●朝日新聞社説
●(社説)

加計学園問題
 論点をすり替えるな

(05/31)

 安倍首相の

友人が

理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」の

獣医学部新設計画をめぐり、

前文部科学事務次官の
前川喜平氏が新たな証言をした。

 昨年9~10月、和泉洋人・首相補佐官に首相官邸に複数回呼ばれ、

新設を認める規制改革を早く進めるよう求められた。

和泉氏はその際、

「総理は自分の口から言えないから、私が代わって言う」

と述べたという。

 事実なら、すでに明らかになった内閣府からの求めに加え、

首相補佐官も「総理」の名を直接あげて、

文科省に働きかけていたことになる。

 証言は、国家戦略特区という政権の目玉政策に

公私混同があった疑いを抱かせる。

国政への信頼がいっそう

揺らいでいることを政権は自覚すべきだ。

 信じられないのは、

事実関係を調査し、

国民に対して説明する
姿勢が

首相らに

まったく見られないことだ。

 菅官房長官は記者会見で政府として調査はしないとし、

「前川さんが勝手に言っていることに、いちいち政府として答えることはない」

と突き放した。

 首相は国会で

「改革を進めていくうえでは常に抵抗勢力がある。

抵抗勢力に屈せずにしっかりと改革を前に進めていくことが大切だ」

と述べた。

 だが今回、問われているのは

特区で獣医学部新設を認めることの是非ではない。

トップダウンで

規制に

風穴を開ける特区である以上、

首相が指導力を発揮すること自体は当然あろう。

 問題は

その手続きが

公平、公正で透明であるかどうかだ。

 行政府として当然の

責務を

安倍政権は

軽んじている。

そう思わざるをえない
証言や文書が

これだけ明らかになっている。

 特区であれ、通常の政策であれ、

行政府として、それを進める手続きが妥当であると

国民や国会から納得が

えられるようなものでなくてはならない。

 なのに首相は自ら

調べようとせず、

「私が知り合いだから頼むと言ったことは一度もない。

そうではないというなら証明してほしい」

と野党に立証責任を

転嫁する

ような発言をした。

考え違いもはなはだしい。

 政府が説明責任を

果たさないなら、

国会が事実究明の役割を担う必要がある。

前川氏はじめ関係者の

国会招致が不可欠だ。

 自民党の竹下亘国会対策委員長が前川氏の証人喚問について

「政治の本質になんの関係もない」

と拒んでいることは、

まったく同意できない。

 問われているのは、

政治が

信頼に足るかどうかだ。

それは政治の本質に

かかわらないのか。

(05/31 05:00)