ある蒸し暑い晩のことだった。

 

僕は一人、筋トレ部屋で汗だくになっていた。あまりに暑かったので、下部にある窓を開け、ベンチに寝てアレイをあげる運動をしていた。アレイをあげ終わり、ふと上体を起こすと部屋の中に巨大な猫がいて、僕を見て

 

「ミヤーオ」

 

と鳴いた。

 

「え?ええ?」

 

 意味不明な事態に何が起きたのかわからない。

 

「いつ、何でこんなでっかい猫が……」

 

 全く逃げる気配もない。ただ彼は僕を見つめてもう一声鳴いた。よくよく見るとガリガリに痩せていて、大きいのは身長だけだ。

 

「とりあえず……何か食べるか……?」

 

 と僕は缶詰を開けてやると、食べる食べる、三缶は食べたんじゃなかっただろうか……?

 

この巨猫は、初めて会ったその日から触れても全く嫌がらない。むしろこの部屋にいたいと言っているようだったが、さすがにもうかなりの数の猫を飼っていたこと、そしてこのような大きな猫を家に入れて先住猫と何かないか心配で……、その日は窓を開けたまま、その猫を残して僕は部屋を去った。

 

その翌日、期待に反して部屋にその猫はいなかった。ひょっとしたらまだいるかと思っていたのだが……。

 

正体不明のモヤモヤした気持ちを抑えて、僕は窓を閉め、筋トレを始めた。腹筋をしていると、窓を開ける音が聞こえて僕は驚いた。

 

「え!?」

 

と、上体を起こすと、なんと昨日の巨猫が自分で窓を開け、入って来たではないか。確かに窓に鍵を掛けてなかったが、自分で開けて入って来るとは思わなかった。

 

そして彼は僕に擦りつき、悲痛な声で泣き叫ぶ。

 

「そうか……わかったよ。そんなに言うならお前も一緒に暮らそうか……」

 

 僕はその巨猫をスノと名付け、家族として迎えてやった。

 

 

 

 

獣医に連れて行った結果、彼には病気などなかったが、去勢手術の跡があった。耳が切れていないことからサクラ猫の可能性も低い。

 

このことから考えるに、彼は元々どこかの飼い猫だった可能性が強い。そんな飼い猫が迷うか、捨てられるかして、僕の所に辿り着いたのだ。そう考えれば彼の人懐っこさも理解できる。

 

「お前は……不憫な猫だったんだな……。どうだ?俺の所は……?幸せか?」

 

 と尋ねる僕に、鳴き返した声は、以前、出会ったときのような悲痛な声ではなく、もっと平和で幸せそうに聞こえた。

 

 

 先住猫たちは初めこそその大きさに恐れをなしたようだったが、元々の気性が優しいのか、それともその強さから来る余裕なのか、スノは全く周りを気にすることも、危害を加えることもなかった。

 

 

 

その後、スノはどんどんと体重を取り戻し、今や八キロもの体重を誇るが、常に気は優しくて力持ち……。

 

雌猫にも……特にサンにはよくモテる。

 

 

 寒い夜は、抱き枕のように付き添ってくれる、そんな僕の愛するスノの話。