(史実を基にしたフィクションです。史実と異なります。御了承下さい。)

氏康「うぬぅ!今川め!(怒)祖父様(早雲)の恩を忘れ、恩を仇で返すとは何たることよ!(怒)許せぬ!(怒)」

そこへ北条綱成がやってきた。
綱成「兄者!拙者を河越に行かせて下されっ!河越城を死守してみせまする!」

北条綱成は北条氏綱の娘婿、氏康の義理の弟になるが、氏康にしてみたら実の弟のように親しく、また頼りになる漢(おとこ)だった。
勇猛果敢、武力や政治力は氏康にも優るとさえ言われた。
旧姓は福島(ふしま)。
戦の際は自ら先頭に立ち、地黄八幡の幟を兵士と共に靡かせて敵陣を突破した。
この地黄八幡の幟を見ると敵兵は脅えたという。

氏康「綱成っ!行ってくれるか?腑甲斐無い兄を許して欲しい…。河越に出せる兵は僅か三千…。すまぬ…。」

綱成「兄者!弱音を吐くな!(怒)許せぬのは今川、足利じゃ!(怒)なあに、三千も兵がいるならば多勢に無勢じゃ!必ずや河越城を死守してみせまする故、兄者はこの小田原城をしっかりとお守り下さいませ!」

氏康は泣き虫でも知られていた。
氏康の目が潤んだ…

氏康「つ、綱成…すまぬ、そちには誠に感謝致す。ワシにしてみれば綱成!実の弟じゃ!だから決して死んではならぬぞ!それだけは頼む!そちだけが頼りじゃ!頼む!頼んだぞ!いいか?綱成!早まるなよ、死んではならぬ!うっぅ…」

綱成「兄者!お泣きになりますな!彼の世で氏綱様がお怒りになりますぞ!ははは(笑)しかし、兄者!拙者をそこまで想うて下さり、大切にして下さること、恐悦至極、ありがたき幸せでございまする!約束致しましょう!必ずや生きてこの小田原城にて勝ち戦を報告に参りますことを!」

氏康は泪目ながら笑った。
何と頼もしい弟かと。
そして腑甲斐無い自分を彼の世の父、氏綱に詫びつつも素晴らしい弟を引き合わせてくれた父に感謝した。

その晩、普段は夜は酒を飲まない氏康は綱成と酒を酌み交わした。

綱成「兄者!美味いですな!酒も魚も…。これは民が汗水流してワシらに献上賜ったもの、民の笑顔と幸絶えぬ世に、民の安寧の世を築きたいですな!」

氏康「いかにも!祖父様の夢はまさにそこよ!その夢半ばには幾多の困難もあろう!この一件もそのひとつやも知れぬのう…」

朧月が二人を照らしていた。

盃に映る月を見つめ、氏康は必ずやこの困難に打ち勝つと決意した。

綱成が河越城に向かって暫くして、今川義元の軍勢がこちらに攻め入りつつあるという情報がきた。
既に駿河の北条の領地は奪われた。
そして綱成が河越城に到着したかと思いきや、関東管領上杉憲政、扇ガ谷上杉朝定、そして氏康の妹を妻にした古河公方足利晴氏が北条を裏切り、上杉と手を結び、関東の各諸将もこれに応じた。
河越城の北条軍は僅か三千と城兵程度、一方、両上杉と足利、関東諸将の連合軍(以降、上杉・足利連合軍と記す)は八万五千を超えるという。

上杉憲政「ふん、北条の息の根を止めるには十分な兵力よ!(足利)公方様もお味方なれば、盗っ人北条を潰して再び関東を我らの手に治めようぞ!扇ガ谷朝定殿も味方になって下さった、皆、余程北条に怨みがあるという証じゃ!あははは!(笑)」

長野業正「憲政様、しかし油断はなりませぬ!事は慎重になされますよう…。北条は油断できぬ敵故、手強いかと…。」

憲政「長野…。あははは、お主は氏康めと変わらぬ臆病者やも知れぬのう…あははは!(笑)こちらの軍勢は八万五千を超えるのじゃぞ!(笑)これだけいれば倒せない敵はおるまいて!(笑)ましてや北条は鎌倉幕府の執権の北条の姓を盗み名告る盗賊じゃ!(怒)どこの馬の骨かわからぬ伊勢が勝手に相模や武蔵の領地を掠め取ったのじゃ!(怒)なあに、甲斐の武田、駿河の今川も北条を潰しにかかるのも時の問題にて、今川義元殿からワシに書状が届いた。駿河の北条の領地を奪還し、武田と手を結び相模に攻め入ろうかとな!(笑)」

北条家にとって、まさに今までにない危機を迎えた。
今川義元が甲斐國の武田信虎(武田晴信、後の武田信玄の父)と今川・武田連合軍にて東は上杉・足利連合軍、西は甲斐から武田軍、駿河から今川軍にて伊豆、相模、武蔵から北条を潰滅させようと企てていた。

しかし、甲斐國はある意味の御家騒動が起きていた。
武田晴信が父の武田信虎を甲斐國から事実上の追放、武田は晴信が家督を引き継いだ。
晴信は今までの父、信虎が行ってきた政策を全て見直した。
今川との同盟も父、信虎を駿河國の今川の元に追放したために一旦白紙となる。
武田は北条を潰してもあまり意味がない。
むしろ、北関東の村上義清や越後の長尾氏、また信州の諏訪氏、そして信濃國から西を目指すのが課題だった。

その頃、今川も遠江、三河を欲しかった。
尾張國の織田と三河は奪い合いみたいな様相、水野家(家康の母方)や松平家(家康の父方)も巻き込む、まさに戦乱の世だった。

室町幕府の威厳は失墜し、今川も武田も北条を潰滅させるに力を注ぐ場合ではなくなったのかもしれない。

(つづく)