ロシアの港湾視察レポート | MTCJapanロシア・ノーボスチ

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先日サンクトペテルブルクJETRO主催で、バルト海水域の主要港の一つであるウスチルーガ港への視察が行われた。ロシアでは2015年に原油価格の暴落に伴い経済が失速し、その影響は同国の輸入、輸出にも大きな影響を与えた。今回の視察ではその余韻を未だに感じさせるような光景を目にすることとなった。
ロシア港湾の全体像を俯瞰しつつ、昨今の状況をご説明したい。

ロシアの5水域

ロシアの港湾は北極、バルト海、黒海、カスピ海、極東の5つの水域に分類される。ウスチルーガ港はバルト海にある主要港の一つである。それぞれの水域には取り扱い品目に特徴があり、黒海は穀物、鉄類、極東は石炭、木材、バルト海は主にコンテナと化学肥料、石油、石油製品、ガスの取り扱いが多い。



バルト海の6港湾

バルト海水域は6つの港湾(サンクトペテルブルク港、プリモルスク港、ヴィソツク港、ウスチルーガ港、カリーニングラード港、ヴィボルグ港)を抱えている。そのうち2015年の貨物量の取り扱いベースでトップ10に入っている港は4つあり、ウスチルーガ港(2位)、サンクトペテルブルク港(5位)、プリモルスク港(4位)、ヴィソツク港(10位)となっている。


*JETRO配布資料より引用
※1カリーニングラードは飛び地のため地図外
※2ブロンカ港は現在試験運用中


14の多目的ターミナル

今回視察が行われたウスチルーガ港は、サンクトペテルブルクの西方約140kmに位置している。当日はマイクロバスでサンクトの中心地から3時間ほどの道のりであったため、それなりに市場までの輸送距離はあると感じた。現在、原油、石油精製、石炭、コンテナ、フェリー、化学肥料、木材などの14のターミナルが稼働している。

ウスチルーガ商業工のリディア・エフレモワ部長によれば、その他、液化天然ガス工場、メタノール工場、アンモニア工場の開発が進んでおり、液化天然ガス工場はガスプロムが開発に参加しており2018年の稼働を予定しているとのこと。また鉄道施設の充実も同港の特徴の一つで、同港からはモスクワ、カルーガ地域へひと月に25~30本ほどの列車が出ているとのことであった。


※ 1ウスチルーガ商業工プレゼンテーションから引用
※2 こちらから上記マップの拡大図を確認できます

同港は輸入車の受け入れでも大きな実績がある。今回視察が行われたウスチルーガ港の多目的ターミナル「ユーグ2」と「ノーヴァヤガバニ」はバルト海沿岸港で最大規模の完成車取り扱い施設と実績を有しており、日系自動車メーカーも両ターミナルを利用して完成車を輸入している。※2013年のロシア全体の完成車の輸入は約78万台、うち約25%にあたる19万台がウスチルーガ経由でロシアに入ってきていた。

もともとロシアへの完成車の輸入はフィンランド港湾に依存していたが、2005年から2008年ごろにかけて急増した輸入に道路や検問が対応しきれなくなり、代替え港としてウスチルーガを含むバルト海沿岸の港湾の開発が進んだ。

閑散としたコンテナターミナル

今回の視察ではウスチルーガコンテナターミナルと、ユーグ2、ノーヴァヤガバニへの視察が行われたが、全ターミナル共通して貨物の量が少ない印象を受けた。実際に待機所にもトラックの姿はまばらで、貨物の取り扱いが少ないのは明らかだった。

ユーグ2、ノーヴァヤガバニはROROターミナルを備えており、13年ごろは完成輸入車の窓口として年中フル稼働していたということであるが、蔵置所に車の姿はなく静けささえ漂っていた。同ターミナルの運営会社ノーヴァヤガバニのマキシム・モロゾフ社長によれば、自動車販売が激減している中で、外国完成車の輸入も当然減っており、現在は非常に厳しい状況であるとのことであった。

資源とコンテナ明暗くっきり

こちらの記事によると、2015年のロシア港湾の取り扱い量は前年比5.7%+の676(百万)トンであった。詳細を見てみると資源関連の輸出が好調だったのに対し、コンテナの取り扱いが減少したことが見て取れる。

主要品目取扱量(単位100万トン)
※カッコ内は前年比

全体 312,2 (+5,3%)
石炭 123,2 (+6,0%)
穀物 34,4 (+15,1%)
鉄 26,2 (+12,2%)
肥料 16,0 (+8,8%)
鉱石 6,7 (+10,8%)
木材 5,3 (+10,7%)
非鉄金属 3,5 (+10,7%)
コンテナ 40,1 (-14,4%)
屑鉄 4,2 (-8,8%)
冷凍コンテナ 3,2 (-11,4%)

ルーブル安はロシアからの資源の輸出に有利に働いたが、同時にロシア自身の購買力の低下も招いたために、コンテナなどの輸入にブレーキがかかってしまったというのが実際のところのようだ。実際、ウスチルーガの港のコンテナターミナルやROROターミナルは閑散としていたのは上記の通りであるが、そのほかの資源輸出のためのターミナルは活発に活動している様子が見て取れた。

もともとウスチルーガ港は、バルト海諸国やフィンランドを経由してロシアに入ってくる貨物を、自国の港湾に引き込むための拠点として開発が進められてきたわけであるが、実際には資源の輸出がメインの港湾になっているのが現状のようである。

ウスチルーガ港の当初の計画ではフェーズ1(07年―11年)で44万TEU、フェーズ2(12年―15年)で155万TEU,フェーズ3(16年―20年)で285万TEUまで拡大するとのことであったが、14年の取り扱いは11万TEUに届いておらず、15年は9万TEUを割り込んだ。

コンテナターミナルとしての魅力乏しく

今回の視察に参加した日系ロジスティック会社の責任者からは、同港の施設についてガントリークレーンの数も少なく、トラックの待機所も閑散としており、関連企業の事務所なども周辺に見られず「魅力に乏しく、船会社としては利用しにくい」とのコメントがあった。バルト海にはロシア最大のコンテナ取扱い量を誇るサンクトペテルブルク港があり、同港と比較すると施設や地理的な利便性において、ウスチルーガ港は見劣りするとのことである。しかし化学肥料や、資源の輸出に関しては同港の施設は充実しており、実際に2015年はルーブルの下落により輸出が優位となったのは記述の通りである。

まとめ

バルト海沿岸ではウスチルーガ以外にも、現在ブロンカ港の開発が進んでおり、同港が完成すれば145万TEUの処理能力を有することになる。しかしロシア全体のコンテナ取扱量が頭打ちとなる中で、港湾間でパイ(コンテナ)を奪い合うような形になることが予想される。ロシアへ物を輸出する側の日系企業の立場に立ってみれば、バルト海港湾の処理能力は余っており、ROROターミナルの受け入れキャパシティも十分すぎるほどある。フィンランド、バルト諸国港湾経由も依然として頻繁に利用されており、ロシアへの輸入に関する選択肢が多いことは歓迎されることであると考えられる。また港湾間で競争があることでサービスの向上がなされれば、これも荷主にとっては良いことではなかろうか。

今回も最後までお読み頂きましてありがとうございました。

コンサルティング部門 山田

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