「俺にはあいつしかいない。」

「彼は運命の人・・・」

 

誰しも、こんな経験はあるはず。

 

なのに、なんで他の異性と時間を共にするのか?

 

「何を言いますか!私は一途よ!」

 

そんな真っ当な人に焦点を当てた本では

ないのです。

 

寂しさ、孤独を埋めるために、ふと立ち寄った

場所に落とし穴が待っている・・・。

(浮気がバレて、修羅場! ではなくてね笑)

 

 

言わずと知れた、村上春樹の代表作。

 

1987年の本ですが、2021年に初めて読みました。

 

頑張って、この本を深掘ってみます!

(自信ないなー)

 

<こんな人に読んで欲しい>

・それなりに恋愛経験がある

・いわゆる「浮気」をした。けれど、虚しかった。

・浮気は許せん!!!言語道断!!

 

※ある程度、心の動く恋をしないと、そしてさみしがり

でないと登場人物の心境が測れないかもしれません。

なんて笑

~フワッとしたあらすじ~

 

20歳前後の主人公(ワタナべ)は

直子に恋をする。

 

直子には死んだ恋人がいた。

 

ワタナベ直子は一度、関係を

持った。

 

直子は精神を病み、遠くで静養する。

 

そう、深い井戸に落ちたのだ。

 

それでもワタナベの心は彼女に決めていた。

 

愛していた。

 

病んでいても、たまに会いに行くことができた。

 

けれど、空間的に離れていることが

多かった。

 

そこに大学同期のが現われる。

 

彼はと過ごすようになる。

 

そんな中、直子の病状が悪化した。

 

自分にとってとは?

 

そして直子は死を選んだ。

 

うん、とやっていこう・・・。

 

だが、彼の前にも井戸が口を開けていた。

 

~要旨・心中も添えて~

 

孤独を埋めるための偽りの愛

 

パートナー、あるいは好きな人がいる。

けれどあなたは寂しがり屋。

一人でいる時間が耐えられないなんて人、

いるんじゃないでしょうか。

 

そんな時に他の異性が目の前に現われたら・・・

どうしますか?

 

キズキを失った直子は

ワタナベに代わりを見出す。

 

直子に会えないワタナベは

緑に代わりを見出す。

 

偽りの愛を本物に変えようと

もがく。

 

―――

ただ・・・

 

こんなパターンもあるから、ややこしくなる。

 

可能性がまわりに充ちているときに、それをやりすごして通り過ぎるというのは大変に難しい事なんだ。

 

ワタナベの同僚である永沢の言葉です。

 

彼は端正で秀才(or天才)でトーク力の

高い男性。

 

うん、放蕩な人を正当化したようなコメント。

この言い回しは、すごい・・・。

 

いかにして刹那的な出会いを楽しむか、

口説きを芸術だと考えている人間。

 

現代でいう、チャラ男!

 

完全に本能的な行動。人間ヒトの

オスとしての本能が、モラルを越えて発揮される。

 

これを許した永沢の彼女、ハツミ。

 

「私はただ馬鹿で古風なのよ」

 

古風・・・なるほど、昔は妾や2番さんの

存在が今よりも認められていたでしょうか。

 

奔放な男だと思っても、添い遂げる女性、

彼女らの気持ちを代弁する存在ですね。

 

ハツミは愛によって死を選ぶ。

 

それは充たされることのなかった、そしてこれからも永遠に充たされることのないであろう少年期の憧憬のようなものであったのだ。

 

別の人との結婚では彼女の愛は

満たされなかった・・・。

 

恋は不平等

永遠のテーマでしょう。

 

シーソーみたいに二人の高さが

同字である瞬間なんてわずか。

 

必ず、

どちらかが振り回す。

 

そこに駆け引きが無くても。

 

どっちかが、LINEの返信を心待ちに

しているはず。

(倦怠期を例外にして)

 

ただ、お互いがお互いを本命と考えて、

そこに不平等が生じるのは比較的健全の

ように感じます。

 

具合が悪いのは、片方が本気で、もう片方が

相手を2番手以降と考えている時でしょう。

 

 

直子とワタナベ

 

「もしよかったら―――私たちまた会えるかしら?もちろんこんな事言える筋合じゃないことはよくわかっているんだけど」

「筋合?」

 

会いたいけれども、ワタナベ自身に

会いたいわけじゃない。だから「筋合」が無いと。

 

彼女の求めているのは僕の腕ではなく誰かの腕なのだ。―――誰かの温もりなのだ。

 

―――

そしてワタナベと緑

 

「あなたは私の髪型が変わっていたことにすら気づかなかったでしょう?」

 

そんな扱いをするのに・・・

 

「でも君と会えなくなってよくわかったんだ。君がいればこそ今までなんとかやってこれたんだってね。君がいなくなってしまうと、とても辛く淋しい。」

 

と、緑を引き留める。

 

都合の良い相手は離れない時こそ

ぞんざいに扱うのに、

それが無くなろうとすると手のひら変える。

 

失って、目が覚める。そして井戸に落ちる。

 

直子の死から緑とやっていこうと決意した

ワタナベ。

 

緑は埋め合わせだった女。

 

保険を本命に昇格させようと自己暗示を

かける。

 

「僕は直子を愛してきたし、今でもやはり同じように愛しています。しかし僕と緑の間に存在するものは何かしら決定的なものなのです。」

 

しかし・・・。

 

本書の最後の一文はこのようでした。

 

僕は今どこにいるのだ?

 

彼は井戸に落ちたのでしょうか?

 

ワタナベは緑で自分の心を埋められるのか?

 

今度は彼の番でした。

 

 

死んだ直子は、死んだキズキのもとへ。

 

おいキズキ、お前はとうとう直子を手に入れたんだな―――まぁいいさ。彼女はもともとお前のものだったんだ。

 

―――

プロローグの直子の言葉です。

彼女は僕に野井戸の話をしていたのだ。

「それは本当に―――本当に深いのよ」

「でもそれは何処にあるかは誰にもわからないの。」

 

―――

本命とつながりが消えると、浮気相手が

一気に色褪せることがあるでしょう。

 

2番は2番でしか、その魅力を発揮

できないのだと思います。

 

よくある光景です。

 

不倫がバレた瞬間、「もう会えない」

と言われる不倫相手。

 

そして、本命を失って崩壊する人間。

 

それを「井戸に落ちる」と表現しているの

だと考えます。

 

 

~読み終えて~

 

どうですかね、R25が適切ですか?

 

まず

タイトルと内容が見事にマッチしていて

統一感のある作品でした。

 

しかも、直接的にはまったくわからない。

飛び道具です。

桂馬みたいなアクロバティックさ。

 

いやぁ、天才なんだろうなと。

 

ビートルズも詳しくなくて、読んだ後に

聴いてみたんです。

 

男性が女性の家に誘われ、けれども

都合の良い男であると気づいた曲。

家に誘ったくせに、抱かせてもらえない。

「明日、仕事だからもう寝る」と。

自分は何しに来たんだろう?sexという形で

求められていたら、まだ良かった・・・。

 

まさにこの本で起きていることが

歌詞になっていて。

 

「この曲聴くと私ときどきすごく哀しくなることがあるの。どうしてだかはわからないけど、自分が深い森の中で迷っているような気になるの」

 

直子も『ノルウェイの森』の女性のように

ワタナベを都合よく扱い、心の隙間を

埋めていたつもりだったのかと。

 

死んだキズキとのつながりを持った

存在としてワタナベを求めた。

ワタナベ自身を愛する努力もあったのかも

しれません。自分が救われるために。

 

 

―――

読み終えてから、プロローグの意味が

初めてわかり、そして、鳥肌が立つくらいに

哀しい。

 

何故なら直子は僕の事を愛してさえいなかったからだ。

 

スターウォーズを観させられているかのような

文章の構成は芸術的ですね。

 

 

愛という概念を無くしてしまった自分に

人間として生きる価値はない、と直子は

人生に決着をつけたのだと思います。

 

 

人は愛する対象を認識し、その上で対象者が

自分と人生を共にしていることで最高の幸福が

得られるのかもしれません。

 

残酷なことに、それが叶えられないと一生孤独が

付きまとうのでしょう。

 

―――

村上春樹の作品は、リアルすぎる異性間の

やりとり、そして性的描写が一つの特徴でも

あると思っています。

 

世の中が正義としている道徳、貞操観念なんかは

取り上げず、皆が引け目を感じつつも情や

欲に負けてしまうような場面。

 

そもそもね、欲望をモラルで抑えることが

土台無理な事なんでしょう。

 

共感できる人は多いかもしれませんが、

正当化しすぎると、現実を生きるのは

大変です・・・。

 

女性のハルキストって、どんな恋愛観を

抱いているのか興味ありますね。

 

 

いやぁ、人間の矛盾を描いた大作でしたー。

 

 

参考・引用 村上春樹 ノルウェイの森 (株)講談社 2004年9月