●「むき出し」のポンプ損傷
 福島第一に人災の影(上)
 
3月30日 11:38
 
 解決への道筋が見えない東京電力福島第一原子力発電所の事故。
 
 想定以上の津波による損傷が原因とされるが、東電関係者からは、
設備の安全設計の問題点や非常時の想定の甘さが被害拡大につながったとの声があがっている。
 
 「安全神話」は足元から崩れた。
 
検証すべき課題は多い。
 
■津波対策「設計に課題」
 
 「設備の安全設計の面で福島第一原発には問題があった」。
 
 元東電社員の原子力技術者はこう証言した。
 
 この技術者が具体的に例を挙げたのは、
原子炉を冷却するための海水をくみ上げるポンプ設備。
 
 津波で、海側にあった設備やその非常用電源などが損傷したため、
原子炉に冷却水を送る機能が失われた。
 
 技術者によると、ポンプ設備にカバーはつけてあるが、
「ほぼむき出しの状態」で設置されていた。
 
これに対し、第一原発の約12キロ南にある福島第二原発(福島県楢葉町、富岡町)では、
ポンプ設備や非常用電源は同じく海側にあるが、屋根のある建屋内に収容されていたという。
 
 東電の原子力関係部門の幹部社員も、
第一原発のポンプ設備の損傷について、
「建屋に入っている第二とは違い、
ポンプが裸で外に出ていたことが大きい」と認めた。
 
 また、技術者は、第一原発のタービン建屋などにつながる配管についても、
「建設当時、配管を土中にじかに埋めるなど、
安全上、もともと雑な部分が多かった」と指摘。
 
 配管をコンクリートで覆うなど改良工事を繰り返してきたが、
「追いつかない部分があり、ポンプ設備はその一例だ」と話した。
 
 第二原発の1~4号機は、
地震で原子炉がすべて自動停止した後、
冷却水を海水で冷やすシステムが正常に働かなくなるなどのトラブルがあったが、
外部電源により冷却機能が作動。
 
 15日までに全炉とも100度以下の「冷温停止」状態となった。
 
 今後、深刻なトラブルが止まらない第一原発に比べ、
第二原発でなぜ大きな被害が出なかったかなどについて、
検証が行われるものとみられる。
 
■第一原発、新指針への対応遅れ
 
 東日本大震災の津波は、
日本原子力発電の東海第二原発(茨城県東海村)も襲ったが、
耐震指針を見直して造った津波対策の防護壁が効果を発揮し、
電源が失われることがなかった。
 
 見直しへの対応が遅れた東電の福島第一原発と比べ、
はっきり明暗が分かれることになった。
 
 日本原電によると、運
転中だった東海第二原発は
地震直後に自動停止し、外部電源も失われたため、
炉心を冷却するための非常用のディーゼル電源が稼働した。
 
 直後に約5メートルの津波が押し寄せ、敷地の一部が浸水。
 
 非常用電源の冷却用に使う海水ポンプのうち、敷地の北側にあったポンプが水没して故障をした。
 
 しかし、敷地の南側にあるポンプが水没しなかったため、
非常用電源は失われず、冷却も続けることができた。
 
 実は、同社は原発の耐震指針が2006年に見直されたことを受けて、
想定される津波の高さを5メートル台に引き上げたばかりだった。
 
 この対策として、元からあった防護壁に加え、非常用電源につながるポンプを囲うような形で側壁の建設を決め、
昨年9月に設置を完了した。
 
 北側の壁は関連工事が終わっていなかったため被災したが、
南側の壁内のポンプは守られた。
 
 東電の場合は、耐震指針の見直しを受け、
各原発の状況の再チェックが始まっていたが、
津波よりも揺れに対する強さの検討が優先されていたとされ、
作業途中で第一原発が被災する結果となった。
 
■朝日新聞社