[]inko, aidenhair tree [学名]Ginkgo biloba L. イチョウ科[イチョウ属]


概要

イチョウは、中国原産で、日本でも数多く栽培されている落葉高木である。中国や日本では種子を漢方として古くから利用しており、中国では紀元前2600年に既に喘息や気管支炎に用いていたという記録がある。イチョウの中国語名は「銀杏」、「白果」、「公孫樹」であり、中薬ではその種子のみを用いている。近年、ヨーロッパではイチョウ葉の有効性に関する多くの研究が行われ、イチョウ葉エキスは、俗に「血液循環を良くする」、「ボケを予防する」などといわれ、老人性の循環器系および神経系疾患等に対しては、一部にヒトでの有効性が示唆されている。ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)は、記憶障害、耳鳴り、めまいの改善に対するイチョウ葉抽出物の使用を承認している。安全性については、出血傾向、まれに胃腸障害、アレルギー反応を起こすことがあるが、規格化されたイチョウ葉製剤は適切に用いれば経口摂取でおそらく安全と思われる。ただし、市場には品質に自主規格基準のある医薬品グレードのものと規格のない粗悪品も混在しているので注意が必要である。特にイチョウ葉中に含まれるギンコール酸はアレルギーを起こすことから、規格品ではその含量が5ppm以下に規制されている。



循環器・呼吸器

ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)では末梢の動脈閉鎖症の患者の歩行時の痛みを改善する目的での使用が承認されている。葉の製剤の経口摂取で、末梢の動脈閉鎖症の患者が痛みを感じずに歩行できる距離を延ばすのに、有効性が示唆されている。
・収縮期血圧140mmHgもしくは拡張期血圧85mmHg以上の高血圧患者を対象とし、イチョウ葉抽出物を含む飲料を12週間摂取させたところ、血圧と血中尿酸濃度が低下したという報告がある。
・末梢動脈疾患(PAD)患者を対象とした二重盲検並行群間無作為化プラセボ比較試験において、イチョウ葉エキス錠を4ヶ月間摂取したところ、トレッドミル最長歩行時間および痛みを伴わない歩行時間、血流依存血管拡張反応(FMD)、抗酸化能、歩行障害、生活の質に効果は認められなかったという報告がある。


糖尿病・内分泌

糖尿病由来の網膜症において、色認識の改善に葉製剤の経口摂取は有効性が示唆されている。


生殖・泌尿器

月経前症候群(PMS)に対して、葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。


脳・神経・感覚器

ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)では葉の抽出液は、一次性変性痴呆症と血管性痴呆症のいずれにも効果があり、記憶障害、集中力の欠如、感情の抑うつ状態、耳鳴り、めまい、頭痛などを改善する目的で承認されている。
・アルツハイマー、脳血管性および混合型の痴呆に対し、葉製剤は経口摂取で有効性が示唆されている。さまざまなタイプの痴呆において、3ヶ月から1年間イチョウ葉を経口摂取したところ、認識能力や社会適応性を示す指標が維持または改善されたと報告されている。この疾患における有効性に反する報告があるが、ほとんどの知見では治療に何らかの助けになるとしている。
・脳梗塞後遺症者を対象とし、イチョウ葉エキスを含む錠剤を摂取させたところ、全ての患者で症状の改善又は改善傾向が見られたという予備的な報告がある。この現象については更なる検証が必要である。
・慢性期脳梗塞患者を対象とし、イチョウ葉エキスを4週間摂取させたところ、自覚症状(頭痛、抑鬱、自発性の低下など)や低血流部位への脳血流の増加が認められたという予備的な報告がある。この現象については更なる検証が必要である。
・症状の進行に対する効果についてはまだ立証されていない。また、一般の痴呆薬と直接比較した試験はまだないが、その効果はドネペジルやタクリンといった処方薬や他のコリンエステラーゼ阻害剤とおそらく同程度であるという報告もある。
・ドイツではイチョウ葉製剤を痴呆の選択薬の一つとしている開業医もいる。
・やや記憶力が衰え始めた年配者において、認識能力(とくに一瞬見たものの記憶力や認識処理速度)を向上させるのに、葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。この作用に関しては、一部を除き、ほとんどの知見で何らかの効果が期待できるとしている。
・複数の無作為割付臨床試験を統合した複数のシステマティック・レビューによると、イチョウ葉エキスで認知機能が改善した。治療の認容性は良好である。
・健康な高齢者の記憶の向上に対して、経口摂取で効果がないことが示唆されている。正常の精神機能を持つ60歳以上の成人が葉エキスを摂取したが、記憶に改善はみられなかった。
・記憶力が正常な85歳以上の高齢者を対象とした無作為化二重盲検プラセボコントロール試験において、イチョウ葉エキスを42ヶ月摂取させたところ、コンプライアンス(服薬遵守。処方された薬を指示どおりに服用すること)を考慮すると臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating)による進行リスク低減と記憶スコアの減少抑制が認められたという予備的な報告がある。
・健康な成人(30-59)における認識能力(記憶力や認識処理速度)を向上させるのに、葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。記憶力の減退を訴えない成人において、記憶や認識処理速度などの認識能力が改善したという知見がある。
20071月までを対象に、6つのデータベースで検索可能な無作為化比較試験15報について検討したシステマティックレビューにおいて、60歳以下の健常人によるイチョウ葉エキスの摂取(規格化品を最大360mgまで単回あるいは2日-13日)には、認知能を向上させる効果は認められなかったという報告がある。
・認知症や神経疾患のない高齢男女(6584歳)90名(試験群44名)を対象とした無作為化二重盲検比較試験において、イチョウ葉サプリメントを4ヶ月間摂取させたところ、認知機能、QOL、血小板機能に効果は見られなかったという報告がある。
・健常もしくは軽度認知症の高齢者3,069名(75歳以上、試験群1,545名)を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、イチョウ葉エキスを平均6.1年間摂取させたところ、認知症やアルツハイマー症の発症リスク、軽度認知症の進行率に効果は認められなかったという報告がある。
55歳以上の男女176名を対象とした二重盲検並行群間無作為化プラセボ比較試験において、イチョウ葉エキスを6ヶ月間摂取させたところ、認知機能(ADAS-Cog)および全般的QOL(QOL-AD,自己評価および介護者の評価による)に影響は認められなかったという報告がある。
・健常な若い男女78名を対象とした無作為化二重盲検クロスオーバー試験において、イチョウ葉エキスを単回摂取させたところ、摂取後の記憶の質および二次記憶、反応速度に関するスコアが改善したという報告がある。
・加齢黄班変性に対し、葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。
・めまい、平衡感覚障害に対し、葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。これらの症状に対する葉製剤は、プラセボと比較して有意に効果が見られたという臨床知見と、その効果はベタヒスチンに匹敵するという臨床知見がある。ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)ではめまいと耳鳴りへの使用が承認されている。
・糖尿病由来の網膜症において、色認識の改善に葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。
・耳鳴りに対して、葉製剤の経口摂取は効果がないことが示唆されている。
・正常圧の緑内障の治療に葉製剤の経口摂取は有効性が示唆されている。
・冬季うつ病の予防に、葉製剤は効果がないことが示唆されている。
・慢性治療抵抗性統合失調症を対象とした無作為化プラセボ比較試験において、クロザピン(抗精神病薬)の投与とイチョウ葉エキスを12週間併用させたところ、簡易精神症状評価尺度(BPRS)と陽性症状評価尺度(SAPS)に効果は認められなかったが、陰性症状評価尺度(SANS)の低下が認められたという報告がある。



その他

・高山病の予防に葉製剤の経口摂取で有効性が示唆されている。登山中に、イチョウ葉製剤を一日二回服用したところ、高山病の症状発現(頭痛、疲労、呼吸困難、吐き気、嘔吐)を有意に抑えたという報告がある。また耐寒性も23%改善したという。



医薬品等との相互作用

抗血小板薬・抗血液凝固薬を服用中の人は注意が必要。
・健康な男性を対象とした単盲検クロスオーバー無作為化試験において、ワルファリン25mg単回投与の前7日間、あるいはその7日後までイチョウの乾燥抽出物を含む製品、またはショウガを含む製品を13回摂取させたところ、イチョウ製品とショウガ製品にはワルファリンの薬物動態や薬理効果に影響が認められず、またそれぞれ単独でも血液凝固能や血小板凝集能に影響は認められなかったという報告がある。
・インスリンの作用に影響を与えることがあるので、インスリン使用中の人は血糖値とインスリン濃度をモニターすること。
・イチョウ葉製剤が肝のチトクローム(Cytochrome)P450に影響する可能性が示唆されているが、議論の余地がある。明白な結論が出るまでは、同酵素が代謝に関わる医薬品を服用している患者には注意を与えること。
・抗痙攣薬の作用に影響を与えることがある。



禁忌対象者

・イチョウ葉製剤を血小板凝集に作用するハーブとともに摂取すると、理論的には抗血小板薬や抗血液凝固薬を用いている人では出血傾向が高まることがある。

ワルファリン服用中の人、出血傾向のある人は注意が必要。手術の場合も出血のおそれがあるので、少なくとも2週間前から使用を中止すること。
・イチョウ製剤がてんかん発作を引き起こす可能性を示す例があるので、発作に対するサプリメントや医薬品を服用している人は、その危険性が高いことが考えられる。議論の余地はあるが、結論が出るまでは発作歴のある人やてんかんの人は使用をさけること。
・イチョウ葉は卵母細胞の生殖力を妨げることが示唆されている。ヒトではまだ明らかではないが、子どもを望む夫婦や不妊治療中の人は使用を避けたほうがよい。
・ツタウルシアレルギーのある人は、アレルギー性交差反応が起こる可能性がある。
・妊婦や授乳婦や安全性に関して十分な情報がないため、使用を避けたほうがよい。



安全性情報

イチョウ葉製剤は適切に用いれば経口摂取でおそらく安全と思われる。一年間にわたって摂取しても安全という報告もある。生の葉は重篤なアレルギーを起こすことがあるので摂取しないこと。

葉製剤の副作用としては、ごくまれだが胃や腸の不快感、頭痛、めまい、動悸、便秘、皮膚アレルギー反応など。高用量では落ち着きがなくなる、下痢、吐き気、嘔吐、筋緊張の低下など。重篤な副作用としては内出血が知られているが、報告は少ない。硬膜下出血が2例報告されている。他にスティーブン・ジョンソン症候群が1例報告がある。
・妊娠中、授乳中の安全性については充分なデータがないので、使用をさけること。20056月までに検索可能な7種のデータベースとコミッションEモノグラフについて検討したシステマティック・レビューにおいて、出産前後のイチョウ葉の摂取は、抗血小板作用による出血時間の延長の可能性が懸念されるため注意を要すること、授乳中の安全性については明らかではないため、より質の高い検証がなされるまでは摂取を避けるべきとの報告がある。
・外用剤の安全性については充分なデータがない。葉製剤では接触性皮膚炎が起きることがある。
・種子は長期使用、過量摂取をしてはならない、危険性が示唆されている。摂取量は加工されたもので14.5-10g
・加工された種子の安全性については明確に報告されているが、生の種子の安全性には統一の見解がない。生の種子は危険とする報告もある。生の種子の副作用として、腹痛、吐き気、下痢、呼吸困難、徐脈、発作、意識消失、ショックが知られており、小児では死に至ることもある。
・銀杏中毒は銀杏に含まれる4-O-メチルピリドキシンがビタミンB6の構造と類似しており、脳内のGABA生成過程でビタミンB6の補酵素としての作用を競合的に阻害し、けいれんが誘発されるという報告がある。
・果肉は少量でも重篤な症状(口の周りが赤くなる、直腸の炎症、肛門括約筋の痙攣)を起こすことがある。
・果肉の外用で、重篤な皮膚アレルギー症状や粘膜・腸管の炎症が起きることがある。ウルシ科の植物(マンゴー、カシューナッツも含む)にアレルギーのある人は、ギンナンにもアレルギーである可能性が高い。

・イチョウ葉との関係が疑われる健康被害が報告されている。
 1) 複数の症例研究を統合したシステマティック・レビューによると、イチョウ葉抽出物の摂取と出血には因果関係があることが報告されている。イチョウ葉抽出物を摂取した患者における出血事例を報告した15件の症例研究のうち、大部分が深刻な症状を示し、8件では頭蓋内出血が認められた。うち13件はイチョウ葉の他にも出血のリスク要因が認められた。イチョウ葉エキスを中止して出血が再発しなかったのは6件のみであった。出血時間を測定した3件では、イチョウ葉エキスの摂取期間中は出血時間の延長が認められた。
 2) 33-72歳女性(2名)がイチョウ葉エキスを、6ヶ月-2年間摂取したところ、特発性両側硬膜下出血をおこしたという報告がある。
 3) 56歳男性がイチョウ葉抽出物を13回、18ヶ月摂取したところ、突発性の脳内出血が認められたという報告がある。
 4) 70歳男性がアスピリンとイチョウ葉エキスを1週間毎日併用したところ、突発性の前眼房出血をおこしたという報告がある。
 5) イチョウと医薬品の相互作用が疑われる死亡例が報告されている。激しい痙れん発作で死亡した55歳の男性の症例では、バルプロ酸ナトリウム(痙れん薬)とアンチアンドロゲン剤と同時にイチョウ製剤を含む多数の健康食品を摂取していた。服用していた医薬品の血中濃度が低下しており、両医薬品ともチトクロームP450(薬物代謝酵素)のCYP2C9およびCYP2C19により代謝されることから、イチョウ製剤がチトクロームP450を誘導し、その結果、医薬品の血中濃度が低下したと考えられている。
 6) てんかんによる痙攣性発作が良好にコントロールされている患者2名(78歳男性、84歳女性)が通常の薬物と併用して、イチョウ葉抽出物を、12-14日摂取したところ、発作が再発したという報告がある。
 7) 45歳の男性が、耳鳴りのためにイチョウ葉を摂取し、48時間後に顔を含む全身に発疹および発熱を生じたという報告がある。
 8) 61歳男性がイチョウ葉エキスを6ヶ月以上摂取したところ、出血時間の延長が見られ、くも膜下出血と診断されたが、摂取中止により回復したという報告がある
 9) 71歳男性が濃縮イチョウ葉エキスを26ヶ月以上摂取し、骨関節炎の股関節痛のために4週間前からイブプロフェンを摂取したところ、脳出血により死亡したという報告がある。

・イチョウの果実や種子との因果関係が疑われる健康被害が報告されている。
1)1
5ヶ月女児で嘔吐やけいれん、意識障害を呈した銀杏中毒が報告されている。小児の銀杏の大量摂取に注意するよう、保護者に情報提供する必要がある。
2)2
歳女児が炒った銀杏を5060個摂取し、7時間後に嘔吐と下痢、9時間後にけいれんを呈する銀杏中毒を起こした報告がある
3) 25
歳女性がローストしたイチョウの実を摂取したところ(摂取量は不明)、前腕の灼熱感や腫れ、紅斑、顔や首、大腿部に皮膚炎が生じたという報告がある。
4)69
歳女性、62歳女性、68歳男性が銀杏拾いや果実の皮むきをした後1-4日後に痒みを伴う皮疹を生じたという報告がある。
5)61
歳男性が1日にイチョウを120-160㎎、6ヶ月以上摂取したところ、くも膜下出血が見られたという報告がある




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