世界選手権で3枠を
取るためには、

樋口新葉さんが必要。

だから、樋口新葉さんは、
世界選手権の代表に
選ばれた。

坂本花織さんより
樋口新葉さんの方が、
PCS(演技・構成点)が
高い。

だから、世界選手権では、
PCSの高い樋口新葉さんの
方が、必要なんです。

全日本選手権で、
樋口新葉さんは、
ショート、フリー
共にミスをした。

坂本花織さんより
樋口新葉さんの方が
PCSの点数が高いのだから、
樋口新葉さんが、
ショート、フリー共に
ノーミスだったなら、
樋口新葉さんは、
坂本花織さんより
上位に
なったかもしれない。



●坂本花織と樋口新葉はまだ高校2年。
平昌代表、運命の分かれ道について。

12/26(火) 8:01配信

Number Web

今季、誰にも負けない大会数をこなし、
急成長し、ついに五輪代表の座まで
辿り着いた坂本。

大会までの短期間に、
さらなる成長を期待したい。

photograph by Asami Enomoto

 宮原知子に続き、
2人目の代表選手の名前が
アナウンスされると、
誰よりも大きな拍手が
場内に鳴り響いた。

【写真】 樋口新葉、
全日本ジュニア連覇の時の笑顔。

 リンクへと足を踏み入れると、
晴れやかな表情で中央へと進んだのは、
坂本花織だった。

 平昌五輪代表選考会を兼ねた
フィギュアスケートの全日本選手権の
女子は、12月23日にフリーが行われ、
優勝した宮原知子が自動的に内定。

残る1枠は誰の手のものとなるのか、
翌日の公式発表の焦点となった。

 全日本選手権が終わった時点で、
選考基準に照らし合わせて
代表選考の対象となる選手は、

大会前から増えることはなく、
坂本、樋口新葉、本郷理華の
3人に絞られていた。

 ただ、全日本選手権で
6位にとどまった本郷の
可能性はなくなり、

実質的には2位の坂本、
4位の樋口の両者が
選択肢として残った。

 どちらを選ぶか――選考の
席上の議論は白熱したという。

 どちらにも代表に選ばれるだけの
理由があるからだ。

あらためて、
2人が代表候補となった経緯、
そして明暗を分けた理由を見ていきたい。

◆自己ベストを更新しての
全日本2位という成績。

 全日本選手権での坂本は、
置かれた状況を考えれば、
見事のひとことに尽きた。

 21日のショートプログラムで
トップに立つと、
中1日で行われるフリーは
抽選の結果、
最終滑走で臨むことになった。

ショート1位であることに加え、
さらに重圧がかかる状況を
迎えたのである。

 その中で、
冒頭の3フリップ-3トウループこそ
「ちょっと(回転が)足りなかったかな
と思った」
と言うように回転不足となったが、

その後はほとんどのジャンプを
正確に決めていく。

最後のジャンプを成功させると、
フィニッシュまで観客席の拍手が
やむことはなかった。

 総合得点は213.51。

 国際スケート連盟非公認ながら、
自己ベストを更新しての2位であった。

◆樋口はシーズンベストで
世界3位の点数を出していた。

 対照的に、樋口は
ショート、フリーそれぞれで
ジャンプにミスが出た。

ショートでは冒頭の
ダブルアクセルが1回転半となる。

 「力が入りすぎました」

 樋口は原因を語っている。

 フリーでは、
3サルコウが2回転となった。

前日の公式練習で右足を痛め、
痛み止めを飲んで迎えていた。

 結果、206.96で
年齢制限から五輪出場資格のない
紀平梨花に次ぐ4位で終えた。

 ただ、フィギュアスケートの
代表選考は全日本選手権のみで
決めるわけではない。

他に、GPファイナル上位2名、
世界ランク上位3名、
シーズンランク上位3名、
シーズンベスト上位3名、
と項目があり、
それらを踏まえて総合的に判断される。

 樋口はすべての項目に
名前を連ねるのに対し
坂本は2つ。

その2項目でも樋口が坂本の上を行く。

 特にシーズンベストでは、
海外勢を合わせても、
メドベデワ、ザギトワに次ぐ
3位という得点を出している。

こうした点を踏まえれば、
樋口が優位とも捉えられる。

◆選考理由は
「全日本の成績とパフォーマンスです」。

 どちらにも代表となって
おかしくはない根拠があった。

 事実、選考会議では
「議論が白熱した」と
小林芳子強化部長は明かしているのだ。

 そして選考の理由を、
「あえて言うなら」と前置きした上で、

「全日本の成績とパフォーマンスです。

ジャンプにGOEのプラスがつきますし、
ショート1位、フリーと合わせて
2位になったのは大きいです」

と説明した。

 いくら実力を秘めていても、
ここ一番で
発揮できなければ意味はない。

五輪代表をかけた、
緊張を強いられる試合で
それに打ち勝ったことが、
最終的には決め手となったのである。

◆多くの試合をこなしながら
今季急成長を遂げた坂本。

 坂本は全日本選手権のみ
良かったわけではない。

今シーズン、試合を重ねていく中で
成長を遂げてきた。

 グランプリシリーズの
デビュー戦となった第1戦の
ロシア大会は5位にとどまったが、

上位の選手の中では
圧倒的に多い試合数をこなしながら
徐々に力をつけていき、

11月下旬、坂本にとって
GP2戦目のアメリカ大会では
自己ベストの大幅な更新となる
210.59で2位となった。

この急成長していった点も、
大いに加味されたのだろう。

◆世界選手権代表となった樋口の、
その理由。

 平昌五輪代表には
なれなかった樋口は、

世界選手権の代表には
宮原とともに選ばれた。

坂本と2大会の代表を分け合った形だが、

そこには樋口への
評価の高さがうかがえる。

 世界選手権には
来シーズンの世界選手権の国別の
出場枠がかかっている。

日本とすれば最大の3枠を
獲得したいところだが、

3人が出られたときは
仮に1人が不調でも残りの
2人でカバーできた。

だが2人ということは、
1人が下位に沈めば
3枠獲得が困難となる。

上位進出が必ず可能な
高いレベルの2人でなければならない

――その条件の下で
樋口は選ばれているのだ。

 今シーズンのショート
『ジプシーダンス』、
フリー『007 スカイフォール』は
素晴らしかった。

特に『007 スカイフォール』は
出色と言ってよいほど樋口にふさわしく、

彼女の良さを引き出すプログラムだ。

 樋口には大きな舞台で
完成された演技を観てみたいと
思わせる魅力がある。

 それが現実となったとき、
また1つ殻を割れるはずだし、

もう一回り、大きくなれるはずだ。

幸い、樋口本人は
すでに前を見据えている。

高校2年生2人の新しい出発点と
なった全日本。

 「(五輪代表になって)うれしさでいっぱい」
と言う坂本は、こうも語っている。

 「他の人が行きたかった中、
自分が行くので責任もあります。

日本代表として、
そういう責任の中で
自分の演技がしたいと思います」

 五輪代表争いという点では、
坂本と樋口は明暗を分けた。

だが先は長く、
これから先の将来は
自らの手で再び拓いていけるのだ。

 重圧のかかる中、
それぞれに試合の中から
経験を得た全日本選手権は、

ともに高校2年生である
2人の、新たな出発点でも
あるように思えた。

(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)