尾道に住む女子高生、花子は、古き良き映画の世界に憧れる夢見がちな女の子です。特に大林宣彦監督の「転校生」と「時をかける少女」は彼女のバイブル。あの、奇妙で素敵な出来事が、自分にも起こらないかと、日々密かに期期待。
■憧れの実験と、現実の尾道
ある日、花子は理科室でこっそりラベンダーの香りを嗅いでみました。「時をかける少女」の主人公、芳山和子のように、甘く懐かしい香りが時間を超えるきっかけになるかもしれない! 期待に胸を膨らませ、大きく吸い込むと…「うーん、ただの芳香剤の匂い…」。タイムリープの気配は微塵もありません。隣の席の男子は「お前、カメムシでも嗅いでんのか?」と失礼な一言。花子の夢はあっけなく散るのでした。
■転げ落ちても、入れ替わらない日々
次に花子が目をつけたのは、尾道名物の石段です。「転校生」で一夫と一美が入れ替わったあの衝撃的なシーンを再現しようと、花子は放課後、人通りの少ない石段を選びました。そして、意を決して…「きゃあああ!」とわざとらしく声をあげながら、数段転げ落ちてみます。
「痛いっ!」膝を擦りむきながら起き上がると、そこには見慣れた風景が広がっています。制服も、リュックも、昨日とまったく同じ。体が入れ替わるどころか、何も変化はありません。しいて言えば、擦りむいた膝がじんわり痛むだけです。
通りかかった近所のおばあちゃんに「あら、花ちゃん、大丈夫かい? ドジだねぇ」と心配される始末。花子は心の中で「ドジじゃない、これは実験なの!」と叫びますが、もちろん言葉には出しません。
■尾道ライフの小さな事件簿
そんな風に、花子の尾道ライフは、映画のようなドラマチックな展開とは無縁の、ごくごく普通の日々が続いていきます。
猫のひたいほどの庭で家庭菜園を始めたおばあちゃんが、なぜか巨大なキュウリを収穫し、ご近所に配りまくる事件。
通学路にあるお洒落なカフェの看板犬が、いつの間にか近所の野良猫と友情を育み、昼寝を共有している微笑ましい光景。
クラスメイトの男子が、実家のラーメン屋の手伝いで腕を磨きすぎ、文化祭の出し物でプロ顔負けのチャーシュー麺を作ってしまい、行列ができてしまう珍事。
花子は、期待していたようなタイムリープも、身体の入れ替わりも経験しませんが、尾道のユニークな人々と、移り変わる季節の中で起こる小さな出来事の数々が、彼女の日常を彩っていきます。
今日も花子は、石段を上りながら、ふと考えるのでした。もしかしたら、この何の変哲もない日常こそが、一番の“奇跡”なのかもしれない、と。そして、明日もまた、ラベンダーの香りを嗅いでしまう自分がいることを、花子は知っているのでした。

頑張れ!スワローズ