◆アフリカでエボラ出血熱の対策をしていたときよりもずっとひどい状況で、
下水道と上水道が混じった水道からコップに水を汲んで、
目の前で飲んでいる人を見たときのような感覚でした。
◆この失敗は間違いなく
将来、
感染症の教科書に掲載され
語り継がれるはずです。
●「この失敗は感染症の教科書で語り継がれる」
岩田健太郎医師が語る3密クルーズ船の“なぜ”
4月16日
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船しその内情を伝え、
大きな反響を呼んだ神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授。
本誌コラムニストの思想家・内田樹氏と、クルーズ船の実態をはじめ政府の対応について、週刊誌AERAで対談した
(対談日は4月3日)。
その中から、ここではクルーズ船対応が
なぜ失敗だったのかをあらためて語る。
※【岩田健太郎×内田樹 日本のコロナ対応の遅さは「“最悪の事態”想定しないから」】よりつづく
* * *
──緊急事態宣言を受けて、岩田健太郎医師はツイッターで、
<(前略)万が一結果が得られなくてもそれはそれで大きな前進です。
うまくいかない事例と真正面から向き合ってこそ「ベターなプランB」は生まれうる>と評した。
ようやく、動き始めた。
内田樹(以下、内田):この間の政府の動きで、「ここが分岐点だった」と思うことはありますか?
岩田健太郎(以下、岩田):日本は概ね、いまのところうまくいっていると思います。
内田:そうですか。
意外ですね。
岩田:その理由の半分は、コロナが上陸した後の対応が適切だったこと、
あと半分はラッキーだったからです。
他国に比べて感染者が少ない原因について、
日本人が清潔好きだからとかハグやキスをしないからとか言われていますが、
僕個人は一番の理由として、国内のコロナ上陸にいち早く気づいたことがあると考えています。
内田:他の国より早く気づいたんですか?
岩田:イタリアやアメリカは、
すでに昨年12月の段階でコロナの感染が始まっていた可能性があります。
中国人観光客の入国をまったく規制していなかったので、
気づいた時点では制御できない数の感染者が国内に発生していたんです。
日本ではたまたま、
1月に北海道を旅行していた
中国人観光客がコロナに感染しているのが発見され、
春節の時期に来日する中国人を抑制できたのが大きいと思います。
内田:しかし、横浜に停泊した「ダイヤモンド・プリンセス号」(以下、DP号)では、
数百人の感染者が出ましたね。
僕はあれは大失敗だったと思います。
岩田先生は乗船されて、現場を見て、どう感じましたか?
岩田:クルーズ船内の感染事故は、
これまでも何回もありました。
ただ、あの規模のケースは
世界でも初めてですね。
3500人が閉鎖環境に密集するクルーズ船は「3密」の典型。
極めて感染が広がりやすい環境です。
政府も対応に悩んだと思います。
日本は14日間の検疫期間をとって、船内に乗員・乗客を全員とどめるという選択肢をとりました。
14日間というのは、コロナに感染してから発症するまでの最大期間です。
その戦略をとる以上、
「新しい感染者を出さない」
「感染者と未感染者を分けるゾーニングを厳格にする」
というポリシーを徹底する
必要がありました。
が、それがまったくできていなかった。
内田:感染を防ぐには、
感染経路を遮断するしかない。
岩田:そのとおりです。
ウイルスは目に見えないので、
「ここは汚染されているレッドゾーン」
「ここはウイルスが一匹もいないグリーンゾーン」
と意識的に線引きすることが必要です。
汚染ゾーンにスタッフが入る場合には、
感染を防ぐためにマスク、ゴーグル、防護服を着なければなりません。
防護服の表面はウイルスで汚染されますので、
逆にグリーンゾーンでは
「防護服は着てはいけない」んです。
内田:なるほど。
岩田:DP号は線引きがどちらも中途半端で、
グリーンゾーンで防護服を着たり、スタッフがレッドとグリーンを行き来したり。
厚労省の副大臣が写真をSNSにアップして炎上しましたが、
レッドとグリーンの入り口が同じでしたよね。
内田:あの写真は衝撃でしたね。
現場のトップが
ゾーニングの意味を
知らないということを
露呈したわけですから。
岩田:入った瞬間に
「これはあかん」
とわかりました。
アフリカでエボラ出血熱の対策をしていたときよりもずっとひどい状況で、
下水道と上水道が混じった水道からコップに水を汲んで、
目の前で飲んでいる人を見たときのような感覚でした。
ゾーニングは概念なので
「船の上だからできない」
ことはなく、
粘着テープ一本でできます。
DP号では700人以上の感染者が出ましたが、
この失敗は間違いなく将来、
感染症の教科書に掲載され
語り継がれるはずです。
(文・構成/大越裕)
※AERA 2020年4月20日号より抜粋
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下水道と上水道が混じった水道からコップに水を汲んで、
目の前で飲んでいる人を見たときのような感覚でした。
◆この失敗は間違いなく
将来、
感染症の教科書に掲載され
語り継がれるはずです。
●「この失敗は感染症の教科書で語り継がれる」
岩田健太郎医師が語る3密クルーズ船の“なぜ”
4月16日
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船しその内情を伝え、
大きな反響を呼んだ神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授。
本誌コラムニストの思想家・内田樹氏と、クルーズ船の実態をはじめ政府の対応について、週刊誌AERAで対談した
(対談日は4月3日)。
その中から、ここではクルーズ船対応が
なぜ失敗だったのかをあらためて語る。
※【岩田健太郎×内田樹 日本のコロナ対応の遅さは「“最悪の事態”想定しないから」】よりつづく
* * *
──緊急事態宣言を受けて、岩田健太郎医師はツイッターで、
<(前略)万が一結果が得られなくてもそれはそれで大きな前進です。
うまくいかない事例と真正面から向き合ってこそ「ベターなプランB」は生まれうる>と評した。
ようやく、動き始めた。
内田樹(以下、内田):この間の政府の動きで、「ここが分岐点だった」と思うことはありますか?
岩田健太郎(以下、岩田):日本は概ね、いまのところうまくいっていると思います。
内田:そうですか。
意外ですね。
岩田:その理由の半分は、コロナが上陸した後の対応が適切だったこと、
あと半分はラッキーだったからです。
他国に比べて感染者が少ない原因について、
日本人が清潔好きだからとかハグやキスをしないからとか言われていますが、
僕個人は一番の理由として、国内のコロナ上陸にいち早く気づいたことがあると考えています。
内田:他の国より早く気づいたんですか?
岩田:イタリアやアメリカは、
すでに昨年12月の段階でコロナの感染が始まっていた可能性があります。
中国人観光客の入国をまったく規制していなかったので、
気づいた時点では制御できない数の感染者が国内に発生していたんです。
日本ではたまたま、
1月に北海道を旅行していた
中国人観光客がコロナに感染しているのが発見され、
春節の時期に来日する中国人を抑制できたのが大きいと思います。
内田:しかし、横浜に停泊した「ダイヤモンド・プリンセス号」(以下、DP号)では、
数百人の感染者が出ましたね。
僕はあれは大失敗だったと思います。
岩田先生は乗船されて、現場を見て、どう感じましたか?
岩田:クルーズ船内の感染事故は、
これまでも何回もありました。
ただ、あの規模のケースは
世界でも初めてですね。
3500人が閉鎖環境に密集するクルーズ船は「3密」の典型。
極めて感染が広がりやすい環境です。
政府も対応に悩んだと思います。
日本は14日間の検疫期間をとって、船内に乗員・乗客を全員とどめるという選択肢をとりました。
14日間というのは、コロナに感染してから発症するまでの最大期間です。
その戦略をとる以上、
「新しい感染者を出さない」
「感染者と未感染者を分けるゾーニングを厳格にする」
というポリシーを徹底する
必要がありました。
が、それがまったくできていなかった。
内田:感染を防ぐには、
感染経路を遮断するしかない。
岩田:そのとおりです。
ウイルスは目に見えないので、
「ここは汚染されているレッドゾーン」
「ここはウイルスが一匹もいないグリーンゾーン」
と意識的に線引きすることが必要です。
汚染ゾーンにスタッフが入る場合には、
感染を防ぐためにマスク、ゴーグル、防護服を着なければなりません。
防護服の表面はウイルスで汚染されますので、
逆にグリーンゾーンでは
「防護服は着てはいけない」んです。
内田:なるほど。
岩田:DP号は線引きがどちらも中途半端で、
グリーンゾーンで防護服を着たり、スタッフがレッドとグリーンを行き来したり。
厚労省の副大臣が写真をSNSにアップして炎上しましたが、
レッドとグリーンの入り口が同じでしたよね。
内田:あの写真は衝撃でしたね。
現場のトップが
ゾーニングの意味を
知らないということを
露呈したわけですから。
岩田:入った瞬間に
「これはあかん」
とわかりました。
アフリカでエボラ出血熱の対策をしていたときよりもずっとひどい状況で、
下水道と上水道が混じった水道からコップに水を汲んで、
目の前で飲んでいる人を見たときのような感覚でした。
ゾーニングは概念なので
「船の上だからできない」
ことはなく、
粘着テープ一本でできます。
DP号では700人以上の感染者が出ましたが、
この失敗は間違いなく将来、
感染症の教科書に掲載され
語り継がれるはずです。
(文・構成/大越裕)
※AERA 2020年4月20日号より抜粋
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