●天声人語
●(天声人語)
大学授業料と教育格差

12月13日 05:05

 いかにも愚問であった。

北欧フィンランドで大企業を辞めて会社を起こした人への取材中。

子どもが10人いるというので、

「事業に失敗したら教育費はどうしよう、と心配になりませんか」

とたずねた。

向こうはきょとんとしている。

▼かの国では教育は大学まですべて無料、

大学生の生活費まで出るのだ。

出産の時には

「育児小包」なる箱が届いて、

肌着から防寒着までそろう。

子どもは社会で面倒を見るとの考え方が確立している。

▼そんな話を思い出したのは、

国立大学の授業料が16年後に年93万円まで値上がりするかも、

との試算を紙面で読んだからだ。

20万円もしなかった1980年代初めは遠い昔。

北欧の高い税負担を割り引いても、

彼我の差にため息が出る。

▼我が国で所得格差が

教育格差に転じていると言われて久しい。

4年制大学の進学率は

親の年収が1千万円を超えると62%なのに、

400万円以下では31%にとどまるとの調査もある。

私立中学や塾に行かせられるか否かも大きいのだろう。

▼「教育を受ければ、もっと社会に貢献できる子がいる。

もったいなくないでしょうか」と、

NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんは言う。

高校や大学の受験に向けて学習支援をしているのはそのためだ。

学生や社会人がボランティアで教える。

▼日本でも、子どもたちへの「小包」が要る。

詰めるのは、学ぶ場、困難を抱える親への支援、無償の奨学金などか。

もちろん、お金はかかる。

でも、そんなバラマキなら悪くない。

■朝日新聞社