朝、小津婆さんが突然 私の傍に来て、「本当にすみません」と言ってきました。

90度以上 腰を曲げ、頭を深々と下げています。
余りにも突然だし、お年寄りが弱々しい声を発しながら、頭を深々と下げた姿は目に痛いのです。
視界がちょっとボヤけてきます。
 
小津婆さんは時々、認知の不思議な世界をさまようときがあって、そんなとき私はナースコールを押したりして(それしか出来ないし)います。
 
そういうときも、実は大崎さんが大活躍なのです。
彼女は小津婆さんが怪我をしないようにとバタバタ駆け寄るのです。
 
私はいつも大崎さん頼りです。
 
同室の方で、塚原さんという私と同年代くらいの女性がいました。
何の話をしていたのか忘れましたが、幾つか私が彼女に質問をしたのです。
しかし、塚原さんは答えることなく、困ったような顔をするばかり。
すると、大崎さんが私の言った内容をハッキリと通訳してくれるのです。
塚原さんは大崎さんの言葉を聞き ようやく解ったようで 私の質問に答えてくれます。
私から塚原さんに質問→塚原さんの不思議顔→私の目が大崎さんにすがる→大崎さんの通訳→塚原さん答える  という流れが暫し続きました。
 
私も塚原さんも同じ日本語を話しているというのに、私は通訳つきなんだから、全くう……。
どこかの国のトップみたい?
フニャフニャ国首脳?ニヒヒ
ここはシンガポール???
 
突然、深々と頭を下げてきた小津婆さんに私は言いました。
「どうか謝らないでください。   うちの姉たちなんか、小津さんのファンなんですよー」
 
何かを話しているだろう私の顔を小津婆さんはキョトンと見ています。
私は大崎さんの姿を思わず探します。
「あっ、大崎さんは検査に行ったんだった…」
 
小津婆さんは再び深々と頭を下げてくるのでした。