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●食品の消費税率、先進国中で最も高い…

偽りの軽減税率、まったく「軽減」ではない

Business Journal
 [12/16 07:00]

主要国の付加価値税の概要(「財務省 HP」より)

3カ月に及ぶすったもんだの末、ようやく先週末(12月12日)、

自民党が公明党の主張を丸呑みするかたちで、

再来年4月に税率を10%に引き上げる消費増税の際に

税率を8%に据え置く軽減税率の導入案がまとまった。

とはいえ、その中身は問題の先送りと

羊頭狗肉の“軽減”で、

両党が貴重な時間を

建設的な議論に使ったとは言い難い。

両党が真っ向から対立した対象品目については

「酒と外食を除く食品全般」で決着したものの、

約1兆円が必要とされる財源は

「16年度末までに安定的な恒久財源を確保する」と議論を先送り。

脱税の防止に不可欠なインボイス(税率や税額を記載した税額票)導入に至っては、

実施そのものを軽減税率導入から

4年も先送ることになった。

さらに、今回、両党が議論の俎上にさえ載せなかった課題も山積みだ。

特に、先進7カ国(G7)の食品軽減税率のなかで

最も高い税率(8%)の引き下げと、

電気、ガス、水道、医薬品といった

生活必需品への対象品目の拡大は急務である。

●混乱した協議

自民党の税制調査会といえば、

かつては長老議員の牙城で、

時の首相をはじめ何人も容易に介入できないサンクチュアリ(聖域)として知られていた。

その党税調が今回ほど当事者能力を発揮できなかった例も珍しいだろう。

発端は9月。

まだ国民の手元に通知書も届いていなかったマイナンバーを利用して、

国民の経済活動をすべて把握するという

財務省作成の軽減税率導入案を打ち出したことだ。

自民党総裁選で勝利し内閣改造を終えた安倍政権は、

マイナンバーを利用する限定的な軽減税率導入案を打ち出した野田毅・自民党税調会長を事実上、更迭。

マイナンバー案を葬り去ると共に、

新聞各紙から「軽量級」と評されることになる宮沢洋一・前経済産業大臣を後任に据えた。

そして、菅義偉官房長官が

「与党の連立合意がある。

約束していることは政権としてしっかり進めていきたい」

と公明党との連携を打ち出した。

その後、自民党側の主導権は財政再建優先派の谷垣禎一幹事長に移り、

同幹事長は4000億円が財源から見た予算の上限だとして、

対象を「生鮮食品」に絞り込み、

8200億円を必要とする「飲料・菓子を除く加工食品」という

公明党案を排除しようとすると、

菅長官が「首相が具体的な数字まで指示したとは承知していない」などと発言、

公明党を側面支援した。

この背景には、参院選を来夏に控えて、

公明党との連携関係に水を差したくないとの意向が働いていたとされる。
意地をみせようとしたのだろう。

協議の大詰めで、谷垣氏は1兆3000億円の財源が必要になる

「外食を含む飲食品」まで対象を広げる案を持ち出し、

協議を混乱に陥れた。

しかし、そんな財源を用意することはできず、

公明党の要求を丸呑みする導入案がまとまった。


とはいえ、この導入案には問題が多い。

ファストフードのテイクアウトなどを軽減税率の対象となる加工食品とみなすか、

対象外の外食とみなすか

といった線引きが決着していないからだ。

安定的な財源の確保は大きな課題だし、

4年もの間インボイスなしで

脱税の横行を防げるかも疑問視されている。

逆に、インボイスを導入して年間売上高1000万円以下の事業者に認められている

消費税の納税義務免除(益税)を廃止すれば、

年間5000億円程度の税収を確保できるとの試算もあるが、

現状では絵に描いた餅状態である。


●食品に先進国一高い税金

そもそも、軽減税率という名称も首をかしげたくなる。

なぜなら、今回の話は消費税の標準税率を10%に上げるのに際して



一部の食品の税率を据え置くというもので、



何も新たに軽減するというものではないからだ。



正確さにこだわれば、

「据え置き税率」とでも称すべき話であり、

軽減税率では

羊頭狗肉といわれかねない。

両党が導入案をまとめる過程では議論の俎上に上がらなかったが、

以前にも本コラム

(10月28日付『消費税軽減税率、「骨抜き」の公算

国民負担軽減は限定的、一部企業の「益税」放置か』)

で書いたように、

次回の増税分の

2%

しか

軽減税率で

軽減しないとしたことは、

とても

容認できない

議論でもある。


G7諸国と比較すると、

食品の税率は

ドイツ7%、
フランス5.5%、
イタリア4%、
英国、米国(ニューヨーク市)、カナダ(オンタリオ州)各0%に

対して、日本は8%と

最高水準になる。

人間が生きていくのに不可欠な

食品に

先進国一高い税金を

課すような

国づくりを、

日本国民は求めているだろうか。

消費税は所得の多い人に高い税率を適用する累進性のある所得税と違い、

対象の商品が同じならば

所得水準に関係なく同じ税率を適用するため、

低所得者に

厳しい税金である。

軽減税率を

誰もが必ず負担せざるを得ない品目に

幅広く適用することは、

この累進性に

逆行する消費税の

構造的な

欠陥を補う効果がある。

それゆえ、

食品に加えて、

電気、ガス、水道、医薬品なども

軽減税率の適用対象にすることが必要なのだ。


そのための財源は、

例えば消費税の標準税率を引き上げて賄うことが可能である。

政府、連立与党には、

もっと現実的

かつ血の通った

消費税のあり方を

検討してもらいたい。

一刻も早く仕切り直しが必要だ。

(文=町田徹/経済ジャーナリスト)