ジンズホールディングスさんが東京本社を飯田橋から神田に移転し、29日から新規事務所として稼働を始めたそうです。

事務所の移転。

東京から東京。しかも飯田橋から神田錦町という近くへの移転。

ある企業が事務所を移転するという話はよくある話です。

ただこの移転。私はとてもおもしろいと思う移転なのです。

それは、これまでのインテリジェントビル、オフィスデザイン賞なども受賞したほどの飯田橋の立派なビルの最上階というところから、神田の古いオフィスビルへと移転、さらに床面積を半分にしての移転なのだと言います。

しかも移転する古いビルは3年後に取り壊しが決まっているのだとか。

だから予算も決まっているし、ローコストでの本社移転が前提。

なぜこんな移転を選んだのでしょうか。

同社はメガネの販売本数日本一を達成し、メガネ業界では間違いなく成長している企業ですし、眼鏡業界で知らない人はいないほどの認知度も獲得しています。

過去の同社の事務所を見ても非常に立派で、年々拡大し、飯田橋のインテリジェントビルに東京本社を構えるまでになりました。

(写真　同社HPより　左上は前橋で創業する前年の輸入雑貨業の頃　右下がインテリジェントビル)

しかし、そんな状況に同社の田中社長は「危機感を持った」のがきっかけなのです。

この移転に際して、田中社長は社員宛てにメールを送っています。

そこにはこんな内容が書かれていました。

(以下、同社HPより一部抜粋)

「(中略)飯田橋の立派なビルに入居したことで、いわゆる"大企業病"にかかってしまった可能性があります。皇居を見下ろす最高のロケーションの最上階という身分不相応な場所にオフィスを構えたことで、勘違いをしてしまったのかもしれません。

私を含めた経営陣もそうです。

(中略)

だから今回の引っ越しは、もう一度挑戦者としての振る舞いを、会社全体で改めて認識する良いチャンスだと考えています」(以上ここまで抜粋)

この内容を受けて、同社の引っ越し担当チームのみなさんは次のように発言されています。

(同社HPより)

設計はぎさん　田中は、インテリジェントビルの最上階にある立派なオフィスが「大企業」の象徴になっている、と感じているんだと思います。次のビルはいまより狭くなったり古くなったりしますが、その象徴から抜け出すイメージなのかもしれません。

人事Sam　決して業績の問題とか、リモートワークが定着したから狭くしよう、といった意図ではないんですよね。社員全員が出社する可能性も想定していますし。

広報いけっち　ええ。自分たちは挑戦者なんだという「ベンチャー魂」を取り戻すこと。これが、今回の引っ越しのゴールですね。

(以上ここまで抜粋)

メガネのJINS、（今のところ不安だらけの）「本社移転」計画がはじまります。 | JINS PARK

(同社HPより)

ジンズは販売本数も増え、人員も拡大しているのですが、22年8月期は増収減益となりました。

23年8月期は売上　734億、営業利益　40億、最終利益21億と増収増益を見込んでいます。
しかし、この数年の自社の業績や雰囲気、経営に、創業者として何か危機感を感じているのだと思います。

これは数字には表れてこないものです。

ここを敏感に感じ取って今回の移転を決めたということですから、やはり優れた経営者だと思うのです。

オフィスはいい立地で、最新ビルで、見晴らしがよく、かっこいいデザインの空間で働きたいものです。

特に東京の中心部で働くというのはそんなイメージがあります。

できるビジネスマンの働く場所ってそんな感じです。

しかしこんな空間に身を置いていると、自分が「できる人間なのでは？」と勘違いします。

自分ができるのではなく「会社ができる奴」なのですが、まるで自分がこのビルを作ったかのように、ビルのオーナーではないかというようにふるまう人間もでてきます。

これが勘違いの元。

ここから社員の挑戦意欲が薄れ、社員がバラバラになり、経営の勢いもなくなっていきます。

ジンズはこの移転で再度、ベンチャー精神を取り戻そうとしています。

新しい価値づくり、問題を発見する力を養うためにビルを小さくする。

これからの同社の取り組みに注目したいと思います。

あらためて思い出すこの言葉。

本社は小さいほうがいい。

今日もビルを小さくしていけるいける!!

ジンズHDが東京本社を小さく古いビルにして面積を半分にする理由