民法772条と民法733条の 80日が重なる点については、民法を改正すべき、という今回、裁判所の判断です。

つまり、民法733条の女性の再婚禁止期間の6箇月(180日)は、

民法772条と照らし合わせて、80日の重なる部分があるため、

再婚禁止期間を100日とすべき、という判断です。


(記事中の「722条」は、「772条」の間違いですから、私(ロクハン)が書き直しました)



●Yahoo!ニュース
●「女性のみに再婚制限」違憲判決は当然?
「子供の親を推定する」とは何か?論理と問題点

Business Journal
[12/16 22:20]

最高裁判所(「Wikipedia」より)

12月16日、最高裁判所は 15人の最高裁判所裁判官全員で構成する大法廷における弁論期日を開き、

夫婦同姓を規定する民法 750条の規定については合憲、

女性にのみ再婚禁止期間を設ける民法733条は違憲、
との判断を行いました。

●夫婦別姓はなぜ合憲か

まず、民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、

夫又は妻の氏を称する」として、夫婦「同姓」を規定しています。

ちなみに、ここでいう「定めるところに従い」とは、

戸籍法74条の「婚姻をしようとする者は、夫婦が称する氏を届書に記載する」旨の規定を指しています。

このように、結婚する男女は、

結婚する際に夫か妻どちらかの姓を届け出て「同姓」を名乗ることとなります。

したがって、職場での取引先との関係や、同僚、上司との関係からそれまでの姓を事実上使い続けるといった、

いわゆる「通称」と異なり、法的にはどちらかの姓を名乗らなければなりません。

今回、法的な夫婦「別姓」を認めていない民法や戸籍法の規定が、

夫も妻も「個人として尊重される」と規定する憲法13条や、

結婚に関する平等などを規定する憲法14条1項、24条2項などに違反するのではないか、ということが争われたようです。

この点、最高裁判所は
「夫婦別姓を認めない民法の規定は合憲」としたようですが、

結論からいうと、夫婦の「別姓」を認めるのが良いことかどうかは別として、

最高裁判所の判断としては

予想通りの判決と考えることができます。

なぜなら、形式的には「日本という国における家族制度のあり方」については、

裁判所、すなわち司法府が決めることではなく、

あくまで国民の代表である国会、すなわち立法府が

決めるべきことだからです。

そもそも、今回の裁判は富山県在住の方などが

「夫婦の別姓を認める法律を制定(改正)しない国のせいで精神的な損害を被った」

ことを理由として始めたものですが、

夫婦がどういう姓を名乗るかといった「家族制度」のプランニングは、

選挙で選ばれたわけではない裁判官ではなく、

政策やマニュフェストを掲げて選挙で選ばれた国民の代表である国会が、

国民の意見をしっかりと聞きながら決めるべきで、
一つの裁判だけで決められるような事柄ではないからです。

実質的にも、内閣府が平成24年12月に行った世論調査では、

「夫婦の『別姓』を認める必要はない」旨の意見が36.4%、

「希望すれば夫婦の『別姓』が認められるような法律に改正してもよい」旨の意見が35.5%、

「通称をどこでも使えるような法律に改正してもよい」旨の意見が24.0%

です。


このように、決して夫婦「別姓」を認めることが国民的な意見として

集約されているわけではありません。

夫婦の「別姓」について賛成の国民も反対の国民も

同じくらい存在する以上、

今回の裁判を始めた富山県在住の方などと15人の最高裁判所裁判官だけで、

「夫婦の『別姓』を認めない法律は違憲である。
したがって、『別姓』を認める新しい法律を制定(改正)せよ」

などと、国会をさしおいて

判断することは、到底許されないわけです。


●女性のみの再婚禁止期間はなぜ違憲か

次に、最高裁判所が

「女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、

再婚をすることができない(再婚禁止期間)」

と規定する民法733条1項を違憲と判断したことについてですが、

このことも民法の規定をしっかりと科学的に理解してみれば当然なのかもしれません。

今回、岡山県の女性の方は、「再婚禁止期間を撤廃しない国のせいで精神的な損害を被った」ことを理由に、

女性にのみ再婚禁止期間を設ける民法733条1項は男女の平等を規定する憲法14条、24条2項に

違反するとして裁判を始めたわけですが、

この民法733条1項の前に、まず

「嫡出の推定(民法772条)」について理解する必要があります。

民法772条2項は、

「婚姻の成立の日から200日を経過した後

又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、

婚姻中に懐胎したものと推定する」

と規定しています。

要するに、分娩により自分の子であると認識することができる妻と違い、

夫の場合、どんなに信頼関係があっても

「自分の子」と確証することが難しい状況にあることは、

最近、ニュースになった大沢樹生氏と喜多嶋舞氏の“長男騒動”や、

福山雅治氏主演の映画『そして父になる』などで有名な話です。

そこで法律は、まず

「結婚中に妊娠した子は夫の子と推定する
(民法772条1項)」とした上で、

平均的な妊娠期間(約280日)と、

世の中のカップルが「付き合って結婚して妊娠が発覚するまで」の平均的な期間などを踏まえて、

さらに生物学的な観点から、

・結婚してから201日以降に生まれた子

・離婚してから300日以内に生まれた子

は、その結婚した(離婚した)夫の子と推定することとしました
(民法772条2項)。

こうすることによって、「誰の子か?」という無用な争いを防止することにしたわけです。


●不都合な事態を回避

ところで、「推定」とは、

ある事実(A)があった場合、
別の事実(C)が証明されない限り

事実(B)を真実とする、

といったように使われます。

上記の例でいえば、

「結婚してから200日以降に生まれた」という
事実(A)があった場合、

DNA鑑定などで「夫は父ではない」という
事実(C)が証明されない限り、

「夫の子」という事実(B)が

真実であるとされます。

ここで、推定される事実が2つも3つもあると困ったことになってしまいます。

例えば、ある女性がXとの離婚と同時に

Yと再婚したとします。

この場合、

「離婚してから300日以内に生まれた子」はXの子と推定されますが、

「結婚してから201日以降に生まれた子」はYの子と推定されるので、

Xと離婚(直後にYと再婚)してから201日目~300日以内に生まれた子は、

XとY、両方の子と推定されてしまい、

XもYも生まれた子を自分の子として

自分の籍に入籍できることに

なるなど、トンデモないことになります。

そこで、民法733条1項は

「女性は、離婚してから 6カ月(180日)間は「再婚できない」こととして、

このような不都合な事態が発生するのを避けることとしました。


しかし、よく考えると

「Xと離婚してから101日以降にYと再婚」すれば、
Xとの離婚から300日以内に生まれた子はXの子、

Yとの再婚から201日目
(Xとの離婚から301日)以降に生まれた子はYの子となり、

「推定」が重なることはありません。

とすると、

「再婚できない」期間は、

「6カ月(180日)」ではなく、

「100日」で十分ということになります。

岡山県の女性の方はこの点を指摘し、

さらには、DNA鑑定が発達していること、

ドイツなどでは再婚禁止期間が撤廃されていること、

日本でも平成8年に法制審議会が

再婚制限期間を100日にする改正案を挙げていたこと、

さらに、そもそも

「再婚後に生まれた子は全て再婚した夫の子と推定する」

といった法律にすれば足りる、

などを主張してきたわけです。


今回、最高裁は

「100日を超える再婚禁止規定は違憲」

としたようですが、

夫婦の「別姓」を認めるかどうかといった

「日本という国における家族制度のあり方」が

どうあるべきかという話と

異なり、

「女性のみの再婚禁止期間」について法律が

必要以上に

制限してしまっていたことが明白であった以上、

国民の意見を確認するまでもなく

違憲と判断したことは、

当然といえます。


今後のことですが、おそらく国会は

「結婚している女性(妻)との間の子で、

結婚していない女性との間の子とで

相続割合が違うのは違憲である」

と判断した平成25年の最高裁判決の時と同じように、

今回の最高裁判決を十分に尊重し、

法改正に向けた動きを始めることと思われます。


●付記

結婚や家族のあり方、

ひいては男女の関係は

時代によってさまざまな考え方が生まれ、

議論され、時にはそれがルール化・法制化され、

その結果、次の新しい考え方による時代が来るまでの間、

普遍的な「制度」となっていきます。

先般、東京都世田谷区が同姓のカップルへのパートナーシップ証明書を発行したといったニュースや、

どこかの議員が同性愛は異常だなどとツイートして炎上した事件などがありましたが、

こういう問題も今の方向性が進むのであれば、

いずれは普遍化していくのかもしれません。

しかしそうであっても

今度は、近親婚がどうのこうの、

16歳以下の女性との結婚や恋愛がどうのこうの

(現在は、
男性は18歳、女性は16歳にならないと結婚できません)、

霊長類との結婚や恋愛がどうのこうの、

とった議論も出てくるのでしょうか。

このこと自体への筆者としての意見は控えますが、

何か廃頽を感じずにはいられません。

(文=山岸純/弁護士法人
AVANCE LEGAL GROUP・パートナー弁護士)