僕は以前、中古で家を買った。本当のことを言えば、僕は住むところなど狭かろうが、汚かろうが、霊が出ようが、住めれば全くどうでもいい。

 

だが、猫のためには……、アパートやマンション、賃貸では厳しい。だから中古物件を買ったのだ。

 

その家に引越したその年とその翌年、このたった二年の間だ。

 

僕が家を買うのを待っていたかのように、八匹もの猫が家にやって来たのは……。

 

 ホーリーが新しい家にやっと慣れた頃……梅雨時の話だ。

 

その日は体調が悪かった。あまりにしんどかったので、夕方前、もう風呂に入って寝ようと思って脱衣所に入ったとき、外から

 

『ピーピー』

 

と声がした。

 

(あ!)

 

と思って家の外に走り出ると、隣の家との隙間の細い道に、生まれたばかりで目も開いてない仔猫が鳴いていた。

 

遮るものもない真昼間の太陽の下、彼女は一人で……必死に生きたいと叫んでいた。

 

僕はすぐに彼女を手に取り、家に入った。仔猫の扱いはホーリーの時に学んでいる。

 

 

 僕はすぐに車を出し、獣医へと走った。点滴で水分と栄養を補給し、そのまま獣医で猫用のミルクをもらい、覚悟をする暇もなく、突然に子育てが始まった。

 

僕はこの三毛猫の彼女に『ウリエル』と名付け、必ず救ってやると覚悟をした。

 

そのときにはもう既に僕の体調の悪さはどこかに消えていた。

 

 ホーリーのときと同じだ。親の居ない仔猫の授乳は僕が管理せねばならず、毎日段ボールを自分の席の隣に置き、哺乳瓶を持って授業し、目を覚ませば授乳、また夜も三時間おきに授乳という毎日に入った。

 (風呂に入るウリエル)

 

 

 さて、ここで親のいない仔猫の育て方を書こうと思う。

 

哺乳瓶でミルクをやるのは、実はなかなかに難しい。

 

仔猫は基本的に目を覚ますと腹が減っている。その際、適量の水に粉ミルクを溶かしたものを哺乳瓶に入れ、哺乳瓶ごと湯煎し、人肌ほどに温めたミルクをつくる。

 

ここからがコツがいる。

 

ホーリーにしろ、このウリ、後述する仔猫たちにしろ、彼らは例外なく哺乳瓶を嫌がる。

 

だから口にちょっと含んでもほとんど飲まずに口から溢れることが多いのだ。

 

このときに勘違いしないで欲しい。彼らは満腹なのではない。哺乳瓶が嫌なのだ。

 

時が来たのだ。心を鬼にするときが……。

 

哺乳瓶の乳首は長いが、それを仔猫の口の奥まで差し入れなければならない。仔猫が吸っているかを確かめる場合、一番良いのは『音』だと思う。『チュッチュッチュッチュッ』という音がすれば、ちゃんと飲んでいると考えていいだろう。

 

 

これは母猫のお乳を飲むときも同様の音がする。

 

ちなみに一回の哺乳で、彼らのお腹は目に見えて丸々と膨れる。これで正解なのだ。

 

後はげっぷをさせた方がいい。

 

哺乳瓶を吸うときには少なからず空気も共に吸っている。やさしく背中をさするか、トントンと叩いてやるか、出来るならば頭を上にして抱き上げて、背中をさすってやるといい。

 

愛らしい顔には似つかわしくない、大きなげっぷが聞けるだろう。

 

 

 次にトイレだ。母猫のいない仔猫は、尿も便も出し方がわからない。

 

母猫が舐めるという刺激を通して出せるようになるのだが、親がいないのならば……、僕らがやるしかない。

 

 人肌のお湯でひたひたに湿らせた脱脂綿を二つに折り、その山のなった端のところで、何度もお尻を拭くようにして刺激してやると……おしっこも便も出せるようになるだろう。

 

この際、気をつけないといけないことがある。それはお尻を拭き過ぎて、すりむかせてしまうことだ。

 

鼻をかみすぎると鼻の下がすりむく。あれだ。だから出来るだけヒタヒタに湿らせたもので拭くのだ。ちなみに仔猫はミルクしか飲んでいないのだから、その糞尿を汚いと思う必要はない。

 

そして二、三週間の後、百均で売っているキッチン道具のプラスチックの食器受けなどを買い、そこに市販の猫砂をいれて、上記の作業を行う前に、その上に仔猫を置くようにする。

 

本能的に砂を掘り始めたら、ゆっくりと見守ってやって欲しい。

 

掘るだけで何もしないからといって、すぐに取り上げてはいけない。

 

何度も同じところを掘り、何度も場所を変えて、排泄することが多いからだ。

 

 

 このように、仔猫を拾った人は大変な日々を送らなければならない………………と思うだろうか?

 

確かに大変かも知れないが、こういう時はほとんど疲れないのだ。

 

寝不足、疲労、体は疲れているはずなのだが、全てのストレスが仔猫によって解消されているからなのだろう。

 

よく覚えておいて欲しい。

 

上記の工程全てを含めても、幸福感の方が上を行く。

もしもあなたが猫好きならば、必ず、必ず、育てて良かったと思うだろう。

 

 

 

ホーリーのときと同じく、時は夏休み前、僕は夏期講習中も毎日ウリエルと行動を共にしていた。

 

(疲れた僕に代わって運転してくれるウリエル)

 

 

猫好きの生徒は授業が無くても塾に来て、ウリエルの面倒を見てくれた。

(生徒に英語を教えるウリエル)

 

 

猫アレルギーの生徒も、必死で手伝ってくれた。

 

余談だが、その子の猫アレルギーはウリエルが離乳するまでに治った。アレルギーは体の抗体が過剰に反応することで引き起こされる。ならば、毎日その抗原体と接していると、体が慣れるのだ。筋トレをすると筋肉がつき、体つきがかわるように……。 

 

 そして約一か月の年月の後、家に置いておいても問題ないほどにすくすくと育ったウリエルは、家を守るホーリーの下で一緒に留守番をするようになった。

 

障子をびりびりに破いたり、襖で爪を研いだり、悪さをするようになったが、「生きたい」と泣いていたあの時を思い出せば思い出すほど、それは幸せの象徴でしかない。

(障子張り替えて三日目)

 

 ウリエルが来なくなってから塾生は寂しがっていたが、命の大切さ、その偉大さ、そして何よりも自分の優しさに気が付き、また僕の頑張りに照らし合わせて自分たちも頑張ったのだろう。

 

その年の受験生たちは、かなり成績が上がり、全員一人残らず特待生で高校、そして志望大学に合格した。

 

今も稀にその時の生徒たちが塾に訪れる。そして「ウリちゃんは元気?」と尋ねられる。

 

「もちろん。今もいつも一緒に寝てるよ」

 

 (地球を守るウリエル)

 

 

 僕の愛する我が家のアイドル、小柄でちょっとやんちゃな三毛猫ウリエルの話。

 

 (見返り美人)

 

 (ニャ!)

 

これもウリエルの話(笑)(怖い話)『貞子実在の可能性』 | 先生の本当にあった怖い話 (ameblo.jp)

 

続く……