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第80回 外来で増えた「私も抗MDA5抗体ですか?」
公開日:2024/01/18
呼吸器内科医として臨床で活躍する一方で、
多数のメディアで情報発信する倉原 優氏。
医療関連ニュースから、
現役ドクターがとくに見逃せないトピックについて、
現場の視点から率直なコメントをお伝えします。
八代 亜紀さんが、
抗MDA5抗体陽性の間質性肺炎増悪
のため逝去されました。
東日本大震災のときに
被災地に行って歌っていたのが印象的でした。
彼女が亡くなってからというもの、
膠原病関連間質性肺疾患
で通院している患者さんから
「私も八代 亜紀さんのように
肺炎が急速に悪化しないでしょうか?」
「私も抗MDA5抗体陽性でしょうか?」
という質問が増えました。
確かに心配になりますよね。
ただ、現在通院している人が
実は抗MDA5抗体陽性でした、
ということは今の日本の診療では
ほとんどないと思います。
たぶん。
抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎は通称、
CADM(Clinically amyopathic dermatomyositis
:筋症状のない皮膚筋炎)
と呼ばれていますが、
その他の膠原病と比較して
重症の間質性肺炎を起こしやすい
特徴があります。
この抗体が陽性になった場合、
「スイッチが入る」と表現する医師が多いです。
同抗体が測定されないと
診断しようがないのは事実ですが、
皮膚筋炎をみたときには
チェックしておきたいですし、
手の潰瘍やGottron徴候・逆Gottron徴候がある
のに抗核抗体が陰性ならば疑う必要があります1)。
そして、この疾患を診療していくうえで、
とにかく重要なのはフェリチンと考えられます。
抗MDA5抗体陽性例では、
フェリチン高値(≧500ng/mL)
は死亡リスクが高くなり、
高いほど予後不良になっていきます2)。
「同じ病気」で死去した
とされるのが美空 ひばりさんです。
Wikipediaによると、
最後の1年では「脚の激痛と息苦しさで、
歌う時はほとんど動かないままの歌唱であった。
この頃すでに、ひばりの直接的な死因となった
『間質性肺炎』
の症状が出始めていたとされており、
立っているだけでも限界であったひばりは、
歌を歌い終わるたびに椅子に腰掛け、
息を整えていたという。」
と記載されています。
当時は抗MDA5抗体なんて知る由もなかった時代ですし、
膠原病関連間質性肺疾患
でさえ存在があまり知られていなかったと思われます。
ただ、彼女は肝硬変やCOPD※も合併していましたし、
亡くなる数年前から症状が出ていることから、
「同じ病気」とは断定できないと思っております。
参考文献・参考サイト