訪ねた時の話で、素敵な部分があるの。
『太陽のさんさんと降りそそぐアレーナの公園を横切って、私はジョットの礼拝堂に入っていったが、
そこは円天井全体と壁面の背景が青々としているので、
まるで光り輝いている外の一日も見物客について敷居をまたぎ、
澄んだ青空を一瞬のあいだ日蔭になった涼しいところで休ませているかのようだった』
(鈴木道彦・訳)
ね、空が休んでいるところなんだって」












