(写真引用:TBS公式HP)

 

去年の今ごろは、ドラマ『カルテット』にはまっていて全話感想を書いた。他にもこの作品の価値を認めた人が多かったのか、第7回コンフィデンスアワード・ドラマ賞で作品賞をはじめとする5部門制覇したほか、複数のドラマ賞を受賞した。嬉しい。

 

今期は『校閲ガール』で大好きだった石原さとみさん主演の『アンナチュラル』で、毎週ワクワクさせられた。舞台は、死因究明専門の専門家が集まる「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。石原さとみさんは法医解剖医の三澄ミコト役を演じた。
 

他に同僚医師役としてぶっきらぼうで何を考えているかわからない中堂に井浦新。『Nのために』で好演した窪田正孝が、またちょっと陰を背負った役どころ。同じ野木亜紀子さんの『重版出来!』でも大活躍だった松重豊さんが頼りになる所長役。芸達者な面々を活かしきった脚本が見事だった。

 

(写真引用:TBS公式HP)

 

もともと、ミステリーの領域では、パトリシア・コーンウェルの検死官シリーズにはまって、おそらく全作読んだこともあり、死因を科学的に解明するのが好きなのだ。また8話ででてきたボツリヌス菌を大学のときに卒論のテーマで扱っていたり、大学を卒業して化学品メーカーの研究所で農薬を扱ったりと、毒劇物に詳しいという経歴もあって、興味がある。胃の内容物からボツリヌス菌が検出されたとき、異常に臭い!と騒いでいたが、あの臭さは培養したものしかわからないはず。ものが腐った臭いとはまったく異なる。


あ!わたしのことなど、どうでもいい。ドラマに戻る。



基本的には一話完結なのだが、10話通して、中堂の恋人夕希子が不審死した、という背景とミコトが幼いときの一家心中の生き残り(母に殺されそうになったことを意味する)であるというトラウマが底辺に流れている。大きくは、恋人は連続殺人の被害者だったのではないかという疑いを持つ中堂の行動が、このドラマを大きく引っ張っていたと感じる。

 

一方で、1話ごとの不審死の謎を解くというおもしろさがある。毎回、きちんと盛り上げポイントがあって、泣かされたり笑わされたりするだけでなく、夕希子事件の謎の解明への布石が敷かれ少しずつ進展する、という二層構造がたまらない。すべての謎が解けたときのカタルシスの大きさは、近来のドラマにはなかったものだ。

 

これが原作のある話ではなく、野木さんのオリジナル脚本だというから驚きだ。それぞれの役者さんたちの魅力をあますところなく引きだされていた。特に今回井浦新の無骨で真っ直ぐで、そのためにいろんな人とのトラブルがたえない役がはまりまくった。『カルテット』で高橋一生の魅力が広く周知されたように、井浦新ファンが激増するのではないか!?

 

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【恋人が亡くなる前の幸せだったころの回想シーン】

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【身元不明で運び込まれた恋人の解剖をすることになったシーン。このあと号泣。】


井浦新は三浦しをんの『光』でもあやしい役を瑛太とともに演じていたけれど、今回はそれをさらにうわまわっていた。自分の感情を押し殺し、それでもなお溢れかえる「怒り」。


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【犯人のもとへ走る!】

法医学者でありながら、夕希子を殺した犯人を殺しかねない危うさ。黒々と燃える怒りの炎は、美しいとさえ感じる。それを察知し、食い止めようとうするミスミとの対峙。自身が母に殺されそうになり家族を失ったミスミだからこそ、その言葉は説得力を持つ。

 

そんな過去には負けない!という強い意志を感じるミスミの瞳と言葉には、普段の生活のなかではなかなか通すことのできない筋が真っ直ぐに通っている。毎回何ともいえない胸がすくような気持ちよさがあった。中途半端を許さない。最終回で検察の人に犯人を有罪にするために、まずい情報を出さないで欲しいと頼まれたときも、断った。そしてそれを普段は優しいだけの所長がきちんとバックアップ。

 

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さらに、物語のなかで敷かれた布石には、どうしようもないジレンマみたいなものを含んでいた。8話の火事で10人ほどが亡くなったなかで、たったひとりの生き残りが連続殺人犯だったという皮肉。助けた人は亡くなったのに、である。しかし、ここでこの犯人が死んでいたら、中堂が抱えた闇は一生消えることはなかったのだ。

 

そして10話のサブタイトル「旅の終わり」。連続殺人を立証できずにただの死体損壊の罪(刑期3年)になりそうな犯人を殺人の有罪へ持ち込むための証拠を与えたのは、8年前に亡くなった夕希子のアメリカで土葬になっていたご遺体だった。

 

幽霊でもいいから死んでしまった夕希子に会えるなら会いたい。会って聞きたい。お前を殺した犯人は誰なのだ?と。何話か忘れたけれど、中堂がミスミに語った言葉が、現実になった瞬間でもあった。

 

「旅の終わり」はUDIの面々の旅の終わりではないか?すなわちUDIラボが大変なのことになって解散することになるのでは?と思わされていたが、最後に中堂を助けた夕希子の旅の終わりだったのだとわかったとき、それまでの中堂の苦しみが空にのぼっていったような気がした。

 

日本での「不審死」の解剖率の低さが、殺人犯をおめおめと逃げおおさせ、そこらへんを闊歩させているのかもしれないのだ、と気づかされた。

 

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「 不自然な死は許さない! 」
亡くなった人だけでなく、今を生きる人々を救い、
未来への希望を見出すために…
彼らは死因を究明し、
未来の誰かを救命する!!

 

観終わったとき、この番組HPに掲げられたメッセージがせまってきた。1話とラストで、ミスミが夢中で弁当を食べる姿が印象的だった。「食べる=生きる」ということなのだ。「生きる」ことそのものに対して、真っ直ぐにごまかすことなく描ききったドラマだったと思う。

素晴らしい!続編を観てみたいけれど、これほどの完成度をみせつけられると、がっかりしたくない気持ちになっている。ありがとう。『アンナチュラル』に関わった人たち。

 

(最近、いろいろ映画やお芝居も観ているけれど、忙しくてなかなかブログが書けません。だけど、このドラマだけは書いておきたかった…。)