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●森友に続き、加計問題でも「知らぬ存ぜぬ」
“前川砲”潰す安倍政権の卑劣

〈週刊朝日〉
AERA dot.
 [5/31 07:00]

記者会見を開いた前川氏
(c)朝日新聞社

安倍晋三首相の
「腹心の友」が理事長を務める
加計学園の獣医学部新設が

「総理のご意向」で進められたことを示す

文部科学省の内部文書はやはり「本物」だった。

文科省の前川喜平・前事務次官が5月25日に会見し、

安倍政権に反旗を翻した。


官邸の「知らぬ存ぜぬ」は卑劣ではないのか?

「安倍首相は森友・加計疑惑が長引いていることを

『うっとうしい』と周辺に漏らしていた。

与党国対には追及逃れのため

『今国会の大規模延長はせず、都議選前までの小幅延長で乗り切れ』

と指示を出している。

本格的な対応はサミット後に練るが、予想以上に早い展開だ」
(官邸関係者)

そればかりか、早くも

強引な“前川封じ”の

動きがあるという情報もある。

「菅義偉官房長官らは
前川氏に激怒している。

間接的だが官邸から法務省と最高検を通じて地検特捜部に

『天下りのあっせんなどいろいろスキャンダルがあるので、立件を視野に調べろ』

と示唆があったとか。

立件は難しくブラフの意味合いが強いと思うが、

政権寄りのメディアは

動くでしょうからね」
(法務省関係者)

それほど、前川氏による

告発は重かった。

会見で国家戦略特区制度での獣医学部の新設について

「総理のご意向だ」
「官邸の最高レベルが言っていること」

などと書かれた文科省の内部文書について

「私が在籍中に共有していた文書。

確実に存在していた。

あったことをなかったことにはできない」

と、語気を強めて本物だと証言。

文科省の内部調査では資料を

「確認できなかった」としたが、

前川氏は

「見つけるつもりがあれば、

すぐに見つかるもの」

と異論を唱えたのだ。

また、特区認定の手続きについて

「最終的に内閣府に押し切られた」

と、内閣府の

“ゴリ押し”があったと主張。

その上で、国会の証人喚問について

「あれば参ります」と
言い切った。

だが、政府は黙殺するつもりだ。

元上司の松野博一文科相は

「辞職した民間人の発言についてコメントする立場にない」。

「文書は怪文書のようなもの」と主張していた菅官房長官は

前川氏が1月に文科省の天下り問題の責任をとって辞任した経緯について

「当初は自ら辞める意向を全く示さず、地位に恋々としがみついた」

と、露骨な“人格攻撃”で応じたのだ。

野党が要求した前川氏の証人喚問を、

自民党は拒否した。

だが、資料の真贋は官僚の

目には明らかだ。

文科省幹部はこう語る。

「文書は誰が見ても

文科省で作成したもので、

もう認めて楽にさせてくれ、

官邸と内閣府が責任をとれというのが本音。

前川会見に『今さら何を』という声もあるが、

省内の大半は

言い分には納得している。

獣医学部新設に反対してきた文科省としては、

今回の経緯はすべてを
否定されたようなもの。

『強引すぎる』という声は当時からあった」

内閣府幹部もこう語る。

「文書は本物でしょうね。

審議官クラスは官邸の首相秘書官や事務方から、

よく直接電話を受けます。

『総理、官房長官はこういう方向でやってほしいとお考えだ』

という言い方はよくあり、

特殊なケースはメモにして共有します。

今回のように

『総理のご意向』と書いてあるのは、

よほど強く言われたんでしょう」

文書では内閣府の藤原豊審議官が文科官僚に対し、

<官邸の最高レベルが言っていること>などと、

「圧力」ととれる文言を使ったと

記録されている。

前川氏は会見の中で

「官邸の最高レベル」の意味について、

「一番上であれば総理だし、

その次であれば官房長官でしょうから、

お二方のどちらかのことかなと思った」

と答えている。

実際に総理や官房長官の指示があったのだろうか。

発言の主とされる藤原審議官は、

経済産業省からの出向組。

経産省関係者がこう語る。

「藤原氏は経産省の中では規制緩和などを主張する『改革派』で、

今の省内では少数派です。

派手な政策を打ち出すタイプで、

ある意味、軽いノリ。

有力官庁の経産省は

文科省を下に見ているため、

居丈高な物言いになったのでは。

審議官が直接、総理や官房長官と話す機会は

まずないが、

同じ経産省出身の今井尚哉首相秘書官などを通して聞いた話を

文科省に伝えていたと考えると辻褄が合う」

ところで、渦中の前川氏とは、どんな人物なのか。

前川氏を知る総務省官僚は、

「まともな人ですよ。

話はおもしろいし、企業の御曹司なのに全然ひけらかさない。

記者会見を見てビックリした」

と語る。

前川氏は産業用冷凍機メーカー・前川製作所の創業者一族出身。

妹は中曽根弘文元外相の妻という「華麗なる一族」だ。

東大法学部卒業後、1979年に旧文部省に入省。

初等中等教育企画課長だった2005年には

自身のブログ「奇兵隊、前へ!」で、

当時の小泉純一郎政権下で検討された公立小中学校への国庫負担金の削減を

真っ向から批判するなど、

率直な物言いで注目を集めた。

前川氏の入省当時から親交があるという元文科官僚の寺脇研氏がこう語る。

「入省時から将来の次官候補と言われていた。

仕事もできて人柄も良い。

派閥もつくらず省内で幅広く慕われた。

小泉改革を批判したときも

今と似た構図で、

教育の専門家が一人もいない当時の経済財政諮問会議で、

義務教育への予算削減が決められることに

辞職覚悟で抗議した。

公正さを重んじる性格です」

内閣人事局の設置(14年)により官僚の人事権を
官邸が掌握した現在と違い、

当時は官僚の人事は官僚が決めていた時代。

前川氏はその後も順調に出世を重ね、

初等中等教育局長などを経て16年6月に事務次官に上り詰めた。

だが、今年1月に発覚した文科省の天下り問題で責任を問われ、わずか半年で辞任。

元経産省の古賀茂明氏は、こうした経緯も

今回の行動に影響したのではないかと推測する。

「経産省など有力省庁は実際もっと

おいしい天下りをしているのに、

安倍政権には文科省だけが

『悪の巣窟だから退治してやる』というように
扱われた。

『政治主導』の演出に
利用された不満が

省内にたまっていたはず。

前川氏も今回の行動で
再就職などが難しくなるわけで、

相当な覚悟でしょう。

いわば忠臣蔵の
浅野内匠頭です。

前川氏を慕う現職職員は今も多く、

これから内部告発が続けば

さらに大きな展開になるでしょう」

前川氏に続く
「四十七士」は現れるのか。

だが、前川氏の会見直後に行われた民進党によるヒアリングでは、

文科省側は資料の存在について

「関係者に確認したところ、確認できなかったという結果が出ましたので、
その点についてはそういうことです」
(串田俊巳大臣官房総務課長)

などと、これまでと同じ答えを

繰り返すばかり。

元トップの捨て身の訴えは

黙殺された。

官僚たちは

なぜ口をつぐむのか。

前述のとおり官邸に人事権を握られているという事情はあるが、

今回はそれ以上の「闇」を感じさせる出来事があった。

読売新聞は22日、前川氏が文科省時代に東京・歌舞伎町の「出会い系バー」に通っていたという

“スキャンダル”を突如として報じた。

少し前から文科省の内部文書のネタ元が前川氏ではないかといううわさが飛び交っていたため、

政府筋による“意趣返し”のリークがあったのではないかという観測が広がった。

この報道について前川氏は

25日の会見で、店に行ったことは認めながらも、

女性や子供の貧困について話を聞くのが目的だったと説明。

「極めて個人的な行動をどうしてあの時点で報じたのか、

私にはまったくわかりません」

と語った。

また、前川氏は昨年9月ごろ、杉田和博官房副長官から

「こういうところに出入りしているそうじゃないか」

と注意されたと明かした。

杉田氏は警察庁出身で、

危機管理のプロとして官邸の信頼が厚い人物。

どういう手段で情報を得たのか、

勤務時間外の

官僚の行動まで把握していたことになる。

前出の内閣府幹部が語る。

「怖いよね。

変なところに飲みに行けない。

杉田さんは最近は人事だけでなく、

審議会の委員の人選にまで

口を挟んでくる。

菅官房長官の威光をカサに着てくるが、

本当に菅さんの意向か、

杉田さんの忖度か、

こっちは確認しようもない」

官邸に

プライベートまで

監視され、

官僚たちは

身動きを封じられているのだ。

前川氏が「総理のご意向」などの内部文書を

部下から示されたのは昨年9~10月ごろ。

ちょうどこのころから

獣医学部新設は実現へ急ピッチで進んでいく。

「それ以前は文科省や農林水産省、自民党獣医師問題議連会長の麻生太郎氏、前担当大臣の石破茂氏などの

反対に遭い、

難航していた。

愛媛県と今治市は国家戦略特区で獣医学部の新設が認められる以前、

小泉内閣時代に始まった構造改革特区に

獣医学部新設を

15回にわたって

提案したが、

全部、蹴られていました」
(自民党中堅議員)
(本誌・小泉耕平、村上新太郎、大塚淳史/今西憲之)

※ 週刊朝日
2017年6月9日号