サーカスの当日。
サファイア王子は、朝からごきげんでした。

サファイア王子「僕はサーカスなんて、はじめて! ねぇ、どんなところなの?」

わたし「とても楽しいところですよ」

サファイア王子「ふふっ。あっ! そうそう! 今日は車で連れてってもらえるんでしょう? それなら、車の中で勉強できるように本を持っていきなよ」

わたし「えっ?」

サファイア王子「だって、僕は勉強のお守りとしてココに来たんだから。……君が勉強できなくなるのは、イヤだよ」

わたし「まさか、サーカスに行く前に勉強なんて、思ってもみなかったです」

サファイア王子「さあ! さっさと本を取りに行ってきなよ。そうじゃないと、僕もサーカスを楽しめないからさ!」

わたし「はーい」

まさか、天然石に「勉強しろ!」なんて言われる日が来るとは思ってもいませんでした。
もうすぐ受験なので、勉強しなきゃいけないのは確かなんですけど…。

わたし「でも、車の中で勉強って難しそう…」

サファイア王子「それなら、暗記できる本と、要点をまとめた本を持っていきなよ。少しでも、内容が目に入れば、何もしないよりは違うから」

わたし「ありがとうございます。王子」

サファイア王子「王女。頑張ってね」

わたし「へ? 皇女? ペリドット皇女は連れてきていませんけど…」

サファイア王子「うふふっ。違うよ。君のことだよ。王女」

わたし「はい?」

サファイア王子「僕が王子で、君は恋人なんだから、僕の王女。何もおかしいことはないよね?」

わたし「い、いや。おかしいというか…。は、恥ずかしいです///」

そして、サーカス会場。
今日は家族と一緒に来たのですが、王子といるとデートしている気分になって、かなり不思議な気持ちでした。

母「さあ、何か飲み物を買って行こう」

兄「僕、コーラ」

妹「冷たいものにしようかな」

わたし「えっと、わたしは…何を飲もうかな?」

その時、紅茶もいいな。と思ったのですが、王子が突然、

サファイア王子「コーヒー。温かいコーヒーを飲みなよ」

わたし「えっ?」

王子の声は他の家族には聞こえません。
わたしの脳内か、心の中に響いてきました。

サファイア王子「今日はとても寒いからね。君の身体が冷えて震えてしまうなんて、僕には耐えられない。温かい飲み物を飲んで、身体を温めなよ」

わたし「王子…」

サファイア王子「ふふっ。それに、ブラックコーヒーなら、目が覚めるだろう? ミルクや砂糖を入れずに飲むんだよ」

わたし「あっ! すごいですね! それなら、目が覚めそう」

楽しみにしているサーカス。
すごく楽しくて観ていたはずなのに、いつの間にか寝てしまった去年。
しかし、今年は、王子のおかげで、最初から最後まで楽しんで観ることができました。
……もし、王子がいなければ、こんなに楽しい時間を過ごすことは出来なかったでしょう。

王子は、サーカスの上演中、とても感動していました。

サファイア王子「うわっ! 怖い! あっ! すごい! あんなことが出来るなんて!」

サファイア王子「あははっ。サーカスって、楽しいね♫」

無邪気な王子と一緒にサーカスを見ていると、わたしも楽しくなって、はしゃいでしまいました。

わたし「すごい! もうすごいとしか言えない!」

こうして、サーカスの上演は終了しました。

わたし「王子。楽しかったですね。わたし、王子のおかげで、最後まで観ることができました」

シーーン。

わたし「あれ? 王子? 返事をしてください」

翡翠「王子は眠ってしまったみたいだ」

わたし「あなたは誰?」

翡翠「僕は翡翠。王子の仲間さ。君が選んでくれたブレスレットの一部」

わたし「どうして王子は眠ってしまったの?」

翡翠「はしゃぎ過ぎて疲れてしまったらしい。でも、安心してほしい。王子は眠ってしまっても、僕たちが君を守るから」

……もう、なんなんでしょう。
どうして、こんな風に少女漫画チックな言葉が出てくるのでしょうか。
ストーンリーディング、石と会話ができる皆さんも、こんな風に語ってきたりするんでしょうか?
それとも……わたしだけの妄想とか?

翡翠「君は感受性が強いから、僕たちの声に敏感なんだよ」

わたしの心を見透かしたように、翡翠さんは教えてくれました。

わたし「あーあ。王子ともっと遊びたかったな」

翡翠「それは王子も同じだよ。…でも、王子は自分の願いばかり叶えてもらって、君の願いを…勉強に打ち込めるようにする、という願いを叶えていないことに、恋人としての楽しさと、パワーストーンとしてのつらさが混ざって、精神的にとても疲れてしまったらしいんだ」

わたし「王子…」

翡翠「だから、今日は休ませてあげてほしい」

わたし「うん。わかったよ」

そして、帰る途中のこと。
空が暗くて、家族と一緒に歩いていても、何となく怖いな…と思っていると…。

サファイア王子「怖がらなくても大丈夫。僕たちが一緒にいるからね」

わたし「えっ? えっ!? 王子! 眠ってしまったんじゃなかったんですか?」

サファイア王子「君の不安は僕が取り除く。月が見えない夜だけど、君にとっての光になるように」

翡翠「王子! 無理をしないで下さい。王女は僕たちが守りますから! 僕にも王女を守護できる力を持っていますから」

クラック水晶、アマゾナイト、デュモチュライト
「僕たちも守ります。だから、王子は寝ていてください。王子を寝かせてあげてください」

サファイア王子「みんな……ありがとう…」

それから、王子はぐっすり眠ってしまいました。

本当に不思議です。普段、王子の声しか分からないのに、この時は、他の皆さんの言葉を聞くことができたんです。
天然石がしゃべるなんて、へんてこな話。

でも……王子がアドバイスをしてくれなければ、こんなに楽しい一日は過ごせなかったでしょう。

それに、はっきりと言葉として心に響くのは、わたしには考えつかない言葉だったりするので、天然石は本当におしゃべりをしてくれているんだと感じます。
それを信じるか信じないかは、皆様の自由だし、わたしは強制したり、強要したりしません。

それに……。
こんなファンタジーなことが、現実に起こったなんて、自分でも信じられません。
今日は、本当に楽しい一日でした。

サーカスの当日。おわり。




★追記★
そういえば、モリオン師匠こと、老師がこんなことを言っていました。

モリオン老師
「わしらは人知を超えた力を持っておる。しかし、そんなわしらでも、万能ではない。判断を間違う時もあるじゃろう。肝心なのは、お主がわしらの力を頼ることではなく、お主の力で物事を判断して、自分自身の道を自分の力で歩んでいくことじゃ! 自分自身を信じること。それが、わしらを信じるよりも遥かに大切だし、自分を信じる力が、わしらを強くし、わしらはお主に力を貸すことができるのじゃよ」

……ね?不思議でしょう?
そんな言葉が聞こえてきたんですよ。

天然石って素晴らしい!その力は最高!!
って、思っていたら、聞こえたんですよ。
モリオン老師の言葉を、自分の妄想で語っていたとしたら、「もっと、わしらを頼りなさい」と言っていたに違いありません。

でも、違うんですよ!

「万能ではない。わしらは、ただの石じゃしのう」
だって!
これには本当に驚きましたびっくり