サッカーJ2レノファ山口FCを応援するようになって今年で5年目になる。
トップチームの試合は、県外まで観に行くほど熱を入れるようになった。
しかしレノファレディースの試合は、過去に3度しか観たことがない。
近場で試合が行われる際に、気まぐれで行った程度である。
ゆえに選手の名前も顔も知らない。
そのレノファレディースだが、昨年末から所属選手が次々と退団、引退するという報道が相次いでいた。
そもそも女子サッカーはマイナー競技だ。
マイナー競技な上に、レノファレディースが所属する中国1部リーグは、上から数えて4番目のリーグである。
サッカーのみで選手生活が成り立つはずもなく、必然的に選手の入れ替わりは頻繁になる。
しかし、退団のニュースばかりで入団のニュースが全くない状況は異常である。
そんな中、レノファレディースを運営するレノファ山口FCは、4月から始まるリーグ戦の出場を辞退し、全試合を不戦敗とするという発表をした。
リーグ戦を直前になって辞退するのは異例中の異例と言っていい。
さらにレノファ山口FCは、レノファレディースの活動を2020年から再開できるよう、2019年は準備期間とするという。
2020年活動再開についての具体的展望は言及がなかった。
その後、3月10日(日)に開催される「第11回YMGFレディースサッカー大会」には、予定通り参加するという追加発表がされた。
同大会は、参加4チームで行われるワンデイトーナメント形式である。
この日をもってレノファレディースは今年の活動を終える。
場合によっては、この試合がレノファレディース最後の試合になる可能性もなくはない。
先の報道のとおり、選手が揃わないはずのレノファレディースがどのように試合を行うのか興味があった。
加えて、もし最後の試合になるのであるのであれば観ておいた方がいいのではないかという思いもあった。
3月10日の徳山大学は、朝から降り続く雨と断続的に吹き付ける強風とで、サッカーをやる方にも観戦する方にも最悪のコンディションであった。
悪いことにこの日はレノファ山口FCトップチームの試合日でもあり、下関では横浜DeNAベイスターズvs広島東洋カープのオープン戦が行われる日でもある。
今日ここで女子サッカーの試合が行われることを知っている人はどれだけいることだろう。
観客もまばらな水の浮いた徳山大学サッカー場で、試合は静かに始まった。
それでも観戦席では10人に満たないレノファサポーターが声援を飛ばしている。
選手の名前を記した横断幕も貼り出していた。
貼り出したサポーターは、今日どのようなメンバーで試合が行われるか知らないはずだ。
きっとこの横断幕の中には、既に退団してしまった選手のものもあると思う。
1試合目はニューウェーブ北九州レディースを相手にチャンスは作るもののゴールを奪うには至らず0-1で敗戦。
2試合目は、明らかに体格で劣る広島大学に0-8と惨敗。
レノファレディースは、参加4チーム中4位の成績で今年最後の試合を終えた。
後で分かったことだが、この日の登録メンバーは2/3がユースチームの中学生だったそうだ。
しかもその大半が中学1年生であったという。
広島大学との試合は文字通り大人と子供の試合であり、勝てる望みはほぼなかっただろう。
試合中、声援を送るサポーターの傍らに、一人の少年がいた。
短髪に端整な顔つきの小柄な様は中学生か、高校生か。
「7番と9番は同じ名前で『ナナミ』って言います。9番の選手の名前は『アイコ』です」
と、選手名をコールするサポーターに選手の名前を教えている。
今日の出場選手は臨時で集められたユースの選手が主体のはずなのに、やけに詳しい。
選手の家族か何かだろうと思っていたが、一つ違和感を覚えた。
少年のような風貌だが、その声は若い女性のものなのだ。
「よく中学生とか言われるんですけど、これでも今年23歳になるんですよ」
そう話すこの若い女性は、つい先日レノファレディースを退団し、ルクレMYFC(静岡)へ移籍した宮下みのり選手だそうだ。
なるほど、短髪にしているのも選手名に詳しいのも納得である。
今日はわざわざ静岡から旧所属チームを応援にきたようだ。
「ナイスクリア、マドカ!」
「リエナ、ナイスカバー!」
彼女は試合中ずっと、かつての仲間たちにつぶやくようにエールを送っていた。
他の観戦者たちのように建物の下ではなく、雨に濡れるピッチ近くの階段席に座り込んで。
彼女が立っている可能性もあったピッチだから、自分も共に戦っている心境だったのかもしれない。
応援するというより、心配しているような、見守っているような、自分にはそんな風に見えた。
試合終了後、次の試合が始まるまでにサポーターは横断幕を撤去しなければならない。
このとき、宮下みのり選手が手伝いを申し出てくれた。
横断幕を撤去しながら、少しだけ彼女と話をした。
出身地の話程度のとりとめのない話だ。
今となっては、もうちょっと内容のある話をするべきだったと後悔している。
最後に、いつか山口に帰ってきてねと話すと、彼女は自分の名前が書かれた横断幕を片づけながら、強くハッキリとした口調で返してくれた。
「いつか大きくなって帰ってきます」
宮下みのり選手は、他のサポーターたちにも感謝の言葉を繰り返していた。
「今まで応援して頂いてありがとうございました」
「静岡でも頑張ります、ありがとうございました」
どれも強くハッキリとした口調であったのは、体育会系で育ってきたからなのか、それとも性格的なものなのか。
とても気持ちの良い話し方をする子で、聴いているだけで背筋が伸びるような、顔が上を向くような、そんなポジティブなエネルギーを感じさせる。
消滅にも似た形で所属チームを離れ、慣れない土地で新生活を始めた彼女に不安がなかろうはずがない。
それでも彼女と話していると、こちらが逆に元気をもらっているような気分になった。
不思議な選手だと思った。
今日は雨の中、技術も体格もはるかに勝る大人を相手に失点を重ねる幼い仲間たちを、どんな感情で観ていたのだろう。
自分は彼女に、いつか山口に帰ってきてねと話したが、今は訂正したい。
もう山口には帰ってこなくてもいい。
そのかわり、あの選手は山口にいたんだぜと自慢できるような、そんな選手になって欲しい。
この日感じたような、ポジティブなエネルギーを振りまく明るく元気な選手であり続けて欲しい。
宮下みのり選手の活躍を心より願ってやまない。


