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●政府と電力会社が隠したい、電力供給の「余裕」…原発は不要?忌み嫌ってきた太陽光の貢献
Business Journal
[8/19 06:03]
東京電力本社(「Wikipedia」より)
電力各社は決して話したがらないが、
東日本大震災以来、突発的な大停電のリスクに怯えながら、
廃止したはずの老朽火力発電所を戦線復帰させて酷使、
なんとか電力需要のピークを乗り切った昨年までとは
打って変わって、今夏の電力需給には
大きな余裕が生まれている。
もし、その理由が九州電力の川内原子力発電所の再稼働にあると思われるなら、
それは大きな間違いだ。
というのは、電力需給が安定した最大の理由は、
「天候に大きく左右されて不安定な電源」と電力各社が買い取りを
忌み嫌ってきた太陽光発電が、
各地で本格稼働し始めたことにあるからである。
だが、我々消費者は、これで酷暑の中での節電から解放されると手放しに喜ぶわけにはいかない。
「再生可能エネルギー発電促進賦課金」の増額によって
電気料金が一段と高騰するなど、家計圧迫要因が山積みだからだ。
●需給状況に異変
東日本大震災から5度目の夏となった今夏、すっかり注目されなくなってしまったが、
電力各社が毎日ホームページで公開している「でんき予報」で丹念に電気の需給状況をみていくと、
ちょっとした異変が起きている。
突然、電力会社の供給力に大きな余裕が生まれただけでなく、
不思議なことに、気温が上がりエアコンをフル稼働する14時頃とされていた夏の需要のピークが、
18時や19時といった夕暮れ間近の時間帯にシフトしている日が目立つのだ。
例えば、関東を本拠地とする東京電力の8月前半
(1日~15日)のでんき予報をみると、
昨年と同様に、大規模停電を誘発しかねない
「非常に厳しい(使用率97%以上)」や
それに次ぐ「厳しい(95%以上)」に
達した日は1回もない。
さらに、昨年は4回あった「やや厳しい(90%以上95%未満)」も
1回(8月6日)だけだ。
電力需要がピークを迎えた時間帯も9日、13日、15日が
「19時から20時」、14日が「18時から19時」と
陽が落ちる遅い時間帯になっている。
多少の差はあれ、こうした傾向は、全国の電力会社に共通している。
原子力発電への依存度が最も高かったことから需給がひっ迫するとしていた関西電力の場合、
15日間すべて90%未満で、
「厳しい」や「やや厳しい」は1回もない。
そして、電力使用のピークは、2日、9日、13日、 14日、15日が
「19時から20時」とやはり夕方にシフトしている。
8月14日に発送電を再開した川内原発の再稼働まで、電力需給のひっ迫が懸念されていた
九州電力も、
実は東京電力や関西電力と似たり寄ったりだ。
電力使用率は15日間すべて90%未満。
使用のピーク時間帯は2日、9日、13日、14日、15日の5日間で
「19時から20時」となっている。
こうした傾向は、東日本大震災の後遺症に悩まされた昨年や一昨年とは様変わりだ。
昨年や一昨年は、各社がすでに廃止処分にしていた石炭、石油などの火力発電所を戦線に復帰させて、
老朽発電所ならではのトラブルに神経を尖らせながら安定供給に躍起になっていた。
それでも発電所のトラブルが続発し、あわや大停電という状況が何度かあったのだ。
さらに、問題なのは、政府の「電力需給に関する検討会合」が
5月に「2015年度夏季の電力需給対策」を決定した際に想定していたのと
正反対というべき状況になったことだろう。
というのは、政府は、
「関西電力及び九州電力は単独で予備率3%以上を確保できず(それぞれ0.8%、▲3.3%)、
他社からの受電により、何とか予備率3%以上を確保」と想定していたからだ。
政府の問題は、
その想定に基づいて、「(各方面に)『数値目標を伴わない』節電の協力を要請する」などと、
イソップ物語のオオカミ少年並みに
いい加減な警鐘を鳴らしたことだけではない。
各電力会社への「発電所の保守・保全の強化」の要請を行ったほか、
あろうことか
「自家発電設備の活用を図るため、
中西日本において設備の増強等を行う事業者に対して補助を行う」
として、
予算バラマキの根拠に挙げていたのである。
●政府・経産省の
過少見積もり
それにしても、そもそも政府・経済産業省は
なぜ、こんな杜撰な見積もりをしたのだろうか。
同省が所管している「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」の施行状況をみていれば、
あり得ないような読み違いだ。
FITの対象になる太陽光発電や風力発電の出力は今年4月に2011万キロワットと
この1年間で倍増していたのである。
しかも、このうちの95%を太陽光発電が占めている。
ところが、「2015年度夏季の電力需給対策」の決定を伝える5月22日付の日本経済新聞電子版の記事は、
政府が太陽光発電の容量を
「今夏は原子力発電所5基分に相当する510万キロワットを見込んでおり、太陽光で需要の3%を賄う」
と報じていた。
政府・経済産業省の
過少見積もりは
明らかなのである。
ここからは推測だが、
経済産業省は、長年、
「太陽光発電は陽の出ている昼間しか稼働しない。
天候にも左右されるので、安定しない電源だ」
と主張してきた電力会社の言い分を
鵜呑みにして、その稼働率を
低く見積もり、需要の3%しか賄えないと想定したとみられる。
だが、年間の供給計画などと違い、
夏の需給対策を作成する場合、
太陽光発電の稼働率を
低く見積もるのは
間違いのもとだ。
なぜならば、
灼熱の太陽が照り付けて温度が上昇する夏の日の午後は、
電力需要がピークになると同時に、
太陽光発電の供給力もピークになるからだ。
前述の東京電力、関西電力、九州電力のでんき予報を見ても、
そのことは明らか。
今夏は、自社で発電できる電力を温存し、
新規参入事業者が太陽光で発電した電力を買い取って供給したから、
以前のように使用率が上昇せず、需給のひっ迫を回避できたのである。
そして、太陽光発電の稼働率が下がる夕方になって自社設備の稼働率を上げたから、
供給のピーク時間帯が夕方にシフトする現象が起きたのだ。
電力会社の言い分を鵜呑みにして、
過酷な節電を企業や国民に強いたうえ、
血税を補助金でばら撒こうとしたのだとすれば、
政府・経済産業省には
きっちりと責任をとってもらうべきだろう。
見積もりがいい加減なのは、
新国立競技場計画だけではない。
●高騰する電気料金
ただし、我々消費者は、節電の心配がなくなったからといって、
電気を無駄遣いするのは危険である。
全国民が使用電力に応じて負担義務を負っている FITの再生可能エネルギー発電促進賦課金が、
1年前は300キロワット使用で月額225円だったものが、
今年度470円に跳ね上がっており、
月々の電気料金を押し上げているのだ。
しかも、稼働が本格化したとはいえ、FIT電源として認定を受けた電源の運転開始は
今年4月段階でまだ23%と全体の4分の1以下に過ぎない。
今後、残りが稼働すれば、単純計算で、1世帯当たり
年間2万2560円程度の再生エネルギー発電促進賦課金が必要になり、
これが各家庭の電気代に上乗せされる。
そんななかで、無駄遣いしていれば、
電気代が家計を圧迫することを肝に銘じておく必要がある。
今夏、FITの賦課金などでべらぼうな発電コストを負担させられるとはいえ、
太陽光発電で思わぬピーク電源を確保でき、
ようやく電気が足りないという最悪の事態のリスクが解消に近づいた。
こうなれば、新たな、そして最大の課題は、電力コストの引き下げだ。
昭和30年代から政府や電力会社が低コストと宣伝し続けてきた原発は、
福島第一原発事故の損害賠償や安全対策、使用済み燃料の中間貯蔵・最終処分などの
コストを勘案すれば、
それほど低コストか疑問が残る。
再稼働して
採算のとれる
原発は意外なほど少ないだろう。
だとすれば、
現状で最もコストの低い
石炭火力発電へのリプレースを加速しつつ、
地球規模の課題である温暖化ガスの排出削減を両立することこそ急務のはずだ。
政府は
無責任としか
言いようのない
いい加減な見積もりをやめて、
真摯に取り組むべきだろう。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)
●政府と電力会社が隠したい、電力供給の「余裕」…原発は不要?忌み嫌ってきた太陽光の貢献
Business Journal
[8/19 06:03]
東京電力本社(「Wikipedia」より)
電力各社は決して話したがらないが、
東日本大震災以来、突発的な大停電のリスクに怯えながら、
廃止したはずの老朽火力発電所を戦線復帰させて酷使、
なんとか電力需要のピークを乗り切った昨年までとは
打って変わって、今夏の電力需給には
大きな余裕が生まれている。
もし、その理由が九州電力の川内原子力発電所の再稼働にあると思われるなら、
それは大きな間違いだ。
というのは、電力需給が安定した最大の理由は、
「天候に大きく左右されて不安定な電源」と電力各社が買い取りを
忌み嫌ってきた太陽光発電が、
各地で本格稼働し始めたことにあるからである。
だが、我々消費者は、これで酷暑の中での節電から解放されると手放しに喜ぶわけにはいかない。
「再生可能エネルギー発電促進賦課金」の増額によって
電気料金が一段と高騰するなど、家計圧迫要因が山積みだからだ。
●需給状況に異変
東日本大震災から5度目の夏となった今夏、すっかり注目されなくなってしまったが、
電力各社が毎日ホームページで公開している「でんき予報」で丹念に電気の需給状況をみていくと、
ちょっとした異変が起きている。
突然、電力会社の供給力に大きな余裕が生まれただけでなく、
不思議なことに、気温が上がりエアコンをフル稼働する14時頃とされていた夏の需要のピークが、
18時や19時といった夕暮れ間近の時間帯にシフトしている日が目立つのだ。
例えば、関東を本拠地とする東京電力の8月前半
(1日~15日)のでんき予報をみると、
昨年と同様に、大規模停電を誘発しかねない
「非常に厳しい(使用率97%以上)」や
それに次ぐ「厳しい(95%以上)」に
達した日は1回もない。
さらに、昨年は4回あった「やや厳しい(90%以上95%未満)」も
1回(8月6日)だけだ。
電力需要がピークを迎えた時間帯も9日、13日、15日が
「19時から20時」、14日が「18時から19時」と
陽が落ちる遅い時間帯になっている。
多少の差はあれ、こうした傾向は、全国の電力会社に共通している。
原子力発電への依存度が最も高かったことから需給がひっ迫するとしていた関西電力の場合、
15日間すべて90%未満で、
「厳しい」や「やや厳しい」は1回もない。
そして、電力使用のピークは、2日、9日、13日、 14日、15日が
「19時から20時」とやはり夕方にシフトしている。
8月14日に発送電を再開した川内原発の再稼働まで、電力需給のひっ迫が懸念されていた
九州電力も、
実は東京電力や関西電力と似たり寄ったりだ。
電力使用率は15日間すべて90%未満。
使用のピーク時間帯は2日、9日、13日、14日、15日の5日間で
「19時から20時」となっている。
こうした傾向は、東日本大震災の後遺症に悩まされた昨年や一昨年とは様変わりだ。
昨年や一昨年は、各社がすでに廃止処分にしていた石炭、石油などの火力発電所を戦線に復帰させて、
老朽発電所ならではのトラブルに神経を尖らせながら安定供給に躍起になっていた。
それでも発電所のトラブルが続発し、あわや大停電という状況が何度かあったのだ。
さらに、問題なのは、政府の「電力需給に関する検討会合」が
5月に「2015年度夏季の電力需給対策」を決定した際に想定していたのと
正反対というべき状況になったことだろう。
というのは、政府は、
「関西電力及び九州電力は単独で予備率3%以上を確保できず(それぞれ0.8%、▲3.3%)、
他社からの受電により、何とか予備率3%以上を確保」と想定していたからだ。
政府の問題は、
その想定に基づいて、「(各方面に)『数値目標を伴わない』節電の協力を要請する」などと、
イソップ物語のオオカミ少年並みに
いい加減な警鐘を鳴らしたことだけではない。
各電力会社への「発電所の保守・保全の強化」の要請を行ったほか、
あろうことか
「自家発電設備の活用を図るため、
中西日本において設備の増強等を行う事業者に対して補助を行う」
として、
予算バラマキの根拠に挙げていたのである。
●政府・経産省の
過少見積もり
それにしても、そもそも政府・経済産業省は
なぜ、こんな杜撰な見積もりをしたのだろうか。
同省が所管している「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」の施行状況をみていれば、
あり得ないような読み違いだ。
FITの対象になる太陽光発電や風力発電の出力は今年4月に2011万キロワットと
この1年間で倍増していたのである。
しかも、このうちの95%を太陽光発電が占めている。
ところが、「2015年度夏季の電力需給対策」の決定を伝える5月22日付の日本経済新聞電子版の記事は、
政府が太陽光発電の容量を
「今夏は原子力発電所5基分に相当する510万キロワットを見込んでおり、太陽光で需要の3%を賄う」
と報じていた。
政府・経済産業省の
過少見積もりは
明らかなのである。
ここからは推測だが、
経済産業省は、長年、
「太陽光発電は陽の出ている昼間しか稼働しない。
天候にも左右されるので、安定しない電源だ」
と主張してきた電力会社の言い分を
鵜呑みにして、その稼働率を
低く見積もり、需要の3%しか賄えないと想定したとみられる。
だが、年間の供給計画などと違い、
夏の需給対策を作成する場合、
太陽光発電の稼働率を
低く見積もるのは
間違いのもとだ。
なぜならば、
灼熱の太陽が照り付けて温度が上昇する夏の日の午後は、
電力需要がピークになると同時に、
太陽光発電の供給力もピークになるからだ。
前述の東京電力、関西電力、九州電力のでんき予報を見ても、
そのことは明らか。
今夏は、自社で発電できる電力を温存し、
新規参入事業者が太陽光で発電した電力を買い取って供給したから、
以前のように使用率が上昇せず、需給のひっ迫を回避できたのである。
そして、太陽光発電の稼働率が下がる夕方になって自社設備の稼働率を上げたから、
供給のピーク時間帯が夕方にシフトする現象が起きたのだ。
電力会社の言い分を鵜呑みにして、
過酷な節電を企業や国民に強いたうえ、
血税を補助金でばら撒こうとしたのだとすれば、
政府・経済産業省には
きっちりと責任をとってもらうべきだろう。
見積もりがいい加減なのは、
新国立競技場計画だけではない。
●高騰する電気料金
ただし、我々消費者は、節電の心配がなくなったからといって、
電気を無駄遣いするのは危険である。
全国民が使用電力に応じて負担義務を負っている FITの再生可能エネルギー発電促進賦課金が、
1年前は300キロワット使用で月額225円だったものが、
今年度470円に跳ね上がっており、
月々の電気料金を押し上げているのだ。
しかも、稼働が本格化したとはいえ、FIT電源として認定を受けた電源の運転開始は
今年4月段階でまだ23%と全体の4分の1以下に過ぎない。
今後、残りが稼働すれば、単純計算で、1世帯当たり
年間2万2560円程度の再生エネルギー発電促進賦課金が必要になり、
これが各家庭の電気代に上乗せされる。
そんななかで、無駄遣いしていれば、
電気代が家計を圧迫することを肝に銘じておく必要がある。
今夏、FITの賦課金などでべらぼうな発電コストを負担させられるとはいえ、
太陽光発電で思わぬピーク電源を確保でき、
ようやく電気が足りないという最悪の事態のリスクが解消に近づいた。
こうなれば、新たな、そして最大の課題は、電力コストの引き下げだ。
昭和30年代から政府や電力会社が低コストと宣伝し続けてきた原発は、
福島第一原発事故の損害賠償や安全対策、使用済み燃料の中間貯蔵・最終処分などの
コストを勘案すれば、
それほど低コストか疑問が残る。
再稼働して
採算のとれる
原発は意外なほど少ないだろう。
だとすれば、
現状で最もコストの低い
石炭火力発電へのリプレースを加速しつつ、
地球規模の課題である温暖化ガスの排出削減を両立することこそ急務のはずだ。
政府は
無責任としか
言いようのない
いい加減な見積もりをやめて、
真摯に取り組むべきだろう。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)